まさかの 異世界トイレ事情
分けどころが分からず、長くなってしまいました。
若干のシモ注意です。
この世界の文房具は高い。
そもそも文字を書くという事自体があまり一般的ではない。
文字を書くのは、貴族、商人、役人、学者がほとんどだ。
町には代筆屋があり、ギルドの依頼も大半がここで行われる。
ただし、読むだけならできる、という者も多い。
ステータスを開いたり、値札や看板を見ている内、何となくわかって来るらしい。
学校はあるけれど、貴族が通うもの。
一般人は立ち入りさえ禁止されている。
そもそもこの町にはないし。
ルーナが一応でも読み書きできるのは、聖書のおかげだ。
教会では、神の教えを広める為、子供たちに文字を教えているに過ぎない。
あくまで布教活動の一環。
文字を書く絶対数が少ないので、文房具も高くなる。
羊皮紙もペンもインクも、材料自体が高い。
ついでにお金の話をすると、この国では、お金の単位は『ギル』。
最初に貨幣を導入した時の国王、『ギルバート』に因んでつけられたそうだ。
1ギルからあるけど、実質は10ギルからが一般的に使われている。ちなみに日本と同じ十進法なので、計算は楽だ。
1ギルは金属片とか外国の硬貨が使われている。正式な硬貨ではない。
硬貨と言っても金や銀じゃないやつね。そっちは別に取り引きされている。
1ギルは子供への駄賃とか、ちょっとおまけしました、って時にチップ感覚で渡される感じ。
次は10ギルで、小さい銅貨。
100ギルは大きな銅貨。
1,000ギルは小さな鉄貨。
5,000ギルは大きな鉄貨。
ここだけなぜか5の区切り。
多分使い勝手がいいんだろう。
鉄も中々貴重な金属だし、流通量を抑えたいのかも。
1万ギルは銀貨。
10万ギルは金貨。
さらに上があるらしいが、市場には出回らない。
宝石や魔石も、通貨の代わりになっている。
物価は大体、10ギルが100円くらいみたい。
物によって価値観違うから、一概には言えないけど。
今、ルーナの所持金は、2万ギルと少し。
日本円に換算すると20数万円。
これは、成人後の生活に当てなければならない。
いわば貯金のように貴重なお金なので無駄遣いはできない。
ともあれ、ルーナの所持金では、市販の文房具を買うなんて夢のまた夢。
羊皮紙1枚で800ギルはする。買えないこともないが、インクもないのに紙だけあってもしょうがない。
買ったとしたって、下手したら盗まれる可能性だってある。
教会って、人の出入り自由だからね。
(しょうがない……。無い物は無いんだもん)
しばらくは脳内整理。それしかない。
ーー21世紀の日本はつくづく恵まれていた。文房具のみならず、大抵の物はすぐに買えた。
物に困るなんて、そうそうなかった。
だが、後悔は一切ない。
それは……ここでは魔法が使えるから!
魔法が、使えるから!
はい。大事な事なので、二回言いました。
「ルーナぁ。あたし、お花摘み行きたい〜」
食後のお祈りが終わった途端、袖を引っ張って来たのは、まだ小さいロッテだった。
多分4、5歳くらい。茶色いおかっぱ頭に、珍しい緑色の瞳の女の子。
ーーお花摘みって、異世界も共通なんだね。
要するにお手洗いです。
ここでは、6歳までの子供のトイレの世話はルーナに任されている。
それより大きい子は、各自で済ませている。
「よし、行こうかロッテ。他に行きたい子は?」
案の定、全員が手を上げた。
「オッケー、順番ね。ロッテからついて来て」
「うん」
裏口から外に出ると、庭の茂みの近くで土魔法をかける。
留宇奈にして見れば初魔法だ。
「アースホール!」
地面に用を足すのに充分な穴が開いた。
ロッテは素早く用を足し、持ってきた葉っぱで拭く。
「終わったよ」
「ん。アースリカバー」
開いてた穴が元どおりふさがった。
「ロッテ、次の子呼んできて」
「うん」
ロッテが教会にかけて行くのを確認した。よし、今だ。
「ステータスオープン」
次の子が来る前に、ステータスを確認する。
今まで魔力の消費量とか考えずに、魔法使ってたからね。
効率とか成長とか。よく観察して強くならなくちゃね。
……魔法が何に使われているのかじゃなくて、魔法を使ってるってのが大事なんだからね。
魔法の使い道、トイレだなんて、気にしてないからね。
うん、ぜんっぜん気にしてないから。
……嘘です。ちょっとだけ、いや、かーなーり気にしてます。
でも!魔法!
今の私、魔法!使ってるんだからね!
魔法少女ルーナなんだからね!
