始まり
いつもと変わらない、平凡な一日。
そこに自分が存在する奇跡と幸せ。
悠久の時の流れの中で偶然出会った人々。
偶然と必然の彼方に生まれる、一筋の光。
何がそれらを決め、変えて、終わらせるのか。
私はそれを探しに出る。 ー「予言の書」最終節
最後まで読み終わった少年は、困惑の色を隠せなかった。旧文明時代の廃墟で見つけた一冊の本。内容から察するに、旧文明に存在した『予言の書』という本について書いたものなのだろう。
しかし、少年アランにとってそこに記された内容を理解するのは容易ではなかった。
『終末』と呼ばれる異常現象によって最盛期を迎えていた旧文明が崩壊したと伝わる年から約300年が経過し、旧文明についての記憶は薄れ、記録は失われていた。当時のようすを今に伝えるのは、今アランがいるような巨大な建物の遺跡とごく僅かな書物だけだったのだ。当然、アランのような一般庶民にとっては旧文明の知識などほとんど無いに等しいのであった。本にはその旧文明のものと思われる知識が記されているのだ。
「おい、どうしたアラン?」
本を眺め回すのに夢中になっていたアランに別の少年が声をかけた。アランと一緒にこの廃墟へとやってきたゼーレである。そもそも人里はなれたこの廃墟にやってきたのはゼーレが奇妙な夢を見たからだ。数日前、普段通りに就寝したゼーレはこの廃墟の夢を見たという。内容ははっきり覚えていないが、目覚めの悪い夢だったので少し引っ掛かっていたらしかった。(もっともその話を聞いて実際に廃墟まで足を運ぶ流れに持って行ったのはアランのほうだったのだが)
「いや、それがな…」
アランから本の説明を受けたゼーレは、先日の夢について考えていた。アランに話た通りその内容についてはっきり覚えているわけではないのだが、おぼろげな記憶の中に一つだけ脳裏に焼き付いているものがある。それは文様だ。幾何学的なそれは複雑ではあるが、なぜかそれを正確に思いだして描くことができたのだ。そもそもそれがなければアランに相談を持ちかけることも無かっただろう。しかしそのことは口に出すのがどうしても躊躇われ、まだアランに話してはいなかった。
「ゼーレ、どうしたんだ?本がどうかしたか?」
「…いや、実は気になることがあって。少し本を貸してくれないか?」
「いいけど、何が気になるのさ。」
その問いには答えず、差し出された古書を受けとった。表紙には思うものは無いが、何か不吉なものを見たような気分になった。
「…?」
顔をしかめながら本をめくる自分を、アランは不思議そうに見ていた。そして『禁断の予言』についての記述が一段落したところでゼーレの目に覚えのある文様が飛び込んできた。
─間違いない。
文様についてアランに説明しようと決意し顔をあげようとしたゼーレだったが、急に頭に激痛が走った。
「……!!あああ!!!」
急に悲鳴をあげたゼーレは痛みに悶え苦しんでいるようだった。それは一体何故なのか、今渡した本のせいではないのか。混乱するアランはなすすべがなかった。
「…おい、ゼーレ…おい!!」
呼びかけに返事はない。何か大変なことが起きている、それは明らかだった。
「………………」
「………?ゼーレ?」
不意にゼーレの様子が変わった。先程までの苦痛の表情から冷酷にも見える表情に感情は無いようだった。一瞬ギョッとしてしまうが、すぐに気を取り直しゼーレに話かける。
「おい、大丈夫か─、」
さしのべた手がゼーレの肩に触れようとしたその時だった。
「…………!!!」
ゼーレの拳がアランの溝落ち付近を貫いた。
それは明らかに常人のものでは無かった。比喩などではなく、実際アランの胸には大きく赤く染まったキズができていた。
「どうした…んだよゼー……レ」
アランの視界から光が消えた。




