11話 クリスマス会
ホールの壁沿いにはいくつかのソファーが置かれている。その一角でエーデル王女は身を乗り出して楽しそうに話をしていた。その相手はエリー王女。
「なんだかエリーを取られた気分だよ」
そう言いつつもセイン王子は楽しそうに笑う。クラウド王子も幾分か緊張が溶け、笑顔で三人を見ていた。
「あら、私は今しかご一緒出来ないんですもの。少しくらい譲って頂かないと。ああ、ですが、エリー様が迷惑しているのかは私には分かりません。エリー様、もしそうなのでしたら遠慮なく何でも仰ってください」
エーデル王女はエリー王女の手を取り、体を密着させる。これが彼女の距離感なのだ。
「いえ、迷惑などとは思っておりません。このように好意的に思って頂けて、私は嬉しく思います」
こんなにも好意的に思っていたエーデル王女に対し、嫉妬心であれほど歪んでエーデル王女を見ていたのかと思うと、悪いことをしたとエリー王女は反省していた。
「ああん、エリー様ってとてもお優しい! さすがセイン様が好きになられたお方ですわ。私、絶対素敵な方だと思っておりましたが、想像以上に素敵で……可愛いっ」
エーデル王女は腕を絡め、頭をエリー王女の肩に乗せる。そして幸せそうに瞳を閉じた。
「なんて幸せなクリスマスなのかしら。こんな楽しいクリスマスは初めて……」
「エーデル様……。私もとても楽しいです」
エリー王女は、セイン王子と目を合わせると幸せそうに微笑み合った。
クリスマスパーティー後半は、シトラル国王と交代したためエリー王女は後ろに下がった。しかしセイン王子はホールに残り、シトラル国王のお相手をしてる。そのため、アルバートが開催したクリスマス会には、なかなか行くことができなかった。
「ごめんごめん、お待たせ!」
セイン王子は息を切らしてアラン達の部屋に入ってきた。
「おぅ、お疲れ~。大丈夫、もう始めてっから」
「私は待ちましょうと止めたのですが……。すみません」
「あはは、ギル。むしろ待ってなくて良かったよ」
部屋の中で慌てて立ち上がるギルとアリス。アルバートはソファーの上でお酒を掲げていて、セイン王子は笑いながらその場所に近づいた。
「セイン様、こちらを。今日はご一緒させていただきありがとうございます」
「ううん、そんな固くならずに今日は楽しもう」
セイン王子はアリスから満面の笑みでシャンパンを受け取る。それでもアリスは丁寧にお辞儀をした。
「あれ? アランは?」
「ああ、アランならマーサさんと二人で追加のつまみを取りに行ってるって、あ、丁度戻ってきた」
入り口を見るとアランが扉を開けて、マーサが入ってくるところだった。
「よぉーし! みんな揃ったな! エリーちゃん、こっちこっち。セインの隣に」
「あ、は、はい……」
恥ずかしそうに、ちょこちょこと歩いて隣に座る。そしてセイン王子と顔を見合わせ、幸せそうに微笑み合った。
「はいはーい、アランとマーサさんも座って!」
マーサは持ってきたワゴンから料理を取っていると、アルバートに声をかけられ驚く。
「いえ、私は――――」
「なぁーに言ってんすか! 手伝わせるために呼んだんじゃねーっつうの! こういうことは自分たちでやるから。ほら、マーサさん座って!」
断ることを分かっていたアルバートは、マーサの手を引きアランの隣に座らせた。エリー王女も笑顔でマーサを迎え入れる。
「マーサさん、どうぞ……」
「……ありがとうございます」
アランは隣に座ったマーサにジュースを渡すと、マーサは嬉しそうにそれを受け取った。
「ちょい! ギルとアリスちゃんも何で立つかな! 今日はクリスマス! 無礼講だから! いつも通りで!」
「うん、そうだよ。ギル、アリス、座って? 無礼講無礼講」
セイン王子の言葉にギルとアリスは顔を見合わせる。ギルが頷くとアリスは小さく息を吐く。
「そう……いうことでしたら、はい。……失礼します」
隣に立つギルの袖を引っ張って、アリスはギルと一緒に座った。やっと六人全員がソファーに腰を下ろしたことを確認したアルバートは、手にしたシャンパンを掲げる。
「ほいじゃ、改めまして~~~」
アルバートの声に合わせて皆もシャンパンを右手に持ち、掲げる。
「メリークリスマス!!」
「メリークリスマス!!」
エリー王女は輝くシャンパンと皆の笑顔を見つめ、幸せを噛み締めた。