表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/186

転生しました

成長編、スタートです。

ーー風が心地よい。

こんなに広い草原を最後に見たのはいつだったか……。

季節は初夏かな?暖かく爽やかな陽気。


ここが……異世界?

辺りを見回すと、やや曇りがちな空には、大中小の三つの白い月が浮かんでいる。

遠くには森らしき物といくつかの山、高い建物の尖塔。

地球にもこういう景色はどこにでもありそうな気がする。


とてつもない違和感と同時に、見慣れた景色、という感覚がある。

森は『黒の森』。狼が出るので危険だ。

山は『フォルト山』。あの向こうには王都に続く街道がある。

ーー私は知っていた。


何でこんな知識が?

訳が分からず、思わず体をぎゅっと抱きしめる。


だが、そこにも違和感があった。

「細っ!腕、細っ!」

二の腕をつかんでいるはずなのに、小枝をつかんでいるかのような感触に驚き、全身を触りまくった。

……どこもかしこも激細い。


スーパーモデル、という線は無さそうだ。

この体、どう見ても子供です。一応女の子です。

お察しの通り、栄養状態は良くありません。


おまけに身につけている服は、清潔ともきれいとも言いがたい。

エプロンドレスならぬ、エプロンワンピース?に、いくつかの継ぎはぎ。


ーーコーン、コーン。どこかから高い音が聞こえる。

いけない!教会の鐘だ!帰らなくちゃ!

……ううん。まだお昼の鐘だ。今日は夕方の鐘までに帰ればいいんだっけ。


突然、そんな考えが浮かぶ。鐘で帰るって何だろう?


……ちょっと情報を整理しよう。まずは自分のこと。

ーー私は鈴木留宇奈。二十一世紀の地球、日本から転生した。

ーーあたしはルーナ。捨て子。教会で働きながら暮らしてる。


ん?全く同時に二つの情報が出てきたぞ。しかもどっちも間違っていない。そう感じる。

ちょっと深呼吸しよう、スー、ハー、スー、ハー……。


あ、落ち着いたら少し分かってきた。

留宇奈が転生した先がルーナってことか。

ルーナも驚いている。何で自分にこんな知識が?って。


留宇奈はルーナの過去を探ってみた。


ーー物心ついた時、ルーナはすでに教会にいた。

シスター達や、当時いた年上の子たちからの話で、自分の生い立ちを知った。


まだ赤子の頃に教会の前に捨てられていた事。

親や親戚の情報どころか、自分の名前もなかった事。

誰か親切な人の養子にでもならなければ、成人する十五歳までは教会にいられる。

しかし、それ以降は自分の力だけで生きていかなければならない事。


そしてルーナは今、多分十二歳くらい。

読み書きは最低限できる。

ただ、教会は決して豊かではない。

ルーナのような孤児をあちこちへと働きに行かせて、お布施で足りない生活費を稼がせる。


臨時働きでは、職業技能は手に付かない。

いや、雇う方も意識して手に付けさせないようにしている節がある。

ルーナは将来をすごく心配しているが、どうすればいいか分からず、不安なまま日々を過ごしている……。


ーーふー。孤児か。

中々ヘビーな生い立ちだ。

しかもルーナは、自分に祝福の力があることを知らない。


今度はルーナが留宇奈の過去を知りたがった。

無理もない。突然変な人格?が現れたんだもん。むしろ当然か。

そこで、留宇奈はまだ日本にいた頃の事を思い出して見る。


ーー自分の為だけに生きる両親の間に生まれた、姉と自分。

そのくせ二人は顔を合わせればケンカばかり。

離婚しないのは体面を気にしているだけ。


姉は姉で妹の事など、人とも思っていないのか、よくいじめられた。

友達はいたが、家庭の話題を避けていた為、それほど親しくなれなかった。


高校生になり、アルバイトでお金を貯め始めた。勉強より夢中になれた。

卒業と同時に就職して家を飛び出した。


それ以来、家族には会っていない。連絡はメールだけ。


就職してからも色々あった。


不景気のあおりを受け、最初の勤め先は事業を縮小するハメに落ち入り、留宇奈のいた部署がなくなってしまった。そう。リストラ。

つなぎのつもりで派遣社員になったが、結局再就職出来なかった。

なるべくいい給料を求めて、勤め先も住所も何度か変えた。


そんな中でも、親しくしてくれた人もいた。長続きはしなかったけど。

彼氏は何度かできたが、結婚までは行かなかった。


そしてーーあの事故に遭った。


ーー気がつくと留宇奈(ルーナ)の頬が涙で濡れていた。

お互いの境遇に同情しているうちに、留宇奈とルーナの意識は違和感なく1つになっていた。

どっちも自分なのだと信じることができた。


無くしていた自分のカケラを取り戻したかのような、不思議な充足感。

もう大丈夫だよ、ルーナ。留宇奈がついてるからね。

だから、これからはこの(異)世界で、幸せになろうね!


涙がおさまると、陽はかなり西に傾いていた。じきに教会の鐘が鳴る。

ルーナは通い慣れたと感じる道を、足早に教会へと進んだ。

お読み頂きありがとうございます。

一応赤子スタート編で進めていたのですが、小さな子供が両親に捨てられるシーンを書くのが辛くて、やめてしまいました。

それで、こんな半端な年齢スタート……機会があれば書き直すかもしれません。

その時はよろしくお願いします。


12/10 季節感と3つの月の設定を追加しました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