お決まりのプロローグ2
もう少しプロローグ続きます。
「ここはあらゆる世界の外。どこにでもあり、どこにもない」
映画とかで聞いたようなセリフに、思わず吹き出した。
「ちょっ……吹き出すとか失礼じゃない?こっち、神様だよ?」
「えっ?」
良く目をこらすと、少し離れた場所に、小さな男の子が口を尖らせていた。
ぷくっとした頬にクルクルの巻き毛。背中に羽があれば、神様ってよりは天使に見えただろう。
しかし、この状況…。
もしかして、最近流行りのアレか?
勇者召喚、みたいな?
そう、鈴木留宇奈は、ややオタクだった。
無料ゲームは大好きだし、その手の転生系小説も良く読んでいた。
もし自分がそうなったらどうしよう、なんて想像したことも一度や二度ではない。
でも勇者かあ…。カッコいいけど大変そう。
あ、でも仲間たちと助け合って冒険とかいいな。
世界平和取り戻したら、イケメンの仲間の一人、いや、場合によっては全員からプロポーズされたりして……。
「プッ」
失礼な笑い声に、留宇奈の妄想は断ち切られてしまった。
「君、先走りしすぎ。あと、勇者召喚じゃないから」
「ちょっ……考え読めん、じゃなかった。……読めるんですか?」
わざわざ言い直したのは、相手が神様と名乗ったからだった。
今まで読んだ作品の中に、神様の機嫌を損ねて、不利な条件での転生や、残念なスキルしかもらえないパターンがあった。
ちょっと打算的だが、これからの人生がかかってくるとなれば、慎重にもなる。
「もちろん。神様だからね」
おお、やっぱりか。
「君、すごいね。普通こんな状況すぐに受け入れられないよ。死んだっていうのにさ」
半ばあきれたように少年、じゃなかった、神様は一片の紙切れを留宇奈に差し出した。
普通に受け取ったが、ちゃんと体があり、動くんだなあ、なんて事をぼんやり考えていた。
「読んでみて」
えーとなになに…?
「橋の崩落事故で女性一名が死亡。他軽傷者七名。六時間に渡って通行止め。出勤中の五千人に影響が出た。……これって……」
身に覚えのありすぎるシチュエーション 。
「そう。君の死亡記事」
自分の死亡記事を読む経験ができる人って、他にいないだろうな、と、またもやどうでもいい考えが浮かぶ。
「やっぱり、死んだんですね……」
「うん、そう」
神様のドライな話し方がリアルさを感じる。
「で、何で君を呼んだかって言うと、ポイントが貯まったから」
「ポイント?」
「そう。覚えてないだろうけど、前世では地元で知らない人はいないってくらい、慈善事業に励んでたし」
へえ~。やるじゃん、前世の私。
「けど、あとちょっと足りなかったんだよね。今の君になって、ようやく貯まったってワケさ」
「あの、基本的な質問ですけど、ポイントって何ですか?」
「あれ?伝わってなかった?魂の修行ポイントさ。輪廻転生しながらの」
ふむ。聞いた事ある。
「ポイント貯まると神様が迎えに来るんですか?あ、天国行けるとか?」
それはそれで悪くない。
「残念。そこまで貯まってない。けど、この先どうするか選ぶ事はできるよ」
選ぶ?
これは。
もしかしてチャンスかもしれない。
今までの人生、良かった事なんてほとんどない。
次があるなら、今度こそ幸せになりたい。
「えーと、選ぶって、具体的には……?」
声が上ずるのを押さえつけるのに苦労した。
「うん。まず一つ目は、普通に転生して修行ポイントを貯める。普通、選択肢はこれだけだから、わざわざボクは来ないね」
なるほど。まあ、妥当かな。
「二つ目。何か心残りがあれば、希望を叶える。もちろん、生き返りたいとか、過去を変えたりするのはなしだからね」
ああ、隠してた物を処分したいとかね。あるある。
「三つ目。転生先を希望できる。と言ってもこっちで用意した候補から選べるだけだけど」
おお。当たりを引けばこれも良さそう。
うーむ。
生き返れないなら、一つ目は却下だな。
二つ目は心残りか。
特にないんだけど。
家族だっていてもいないのと変わりないし、友達だって最近あんまり連絡取ってないしなあ。
仕事は、別に私じゃなければ、なんて事ないし。
あ!大事な存在を忘れてた。
「神様。大吉、じゃなかった、ペットがいるんです。あの子を保護してもらえませんか?」
「ハムスターでしょ?いいよ。って言いたいところだけど、君のマンションの大屋さんが、もう可愛がってるよ」
え?あの無愛想な大屋さんが?