今のステータスはこんな感じだ。
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名前:ルーナ(エリゼ)
レベル:3
年齢:12~13
体力:7/12
魔力:20/22
スキル:
異世界神の祝福《腐蝕》:レベル MAX (他者鑑定拒否)
土魔法:レベル2
風魔法:レベル1
腐蝕耐性:レベル1
装備:古着 古靴
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思った通り、魔力が減っている。
2回使って2減ってるって事は、1回1魔力消費してるわけね。
へぇ……。
んんん???待てよ???
6歳以下の孤児は7人。
それに自分自身の分も足したら8人。
一人1回2魔力だから、必要な魔力は16。
持ってる魔力は22。
22 - 16 = 6。
……ってことは。
たかがトイレに魔力使い過ぎてない?
トイレって、1日に何度も行くよ?
時間が経てば、魔力は回復するんだろうけどさあ……。
そりゃあルーナ、いつもフラフラなワケだよ。
魔力切れおこしてれば注意力も散漫になるし、色々失敗だってするよ。
それで食事減らされて……って、ブラック企業もびっくりだよ。
穴掘りか埋める方か、どっちかだけでも手で……は、やりたくないな。
不衛生だし。
ここはなんとかしないと。
しかし、教会に限らず、この町には決まった場所で用を足すなんて習慣はない。
困った事に、ちょっと草むらで……が、一般的なのだ。
辺りを見回し、何かいいアイデアはないか、と考えてみる。
やっぱり一番の解決策は、トイレを作る事。
それはいいけど、使ってもらわなきゃならない。
じゃないと意味ないし。
近くに川があれば水洗にできる。
でも、ない。
さて、どうしたものか。
そうこうしている内に、今度は小さい影が近づいて来る。
仕方なくさっきとは別の場所に穴を開ける。また1魔力が減る。
「はい、トビー。終わったら教えてね」
小さくても男の子なら、近くに女の子がいない方がいいだろうな、と向こうに行きかけたが、「やだあ」と泣かれてしまった。
「ルーナ近くにいてよ〜。怖い〜」
「……何が怖いのよ?」
「分かんない……。落ちそうだもん……」
1魔力で掘れる穴に落ちた所で、ちょっとよろけるくらいなのに。
トビーの怖がりにはこれまで散々振り回された。
いい加減ウンザリする。
しかし、留宇奈だった頃、確かに自分も和式のトイレは怖かった。
穴から何か出てきそう、とか、意味なく落ちそう、とか。
……やだ。トビーを笑えないわ……。
はて?いつからトイレが怖くなくなったんだっけ。
いや、自宅のは怖くない。それは断言できる。
学校とか、旅行先……修学旅行……。
違いは?何か共通点があるはず。
「あ……」
分かった。
洋式なら怖くなかったんだ。
ま、中学に上がる前には、和式も怖くなくなったけどさ。
うーん、洋式かあ……。
でも流せないしなあ……。
いや、待てよ。どの道流せない。
水魔法使えないし、近くにある水源は井戸だけ。
使えるワケない。
と、なると穴を掘るしかないわけで。
あれ?一人づつ穴を掘る必要、ないんじゃない?
深く掘ればいいだけのような……。
物は試し。やってみるか。
「ディープアースホール」
すると、2メートルくらいの深さの穴が開いた。
「ディープアースホール」
念の為、もう一度かけて、合計4メートル近い穴になった。
これならちょっとやそっとじゃあふれないね。
こっそりステータスをのぞくと、4魔力減っている。
深く掘ると1回2魔力か。
残り15魔力。
ここに洋式っぽい便器があれば、それっぽいかな。
「アースクリエイト」
できるだけ正確に思い出しながら、作り上げて行く。
フタこそないものの、かなり近い形に出来上がった。
ぐずるトビーのズボンを下ろし、できたての便器に座らせた。
「ほら、もう怖くないでしょ?」
「……うん」
座ったトビーも驚いたようだ。
しかし、本当に怖さが消えたようで、上機嫌で用を足している。
魔力の残りは13。
このタイプのトイレを1日に1回作ったとしても、前よりは魔力の消費量は少ないよね。
穴を埋める分を考えても、毎回毎回掘って埋めるよりずっといい。
何より、ルーナの魔力切れを心配しなくていいんだし。
しかしトビーと入れ替わりに来た、ジャスミンが、屋外でむき出しのトイレを嫌がった。女の子はまた違うわ。
仕方なく、土魔法で囲いを作ったらようやく納得してくれた。
それでも残り魔力は9。
最初の予定じゃ6しか残らなかったんだから、大成功だ。
小さな事だけど、やりとげた感がハンパない。
……ま、トイレだけどね。
いやいや、問題は魔力。
私は魔力問題を解決したんだ。
うん、トイレ問題じゃない。
魔力だよ!
そう。これからは、魔法の修行もするぞ!
今までしたくても出来なかった。
転生者ルーナ、世界無双に向けて、一歩を踏み出すぞ!!
誰もいない中、ルーナは空に向け、ガッツポーズをくりだした。
文房具ネタのつもりでしたが、急に思い付いてしまい、こんな内容です。
次回より、本物の成長ネタになる予定です。
よろしくお願いします。