マダムの忠告
お待たせしました。
「さあ、お連れ様にも見て頂きましょう?」
ええー?このデ◯モン閣下メイクをですか!?
鼻を高く見せる為なのか、鼻の両脇に引かれた薄いグレーの筋。
ほほ骨の上には赤すぎる頬紅。
それとは反対に頬は細っそり見せる為か、外側が暗めに塗られている。
アイメイクはドが付くほど派手で、目の縁はビッシリと黒い隈取りに覆われ、まぶたより上はピンクとグリーンで縁取られている。
これだけでも孔雀みたいなのに、上下ともまつ毛にはマスカラが半端なく塗られてる!
おまけに口紅!
一回り大きく口を描くのは……まあ、いいや。
けど、塗り方!ピラミッドか!!
一番下は濃い目の赤、そのすぐ上は普通の赤、その上はバラ色、濃い目のピンク、薄いピンクと上に行くにつれて薄くなって行く。
のはいいんだけど、上に重ねた口紅は下に塗られた物より一回り狭く塗ってある。
色の重なりが一目で分かるって……ありなの?
立体的過ぎるよ。
「ほら、皆さんお待ちかねですよ?」
「こんなに綺麗になりましたのに……。もったいないですわ!」
メイク担当のメレディスさんに言われては仕方ない。
うー。今日は笑われても、今度から自分でメイクすればいいんじゃない?
……うー、でもやっぱり嫌だー!
中々動こうとしない私に焦れたのか、金髪のシシリーさんがドアをガチャリと開けてしまった。
「ルーナ様のお連れの方。どうぞこちらへ」
「おっ?出来た?」
「遅かったです!」
シシリーさんに促されて二人が狭い部屋に入って来た。
こ、こんなに近くにいたのか!!
もう、逃げ場はない。
ぐぐう……こうなったらもう、腹をくくるか!!
「……ど、どう、かな?」
二人の前でクルリと一回転してみた。
「うわー!ルーナ、なんか大人っぽくていいです!!」
ローズは手放しで褒めてくれた。嬉しいには嬉しいんだけど……。
ええー?デ◯モン閣下メイクだよ?
ローズ、意外と趣味悪いのかな?
「あらあら、こんなに狭い場所で。あなたたち、お客様に失礼ですよ。ささ、お客様。こちらのサロンへどうぞ」
出た。マダム・リリーだ。
「まあ、ルーナ様!よくお似合いですわ。さ、お疲れでございましょう?こちらでお茶でもいかがですか?」
うっ。確かに喉はカラカラだ。
疲労感も半端ない。
「頂きます」
差し出されたティーカップの中身を一息で飲み干すと、ようやく人心地がついた。
因みにガイウスは、「化粧、濃くね?」の一言だった。
感想それだけか!
まあ、あんまり変な反応されるよりはいい……いい、のか?
マダムは、色違いの服を数着すでにオーダーした、と告げて、受け取り札を差し出して来た。
「明日の昼過ぎにはお届けできましてよ」
との事だ。
まさか今夜は徹夜で仕上げるとか?
お針子さん達、ごめんなさい。
最後にマダムは、今日使ったメイク道具一式をまとめて小さな箱に詰めて手渡してくれた。
「ご開業、おめでとうございます。ルーナ様。当サロンからのお祝い代わりに、こちらをお持ち下さいな」
「え?いいんですか?」
アイテム数がそこそこ多いし、これだけでもかなりな金額になると思うけど。
「もちろんですわ。こちらのローズちゃんから伺いましたの。ルーナ様はまだお若いのに、きちんとわきまえていらして、嬉しゅうございますわ」
「エッヘン、うちのルーナはすごいんですー!」
ローズはむふん、と胸を張る。
「ええと……何の話でしょう?」
話が見えないんだけど?
「あら、嫌ですわ。おとぼけになって」
ほほほ、とマダムは優雅に笑う。
「ルーナ、前に話してくれたです。冒険者になりたての頃、身だしなみを整えたら、みんなの態度が変わったって話です」
「ああ……そう言えば……」
そんな話をしたような、しないような。
マダムは深くうなずいている。
「素晴らしいですわ!その通りです。人は結局の所、人を外見で判断しますわ。ルーナ様はもう、一介の行商人ではなく、歴とした店の女主人なのです。言わばお店の顔ですわ。それに相応しい装いをなさらなくては」
マダムの言葉にハッとした。
そうだ。私はもう、あの店の主なのだ。
いつまでも冒険者崩れの、ズボンスタイルの古着じゃダメなんだ。
勇気を出して、もう一度鏡を覗く。
うん。悔しいけど、どう見ても今の方が店の主には相応しい。
しかし、そうか。
ローズはローズで色々考えてくれたのか。嬉しいな。
「ローズ、ありがとう」
「どういたしましてです」
「マダム。今日はありがとうございました」
マダムにも振り返って深々とお辞儀をした。
「いえいえ。どういたしまして。それが仕事でございますから。でもルーナ様?わたくしにできるのはここまでですわ。ご商売が軌道に乗るかどうかは、ルーナ様次第でしてよ?」
マダムは意味ありげな視線を送って来た。
うん。この方の人生にも色々あったんだろうな。
「はい。分かっています」
外見だけで商売は出来ない。マダムが言いたいのは、こういう事だろう。
「ルーナ様。ぜひ、またいらして下さいな」
「はい、マダム。ありがとうございます。みなさんにも、今日はありがとうございましたとお伝え下さい」
そう、四人のスタッフさん達は、もう別の仕事をしている。
「ええ。もちろん伝えますわ」
マダムに別れを告げて、美容院を出た。
ーー入る時はあんなに恐ろしかったのに、出ると寂しく感じるのが不思議な感じ。
今出てきたばかりなのに、また行きたくなっている。
ぼんやり歩いていたのが悪かったのか、通りの向こうから歩いて来る人の肩にぶつかってしまった。
「あ、すみません」
丁寧に謝ったつもりだが、相手が悪かったようだ。
「おうおう、どこに目を付けて歩いてんだよお?」
お読み頂き、ありがとうございます。
無駄に長くなってしまい、分けました。
今日中にもう一話上げられると良いんですが。
次こそ、新キャラ出せるように頑張ります。