ペット禁止の貼り紙マニアみたいな大屋さんが?
「そう、その大屋さん。ついでに君の葬式とか埋葬までしてくれた」
ほえー。すごすぎるよ、大屋さん。
「代金は君の部屋の小さな金庫の中身と、君の勤め先から出た香典だけどね」
ん?何だか物騒な内容があった?
し、しかし、とにかく大屋さんには随分迷惑おかけしたようだし、ま、いっか。
感謝します!
あの両親や姉に大切なお金が行くよりよっぽどマシだ。
「ちなみに、選べる転生先って……?」
そこを聞かなきゃ始まらない。
「候補は四つ」
神様の立てた指が小指以外の四本だった。地味に器用だ。
「消費ポイントの高い順から。他に誰もいない、君だけの世界。超未来の地球。原始的な動植物の世界。ちょっと変わってるけど、剣と魔法の世界。どれも人気高いよ」
ちょっと自慢そうな神様。
「やっぱり超未来の地球が人気ナンバーワン。未来って気になるらしいし?同じ地球だし?文明も進んで、もっといい暮らしができるって考える人が多いよ、ホント」
いい暮らし、と聞いて留宇奈も心がぐらつく。
誰だって暮らしはいい方がいい。
「人間関係に疲れちゃった人には、ボッチ世界がオススメかな。簡単に操作できて、世界中どこにも行ける乗り物とかあるから退屈しないし」
なんか、そういうの映画にあった。
それも悪くはない……けどやっぱり一人は寂しくない?
事故とか病気とかどうすんの?
「原始世界もここ最近人気だよ。あの、サバゲー?って言うの?あれが好きな人が多いね。動物もそこそこ知能あるし。あと無人島に憧れちゃう人もいるねえ」
某人気番組が頭をよぎる。
確かにああ言うの、好きな人は好きだ。
「で?どこがいい?」
あれ?剣と魔法の世界は?
正直一番聞きたいんだけど?
「あー……、それ、聞いちゃう?」
聞くよ!聞きますよ!めっちゃ聞きますよ!
さっきまでの熱心さはどこへやら、神様はそっぽ向いてどこか投げやりにため息をついている。
なんか言いたくなさそう。
それくらいなら最初から候補に上げなきゃいいのに。
「うん、まあ……あの、確かに剣と魔法の世界、それは確か」
うん、それで?
「平和とは言いがたいけど、世界が滅ぶ的な危機もないし、勇者もいない事もないけど、大抵は自称のヤカラ」
危機ないんだ。まったり系か。
あれ?いい感じじゃない?
「ただし、あの世界を作ったやつがねえ……」
世界を作る?え?それって人?
「神に決まってるだろう?人に作れる世界なんて、虚構の世界が関の山さ」
へえ。他にも神様がいるんだ。
「君なら問題無さそうだし、ま、いっか。文句付けられる事ないかな」
え?文句付けられたくないから渋ってたの?
人間関係ならぬ神様関係も複雑なんだ。
「そうそう。大変なんだよ、神様はさ。まあ人間には分からないだろうけど」
はいはい。分かりませんとも。
「ただし、問題がある」
早くもタイトル変わってしまいました……。混乱した方、すみませんでした。
お読み頂き、ありがとうございます。
11/20 誤字脱字が多いので、修正しました。