冒険者になりました
お待たせしました。
ーー目が覚めると、既に日は高く登っていた。
朝寝坊をするなんて何年ぶりだろう。
何度もまばたきしてはこするが、目の違和感が無くならない。
(あー。目が腫れてる。泣き過ぎたかな……)
夕べは泣き疲れて、そのまま眠ってしまったようだ。
革鎧も脱がず、手袋は片方だけがベッドの下に落ちている。
二度寝でもしようか、と目を閉じてみたが、お腹がクー、と空腹を訴えて来た。
(……あー。お腹空いたな……)
思えば、昨日の朝に食べたきりだ。お腹が空くのも当然か。
時間的にはたった1日。だが、私の人生は、天と地ほども変わってしまった。それなのにお腹は減る。情けないが、それが人生って物かもしれない。
(……よし。がんばれルーナ。泣いてたって何にもならない。生きて行かなきゃいけないんだから)
パン、と両手で頬を軽く叩くと、革鎧を脱いで、服のシワを伸ばす。
ボサボサになった髪を、手早くまとめて伸び紐でくくる。
(半端な時間だけど、どこかの飯屋は営業してるでしょ)
バッグからお金の入った巾着を取り出す。
中身は、昨日まで仲間だったリーダーが、私に投げつけて寄越したお金だ。
彼の憎々しげな声が蘇る。
「……とりあえず、今回のクエストの報酬はくれてやる。こうして生き延びたのは、お前のおかげだしな。だが、二度と俺達の前に姿を現すなよ!!さもないと」
そこから先は聞くに耐えない罵りの言葉の数々……。
私は苦い思い出を振り切るように、ブンブンと首を降った。
ーー生きて行くにはお金は必要だ。それが例えどんなお金でも。出所なんて意味はない。
巾着をバッグにしまおうとしたが、何かがスルリと落ちた。
真っ黒い薄いカード。
冒険者ギルドカードだ。
このカードを手にした日から、私の冒険者としての生活が始まった……。
◆
教会を後にした私は、真っ直ぐ冒険者ギルドへ向かった。
中に入ったのは初めてだったが、早朝にも関わらず、沢山の人でにぎわっていた。
とりあえず受付の列に並んでみた。
列が長いので、かなりの時間待たされた。
その間にギルド内をじっくり観察する。
混んでいるのは、並んでいるカウンターだけで、他にもいくつか数字の書いてあるカウンターがあった。買い取りとかかな。
受付の反対側には休憩所か食堂のようになっており、飲食しているパーティがいくつもあった。
くつろいでいるパーティ、打ち合わせしているパーティ、報酬を分けているパーティ、いちゃつくカップルなど、様々だが、空いているテーブルはほとんどないくらいの盛況ぶりだ。
大半は人間のようだが、中には違う者もいた。
身長が高すぎたり、低すぎたりするので、一目で分かる。
背が高いのは蛇男、かな?ワニ男かも知れない。
低いのはドワーフ。……だけじゃないかも。子供みたいなのもいる。
よく見ると獣人も混ざっている。
私の前の前に並んでいるパーティの中にも、猫耳と短かく太めの尻尾の女の子がいた。
顔は見えない。
だが、これほど近くで獣人を見るのは初めてで、つい彼女を凝視してしまう。
揺れる尻尾と、ピクピクと音に反応する柔らかそうな耳。
(……うわあ……猫耳だあ……触りたいなあ〜)
欲を言えば尻尾も触りたい。モフモフしたい。
そんな事を考えてる内に、空いている窓口に呼ばれた。
「おはようございます。今日のご用は何でしょう?」
愛想のいい、かわいい受付嬢だった。
パッと見は人間。年は20は行ってないだろう。亜麻色の巻き毛と、薄い茶色の瞳の、清楚そうな感じのお嬢さん。彼女目当ての冒険者もさぞかし多いだろうな、と思われる。特に男に多そう。
「おはようございます。あの、今日は初めてなので、登録をお願いします」
「はい。ではこちらをお持ち下さい。あちらの代筆カウンターで必要事項を記入の上、3番カウンターにお出し下さい」
差し出されたのは、一枚の羊皮紙。定型文が記入されている。
彼女は用が終わったかのように、ただ微笑んでいる。
「わかりました。あの、私が書いちゃダメなんですか?」
「え?字が書けるんですか?」
余程驚いたようで、近くの人が振り返るほど大きな声だった。ついでにこっちまで見られて、何だかちょっと恥ずかしい。
「あの……?」
「あ、いえ。では、こちらでどうぞ」
受付嬢は、慌てたようにペンとインクを出してきた。
「どうも」
記入していると、受付嬢以外の視線も感じたが、無視して一気に書き上げる。
自分で書くのがそんなに珍しいのかな?
