02話 待ちわびて
アトラス城内のホールの奥には、金や銀で輝く装飾が施された大きなモミの木が立っている。その下でエリー王女が来賓を迎えていた。
「メリークリスマス」
そんな挨拶が飛び交い、エリー王女は笑顔を振りまいた。所狭しと飾られたクリスマスのオーナメントがキラキラと輝き、それを映すエリー王女の瞳もまた輝きに満ちていた。
毎年アトラス城で行われるクリスマスパーティーは、国内の貴族等を招くだけなのだが、今回は絆を深めるという名目で、各国の代表者を招待した。そして、ローンズ王国からはセイン王子が来ることに決まった。
結婚の約束をしてから会っていないこともあり、エリー王女はこのことが決まった日からセイン王子との再会を今か今かと待ちわびていたのだ。
しかし、午前から開催されたパーティにもかかわらず、セイン王子がなかなか現れない。エリー王女は、来賓への対応に追われつつも、常にセイン王子を探していた。
「大丈夫だよ。すぐ来っから」
アルバートが励ますと笑みを返してはくれるものの、エリー王女はどこか寂しそうだった。
そんな状況が続き、アルバートは苛々を募らせた。日は傾き、空は真っ黒な闇で覆われる。それでもセイン王子が現れる気配はなく、エリー王女は窓の外をぼんやりと眺めた。そこに映るキラキラと輝くこの場所が、かえって寂しさを募らせたのだった。
「エリーちゃん、疲れたっしょ? 少し奥で休もっか?」
朝からずっと楽しみにしていたエリー王女のことを思うと何ともいたたまれない。何度か休憩を促したが、「いつセイン様がくるか分からないので……」そう言って拒んでいた。しかし、流石に心も疲れてしまったエリー王女は、アルバートの勧めで休憩を取ることにした。
ホールから出て、廊下を歩いている時だった。
「遅くなって申し訳ございません」
後ろからそう声をかけてきたのはアランだった。普段は側近として側にいるアランだったが、王命を受け、セイン王子と共にデール王国に行っていた。ということは、セイン王子も一緒に到着したということ。エリー王女は瞳を輝かせた。
「アラン、お帰りなさい。この度は大義でした」
エリー王女のねぎらいの言葉にアランが深く頭を下げると、アルバートが肩を叩く。
「もう、おっせーよ! なんかあったんか?」
「ああ、少しな。しかし、そっちの件については問題ない。それよりアルバート、交代する」
「そっか。ん~、じゃあ、よろしくな。エリーちゃんは、セインを待って一回も休憩していないから」
アルバートがその他にも状況を伝え、引き継ぎを行う。
「んじゃ、俺行くわ。また後でここに戻ってくっから。エリーちゃん、良かったな」
「はい。アルバート……ありがとうございました」
「会ったらすぐ休めよ!」
エリー王女の嬉しそうな顔を見たアルバートは、満足そうに手を振って立ち去った。
「エリー、セインはもう会場に入っていると思うがすぐに挨拶しに行くか? それとも休憩しておくか?」
「い、いえ! ご挨拶に伺います!」
薄く頬を染めたエリー王女に、アランはふっと笑う。
「そうだよな。あいつも楽しみにしていたから、すぐに顔を見せてやった方がいい」
アランからホールへの扉を開けてもらうと、エリー王女は先ほどよりも眩しく感じるそこへ足を踏み入れた。直ぐにセイン王子を探すが、かなり多くの人がおり、なかなか見つけることが出来ない。逸る気持ちを抑えつつ、ゆっくりと奥へ進み出た。
そして遂にセインを見つけた。
「セイン様――――」
花が開いたような笑顔で声をかけた瞬間、胸に大きな痛みが走った。エリー王女は見てしまったのだ。セイン王子の腕に添えられているしなやかな手を。思わずその場で立ち止まり、動けなくなってしまった。