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第二話 - 百楽と絹戸 -  1

 何かひんやりとした感触を後頭部に感じながら押切は目を覚ました。

 頭にはまだぼんやりと霞がかかっているが、薄く開いたまぶたから目に入ってくる光がそれも払っていく。


 すぐそばで女の子の声が聞こえた気がした。体を起こそうと力を入れる、突っ張った手は弾力のあるソファーに少し沈んだ。

「……い、いいですよ……」

 誰か居る、何が起きたんだろうか?強盗に何かを注射されて、それから……?


「じ、じっとしてる方がいいですよ!」

「いっ!?」

 急な大声に驚いて体がびくりと震える、と同時に背中から腰にかけて貫く激痛が走った。


 目は一瞬で覚めた。頭の中の霞は晴れ、代わりに雷が落ちている。

「あ、あ、ごめんなさい!」

 声にならない悲鳴を上げて身を震わせていると右側に人の動く気配がした。


「多分ですけど、動くと痛いと思いますよ……?」

 今しっかり分かった、と言い返したかったが歯を食いしばったままでは声も出せない。

 ひたすらに痛みの波が去るのを待っていると遠慮がちな声がかけられる。


「あの、大丈夫です?」

 どう見ても大丈夫じゃないだろ、と思いつつ、涙の浮かんだ目を開けて確認する。

 そこには濃い灰色(ダークグレイ)の流れる様な髪を胸元まで伸ばし、眼鏡をかけた自分と同じぐらいの歳の少女が少し離れた所から体をかがめてこちらを覗きこんでいた。

 小動物の様なおとなしい印象を受ける。


 涙目で呻く俺に、なんとも申し訳なさそうな調子で話しかけてくる。

「えと、言葉分かります?」

「分がっ……!」

 分かるに決まってるだろ!痛くて声が出せないだけだよ!……そう言いたかったが、いよいよ本格的に涙が出てきた。まあ、十分の一ぐらいはこの痛さ、この苦しみが伝わっただろう。



「じゃあすいません、ちょっと質問してもいいですか?」

 アタマおかしいのかなこの子。



「あのお名前、うかがってもよろしいですか?」

 無視。具合がよろしくないので、冷血とかじゃなく、無理。


「えと……その、よければお名前を……」

 無理だって事を目で伝えようと顔を見ると、少女は胸の上で手を重ねて目をそらしていた。


「名前……その……」

 目元は眼鏡でよく分からないが涙ぐんでいるようにも見える。


押切おしきり、です。名前」

 できるだけ力が入らない様にぼそぼそと答える。泣かれても、困る。


 すると、それを聞いた少女はこちらにばっと振りかえり、笑顔――なぜか笑うのを堪えているようだが、目は完全に笑ってるし口元もほとんど笑ってる――になり目をごしごしとこすり、急に饒舌じょうぜつに話し出す。


「あの! 私は(はやし)百楽ももらです! えと、デザインの高校に通ってて、ここに住んでます!」

「あ、はい……」

「『ももら』っていうのはですね! 『数字の百』に『楽しい』って書いて、楽しい事がたくさんあるようにって名前なんですよ!」

 聞いてない聞いてない。


「あの……」「あっ! ここにはですね、おねえちゃんと住んでるんですよ! 呼んできますね!」

 こちらの返事も待たずに、容姿に似合わない俊敏な動きで部屋の外に出ていってしまった。


 遠くから「おねーちゃーん! 起きたー!」という声が聞こえてくる。

「何なんだ……」

 小動物というよりはスズメとか、小鳥っぽい感じだな、と廊下から聞こえるバタバタという足音を聞いて考え直す。


 体を起こし見渡すと、部屋は一般的なリビングのようだった。ソファーの横にはガラスの低いテーブルがあり、その奥にはテレビが置いてある。

 窓から見える外は薄暗く、昼間の一件からそれなりに時間は経っているようだ。

 窓にはベランダが付いており、ここが二階だという事が分かる。


「おはよー、押切君」

 ドアから顔を出したのはさっきとは別の人だ。

 黒い短髪の女性、歳は自分より少し上だろうか。


「あー、返事なしで良いよ。勝手に連れて来ちゃってごめんね」

「いえ……あの、俺どこかで倒れてたんですか?」

「うーん、どこまで覚えてる?」

 言われて少し考える、強盗に何かを注射されてそれから……思い、出せない。


 そう言うとその女性は満足したように頷いた。

「やっぱりそうかー、ちなみに君、強盗じゃないよね?」

「え、はい……」

 あの強盗事件はどうなったのだろうか、ふと嫌な想像をしてしまい唇を舐める。女性はのんびりと何か考えているようだ。


 そして考えがまとまったのかうんうんと頷くと、思いだしたように自分を指差す。

「あー、ワタシは鞍馬(くらま)絹戸(けんと)、言って無かったね」

「あ、俺は押切(おしきり)(めぐる)です。あの……」


 さっきの質問を再びしようとすると、絹戸(けんと)と名乗った女性は両手をこちらに向け「まあまあ」といった動きで、それに加え「まあまあまあ」と囁くような声で唱えながら近づいてくる。


「まあまあ、押切君」

 ぐっと顔を近づけてきたので、思わず体を引いてしまう。

 整った顔立ちの美人だ。

 さっきの百楽(ももら)という少女もかなりの美少女だったが、こちらもかなりの……というか顔が近い!

「ちょ……」


 額が触れそうな距離まで顔を詰めてくる。心臓がすごい勢いで動いているのが分かる。


「男に産まれたからには、やらなきゃいけない時があると思わない?」

「何がです!?」

 言われた言葉の意味を咀嚼するのに時間が欲しい。いや、どういう状況なのこれ!?


 ビッと顔の横から指を一本こちらに向けて口を開く。


「『主人公(ヒーロー)』になる気はない?」

読んで下さりありがとうございます!


世界観説明の為に0話追加しようかとも思ったんですがやめます

説明ばっかの過去話なんて書けないし、つまんないし

2話の終わりぐらいであらすじに追いつくと思います

あらすじに追いつくってどんな表現だよ

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