記入事項はごく一般的なものだった。
名前、年齢、種族、使えるスキル、特技、職歴、賞罰。
嘘がなければいい、と聞いていたので、腐蝕と腐蝕耐性以外を全部書き込んだ。
「3番カウンターでしたっけ?」
「え?あ、はい。そうです」
「どうも」
何やらポカンとしている受付嬢を置いて、3番カウンターに向かう。
向かった先には気難しそうなおじさんがあごひげをいじっていた。
「すみません。お願いします」
羊皮紙を差し出す。
ふん、と鼻を鳴らしながら、おじさんは羊皮紙と真っ黒な薄いカードを、水晶玉の上にかざした。
すると、水晶が青く光った。
光は一瞬で消え、おじさんは黒いカードを差し出してきた。
「冒険者ギルドへようこそ、ルーナさん。登録完了です」
「……ありがとう、ございます」
「これは冒険者ギルドカードです。あなたの冒険者としての活動が、このカードに記録されて行きます。無くすと再発行が必要になります。再発行には200ギルかかる上に、直前の活動記録は記録されませんので、十分にご注意願います」
「……はい」
「冒険者として必要な知識は、こちらの冊子に書いてあります。今日からクエストを進めたいなら、右手奥のボードに依頼が張り出されております。注意事項もそちらをご覧ください」
おじさんは卒なく冊子やギルド内の掲示物を指し示していく。
これは、最低限の知能を試しているのだと聞いたことがある。
相手の言う事を正確に聞き取り、実行できるかどうか。即ち顧客の要望を汲み取れるかどうか。
こんな事で脱落する冒険者が後を絶たないみたいだ。
要するにバカは要らないと言わんばかり。
一先ずお礼を言ってその場を後にした。
必要な知識、と言われた冊子を開く。
なになに……どんな冒険者も、G級からスタート?
G級から、F、E、D、C、B、A、S、と来て更に上がSS級。
まずは3ヶ月、達成率8割以上で10回はクエスト成功しないと、F級に上がれない。
基本的にはクエストに応じたポイントを貯めて行けば、昇格できる。
しかし、C級以降の昇格には各段階に応じたテストが必要?
クエストポイントは、個人の分とパーティの分があるので、パーティの場合はポイントの分配をどうするのか、パーティ内で予め決めて下さい。ギルドは関与しません。
ーーファンタジーな世界で、メッチャ現実的な設定だ。ちょっとがっくり。
いや、と思い直す。
ファンタジーだと感じてるのは私だけで、他の人にとっては、ここは現実の世界。
現実的なのは当たり前か。
ともあれ、冒険者登録は無事終了した。
もらったばかりのカードがまぶしい。
冒険者ルーナ誕生だい!
よし、次はクエストを見に行くぞ!
おじさんに言われたボードに向かう。
どんなクエストがあるのかな?
お読み頂きありがとうございます。
(裏切られし)冒険者編です。
少し丁寧に書いていく予定です。本編の「別の意味で無双」編との間に、土木工事屋編(読み飛ばし可能)がある予定です。
気長にお待ち頂ければ幸いです。




