染物屋も始めました
「柿?」
そう言えば村にはポツポツあるよね。柿の木が。
果樹園にないのは何でだろう?
「この柿の木、何でこんなにまばらにあるんですか?」
ここに一本、向かいに一本、少し離れた所に二本と言った具合に村のあちこちに散っている。
「切り倒す労力が割けないからです」
メラスさんの予想外の答えに言葉が出ない。
「えっ?柿、食べないんですか?」
「甘柿ならいいのですが、この村のは全部渋柿なんですよ。食べるなんてとてもとても……。昔いたゼンキチ・カトーっておじいさんが、どこかの商人に騙されて苗を植えたんです。いつかこれが宝になるって信じてました」
うん?ゼンキチ・カトー?何か日本人っぽい?
「そのおじいさんは……?」
「十年以上前に亡くなりましたよ」
何だ。がっくり。お会いして見たかったよ。私と同じ転生者かもしれないのに。
しかし渋柿かあ。確かに明らかに手入れされてないもんね。
そう言えば村の生産品リストの中に柿は無かった。
渋柿なら当然か。
ここで例のアイコンがチラついた。
こっそり見てみると。うん?染物の原料?
柿渋染め?聞いた事はある、ような?
ただ、もう少ししてからの方が実も大きくなるし、染物成分も多くなるから良いらしいのだが。ふーん、染物か。その発想は無かったわ。
でも渋柿だし、正式に栽培してるわけでもなし、物は試しだ。
地面を見ると、何個か青い実が落ちている。
それらを拾って手持ちの布に包んだ。
「ルーナさん?それをどうするのですか?」
「あの、ちょっと試して見たい事がありまして。この村に染物屋ってあります?」
「ありません。でも実家が染物屋な者ならいますが」
おっと。専門じゃないのか。でも構わない。こっちは全くの素人だし。
「その人を紹介してもらえませんか?」
そう言うと変な顔をされた。何でだろう?
「ルーナさんの方が親しいのでは?」
うん?心当たりは無いんだけどな。
「ジョシーですよ。この間は随分親しそうに見えましたが」
おお!女子会にいたあの色気たっぷりのお姉さん?
彼女が村で唯一の染物経験者なのか!
「染物をするんですか?」
「これからしてみようかと」
拾った柿の実の包みを振って見せた。
そんな物が染物になるのか、と訝しげな表情だをされた。しかし!
ふっふっふ。この新しい能力、状態解析は本当に使える能力なんです!
腐蝕限定だけど、使い所が今一分からない物でもナビゲートしてくれるありがたい能力なんだよね。本枯節からずっとお世話になってます。
一通り村を回ったので、一度家に戻ることにした。あれ?ローズもソラヤも出かけてるのか。
余ってる壺に柿の実を切って入れ、水を足して発酵魔法をかけておく。
メラスさんが何か言いたげだったけど、あえて黙殺した。
後でジョシーさんの所に持って行こう。
「銀杏と柿の実の染物ですか。梅干と合わせれば大収穫だと思います」
「そうですか?まだ物になった訳でもないですよ?」
謙虚に返したけど、実は結構自信がある。
植物に関しては、なぜか異世界感が全くと言っていいほどないのだよ。
まあ、ドライアドとか、毒や薬になる魔法植物とか襲ってくる触手生物とか、魔物感あふれるのは別だけどね。
食用の植物は見た目とか味とかはほぼ地球の物と同じだし。
作業が一段落した所でメラスさんが切り出した。
「それはそれと、成功報酬の話もしなければならなかったですよね」
おお?そうか。梅干はすでに売る事が決定してたんだっけ。
「売り上げの一割でいかがでしょうか」
うーん。レシピだけで一割か。本の印税とかが確かその位だっけな?
現物はここで作ってる物だし、自分で加工するでもないし、労力とかもろもろ考えればその辺りが妥当かな。
ガイウスに相談すると「二割」とか言い出しそうな気がするよ。あれで結構がめついから。さすがにそれは貰い過ぎだよね。この村の経営も危ういんだし。
実を言えばもっと欲しいものがあるにはある。
チラリとメラスさんの横顔を伺う。
「一割ではちょっと」
「安過ぎますか?」
「ええ」
「……二割は難しいです」
「でしょうね」
だから、と前置きをした。レーザーとは言わないように気を付ける。
「一割の他に光魔法を教えて下さい。私も鉄骨が切れるようになりたいです」
「……それだけでいいんですか?」
それだけって。
この世界に鉄骨を焼き切れる人がどれだけいるんだっての。
鍛冶職人だって喉から手が出るほど欲しい技術じゃないの?ずれてるなあ。
「一先ずその線で考えて頂ければ。細かい部分はまた相談しましょう」
「分かりました」
やったね!これでレーザー魔法が手に入るよ!
