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第1話


ときやー!まってよー!!


幼い頃の空翔の声がする。

声がした方に振り向くと、幼稚園年少ぐらいの空翔が走っていた。


1歩踏み出せば、ボールをつまずき転び、

もう2歩踏み出せば、年長の子供に突き飛ばされ、

もう3歩進めば、落とし穴に落ちていった。


そういえば、小さい頃の空翔はドジばっかりしてたなぁと思うと同時に、これは夢の中かと気づいた。


落ちた穴の中でギャーギャー泣いている空翔を引っ張りあげ、服に着いた砂を落としてやった。


「ありがとう、ときや」


にぱっと笑うその姿は、天使かと思うほど愛らしいが、ドジをするこいつの世話をしなければいけない。


今の俺からすると悪魔の笑みにしか見えなくなっている。



「あきと、ちゃんとまわりみろよ」


「うん、ごめんね」


この頃の俺はまだこいつに優しい。空翔はおっちょこちょいだから、俺がしっかりしないといけない!という謎の正義感かあったのだ。

それにみんなにモテモテな空翔が、俺の後ろに付いて来るという優越感から一緒にいることも多かった。



「ぼく、時也といっしょにいるとこけないんだ!!

だからずっと、時也といっしょにいてもいい?」


そんなことを言っていたのはいつだったか、多分小学校の帰り道で言われたと思う。


「別にー勝手にすればー」


その時、漫画を読みながら適当に返事をした自分を分ぶん殴りたい。

ありがとうー!!と俺に抱きつきながら喜ぶ空翔を今すぐ突き放して、断れ!!!と念じるが、夢でも俺の思い通りにはなってくれない。


なんでや!!夢の中の俺頑張れ!!なんでもいいから断れ!!やめとけよぉぉおお!!!と夢の中で叫んでいると


...きや...


...とき...や...


「時也!!!」


ごんっ!!

頬を殴られた痛みで目を覚ました。目の前には半泣きの空翔が


「よかった!時也全然目覚めないから心配して...」


そのセリフを全部聞く事はできなかった。

理由、俺が全力の腹パンをしたからである。


「ごっは!!なにするんだよ!」


「すまん、殴られたことと、夢の中でのことにイラッとして殴った。」


夢の中って何!?うなされる時也を起こすために仕方なくやっただけなのに!!!

腹を押さえて、俺に抗議する姿に苛立ちは何とかおさまった。



「勇者様2人が目を覚ましましたね」



背後から女の人の声がして、俺は振り返った。


そこには息を飲むほど美しい女性がいた。長い銀色の髪が光を反射しており、海を思わせるほど青く、透き通っている目。


そんな目を優しく細め、俺達に微笑みかけていた。


俺が息を飲んで見つめていると、大丈夫ですか?と声をかけてくれた。


「だっだっ...らいじょうぶれす!!」


かみかみの返事をしてしまったが、それを笑うことなく、ホットした表情を見せた。



見とれている間に空翔が復活したようだ。腹をさすりながら俺の方に向いた。


「ねぇ、時也驚かないで聞いて欲しいんだけど...」


「ここは異世界で、俺達転移させられたみたいって言うんだろ」


神妙な面して話しかける空翔だったが、俺は話の続きを予測することができたので、途中で俺が言ってやった。


「なっなんでわかったの!?」


「こんなんすぐ分かるわ。建物も人も全然日本とちがうじゃねーか」




中世を思わせる美しい神殿のような内装の建物にいる俺達。

天井を見上げると、宙に浮いた大きな石が光を放ってこの神殿を明るくしていた。日本、と言うか地球じゃありえない。

これはもう魔法が使える世界ってことで間違いないだろう。


「話が早くて助かりますわ」


先ほどの美しい女性が優しい微笑みのまま詳細を話してくれた。


んで、まとめると


・やばい魔王が魔物を連れて復活した!


・異世界から勇者を召喚しよう!


・石に選ばれた勇者は、特別なチートを持ってやってくるよ!


・頑張って魔王と、魔物を倒してね☆


こんな感じである。

王道テンプレなシナリオだが、嫌いではないぜ!!

というか、勇者が2人ってありなのかよ...?とボソッと呟いたのが、向こうの耳にも入ったらしい。


「えぇ、石に選ばれたものは1人と限らず、何人でもこちらに転送いたしますの」


20人ぐらい転送されてきたこともありますわおほほと笑って答えてくれた。


なにそれ完全なるクラス転移...何回か小説で読んだことあるやつや...

いや、俺達の状況も充分ファンタジー小説あるあるだけども、すげーなーと俺は感動をしていた。


「俺達は、元の世界に帰られるんですか...?」


空翔が不安げな顔で尋ねる。

けっそんなこと聞くやつに限って、ここで恋人作って結局帰らないって言うんだろ、知ってるよ!!


「ええ、魔王を倒すと、ここに転送の陣が生成されるので、帰る事は可能です。」


それを聞き、安堵している空翔だったが、正直俺は帰りたいとは思っていない。

だってさ、男なら1度は夢見る魔法とチート能力で、勇者できるんだぜ?こうなったら、こっちの世界でかっこよく魔王倒して、可愛い女の子とのいちゃいちゃラブラブハーレムの生活を送るしかないよな!!!


先の未来に胸をときめかせながら、お姉さんの話の続きを聞いていた。


「はい!お姉さん!!俺からも質問いい!?」


俺は挙手をして、お姉さんに話しかける。


「あらあら、お姉さんだなんて嬉しいですわ。でも勇者様、私のことはアリーシャとお呼び下さいませ。」


恭しく頭を下げて名前を教えてくれた。凄い...!異世界っぽい名前だ...!!といらんところで感動した俺だったが、質問をするため続ける。


「アリーシャさん!俺達ってどんな能力が持てるようになるの?

魔法って使えるようになるんですか?」


「ええ、勇者様方は膨大な魔力を持った人達なので、魔法はすぐに使えますよ」


本当に!?すごいな!!とわくわくしていると、空翔も魔法...!?と呟いたのが聞こえたので、こいつも楽しみにしているようだ。


「ど、どうやったら使えるんですか?」


「そうですね、では勇者様方の魔力の量を確かめるためにも、簡単な火魔法をやってみましょうか」


そうアリーシャさんが言うと、わらわらと人が集まってきた。部屋の外から入って来たらしい。そして俺達を囲むようにに並び、床に手をつけて祈った。すると、床が透き通って、魔法陣が浮かび上がってきた。


なっ...!?と驚き、魔法陣から出ようとする俺達だったが、アリーシャさんの大丈夫という声に足を止めた。


「これは、勇者様が魔法を使ってもこの円の外には出ていかないようにするための魔法ですわ。体に害するものではないので、ご安心ください」


勇者様方が始めて魔法を使うと、力加減ができないため、こうするのが通例らしい。


すげぇ!やっぱり勇者ってチートなんだ...!!


「では、呪文を唱えましょうか。私の後に続いて唱えて下さいね」


アリーシャさんが、両手を軽く前に差し出し、目を閉じて唱え始める。それに習って俺達も唱えはじめた。


「火を司る精霊よ」


「「火を司る精霊よ」」


「我に力を貸したまえ」


「「我に力を貸したまえ」」


ファイヤー!」


「「ファイヤー!!」」


案外簡単な呪文だなと思ったら、アリーシャさんの手から小さな炎が灯った!

続けて俺達も唱えると、魔法陣が展開している円の中を炎が巻き上がった!!

魔法陣の中は炎に包まれるが、入っている俺達は熱くない。


まわりからも「おおっ!!」と歓声が上がった。


こんなに強い魔法を初っ端に出したのは珍しいようだ。

次第に炎が収まる...