火魔法が使えない私の攻撃力が一気に上がるね。
しかし、本当に何で初歩的な火魔法が使えないんだろうか。
余程相性が悪いのかな。
多分腐蝕のせいだろうな、と目星は付いている。
火が腐蝕を浄化しちゃうから?的な予想をしてはいた。
となると、浄化の聖属性魔法も習得出来ないんだろうか。
そう考えると神様の祝福がありがたいような、ありがたくないような。いや、神様。とってもありがたいですよ!毎日感謝してます!しまくりですよ!
うん。この位感謝しておけば何かの時に力になってくれるよね。
手持ちの古着を切り分けた布と、いい具合に発酵した壺を抱えてジョシーさんのお宅に向かう。
野菜農家だから畑に出てるかな、と思ったが、ジョシーさんは家にいた。
「あらあ、ルーナ!いらっしゃあい」
出迎えてくれたジョシーさんのスカートの陰に、まだ小さい女の子が隠れていた。やや切れ長の目元がジョシーさんそっくりだ。
「急に来てごめんなさい。こちら、お嬢さん?」
「そうよお。まだ小さくって。シャミラ、こちらはルーナよ。ご挨拶して」
だが、シャミラちゃんは完全にスカートに顔を埋めてしまった。
どうやら照れ屋さんのようだ。
「あらあら。うちの子がごめんなさいねえ?」
「いえいえ。急に来たこっちが悪いので」
挨拶もそこそこに本題を切り出した。
「メラスさんから聞いたんですけど、ジョシーさんのご実家が染物屋さんとか」
「そうよお?」
「ちょっと試しに染めて欲しい物があるんです」
「なあに?」
壺を差し出すと、フタを開けて匂いを嗅いでいる。
「……うーん?これ、何かしらあ?」
「柿の実です」
「柿い?」
「はい。これです」
現物である拾った青い実を見せた。
「実を使うの?うちでは木の皮とか、根を良く使ってたから……自信はないわあ」
あー、そう言えば最初のクエスト、染物の洗い物だった。
確かに樹皮とか根が多かったっけ。いや、確か木の実はあった。はず。
「お願いします。他に染物が出来る人がいないんです。試しだけでも良いんですが」
ここで断られたら終わりだ。
自分で染めるとしたら手探りでやるしかない。
「それじゃあ、本当にまずは試しだけねえ?」
「はい!お願いします!」
「ルーナも手伝ってねえ?」
「もちろんです」
これは楽しみだ。染物なんて初めてだもん。ワクワクする。
「そうねえ……普通なら材料を洗ったり、煮て色を出したりするんだけど。これはもう液体だしねえ?どうしようかしらあ?」
ジョシーさんはこれだけじゃ足りないわあ、と言って家にある端切の布をかき集めてきてくれた。
染物をしようってのに、布を少ししか持って来なかった事に反省だ。
「うーん。このまま漬けて見ましょうか。はい、これを全部入れてえ?」
「こうですか?」
「そうそう。一日漬けたら取り出してえ、布は水で洗ってまた漬けてねえ?」
「はい」
「ルーナが気に入る色になるまでそれを繰り返すのよお?」
うん?何だかえらく簡単に聞こえるな?
「繰り返すんですか?」
「染物って、基本は漬けて洗うの繰り返しよお」
そうなんですか。初めて知りました。
「じゃあ、後はがんばってえ!」
えーっと、手伝いじゃなく自分で染める感じですね。
まあ、ジョシーさんはお子さんいらっしゃるから、そうそうお時間取れないのは分かるんだけどさ。
うー。自分で始めた事だし仕方ない。
染物、やってみますか!
お読み頂き、ありがとうございます。
柿は使い所に悩みまくりました。
当初の予定では柿酢と干柿、後は柿の渋みを抜いた物の予定でした。(正式名称を知らないもので……)
でも酢は使い過ぎだし、他は腐蝕がメインじゃないし、思い切って食べ物以外に腐蝕を広げることにしました。よく考えたら金属腐蝕も使ってるって事で。
前話で活動報告を上げた所、全く反応がなかったので、調子に乗ってまたメラスの出自を活動報告にアップしました。意外でも何でもない上に、本編に全く出てこない設定です。
次もなるべく早く書きます。