「すごいすごい!!俺達魔法が使えたよ!!!ねっ!時也!!」


自分の手を見つめて、はしゃぐ空翔。

「流石勇者様」とパチパチと拍手してくれるアリーシャさん。


きゃいきゃいと喜ぶ空翔と、アリーシャさんに対して俺は沈黙。


そんな俺に気づいた空翔はどうしたの...?と聞いてきた。


「.........でない」


「へ?」


「俺!火出てない!!」


俺もアリーシャさんのように唱えたが、この手には何もでなかったのだ。でなかった悲しさと、恥ずかしさで、半泣きだ。


「そんなはずは...!!!」

と慌てるアリーシャさん。

「もう一回やってみなよ!」と空翔が言うので、さっきと同じように唱える。


結果、出る気配すらない。俺は膝から崩れ落ち、三角座りでぐすんぐすんと鼻を鳴らす。


でも、この流れも言わばテンプレである。


ここから先の結末が見えるようだ...力がない俺はここから追い出されて、闇落ちして、魔王として君臨するんだ...!!

とよくわからない妄想を織りまぜながら膝を抱えて泣いてしまった。



空翔はおろおろとしていて、俺を逆撫でる。なんでこいつばっかり!!顔か!!?顔で魔法使えるとか判断するのか!?死ね!イケメン死ね!!と全力で心の中で叫んでいると、アリーシャさんが驚いた顔で、


「そんなはずは...一般人でも魔力を秘めているので、マッチ程度の火は必ず出るはず...」


と言って、外にいる人に声を掛けて何かを持ってこさせていた。

俺の精神はズタボロになってしまい、もうお家帰りたくなっている。


しばらくすると、大きな水晶が運ばれてきた。

アリーシャさんに、こちらに来て水晶に触って下さいと催促される。

動きたくもないし、泣いてグズグズの顔も見られたくなかったが、空翔が俺を無理やり立たせ、水晶の前に進ませた。


「うえぇなにするんだよぉ」


プライドはズタズタ。しかし、アリーシャさんの優しい声を聞いて、一応言う通りに水晶に触った。


「これは...」


「アリーシャさん!時也は...!時也は何か体に原因があって、魔法がでないんですか...!?」


空翔が、医者に迫るような勢いで聞く。


「今のところ体自体は健康なんですが、時也様には魔力が全くない様です。この世界では生きづらい体になっていますね...」


俺の体には魔力が全くない?

え、俺勇者として選ばれたから召喚されたのになんでないの?おかしいでしょ?

頭の中がパニックになり、血の気が引いていくような感覚がした。


「どんな人でも魔力はあります。量に差はあれど、全くないゼロの状態の人なんて初めて見ました...」


生きていることすら信じられません!と言って驚いているアリーシャさんと、顔が上げられない俺。


空翔はそんな...とショックを受けている。


「時也には生きづらい世界って言ってましたけど、どういうことですか!?」


掴みかかるように聞いた空翔に、アリーシャさんは冷静な声で言った。



「この世界は、魔王が復活したことによって瘴気が濃くなっています。


身体に魔力を保有していると、瘴気を跳ね返す事ができますが、保有していない人は瘴気に当てられ、様々な病気を引き起こし、死に至っていまうのです。


この王都や町、村といった所では精霊が守っているので、瘴気が薄められ魔力をそんなに持っていなくても体に異変はありませんが、瘴気が濃い外には出ていくことができません。


つまり魔力がない時也様は外に出ていくことはできませんし、この王都でも100%瘴気が無いわけではありませんからどうなるか分からないのです...」



アリーシャさんの話を聞き、呆然としてしまう俺達。


ひどい話だ。

勇者として召喚されたと思ったら戦力外通知をされてしまった。


どうなるのかわからないお先真っ暗な世界で俺は、魔王が倒されるまで待ってなければならない。




やっぱり空翔と一緒にいていいことはない




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