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ミネリの手には何かが捕まえられていた。それを私の隣にいた魔術師も確認したようで、「見せて」と言って彼女に近づいた。私も引き寄せられるように彼の後ろを追い、猫又の手の中で奇妙に蠢くそれを確認しようとする。
そしてなんのためらいもなく、ミネリの掌は開かれた。それによって、私はふいに身体を小さく乗り出してしまう。まだ息のある生き物を捉えておくには、あまりにずさんな行動だと思ったためだ。
しかしその生き物は逃げ出さなかった。いや、逃げ出す意思はあるようなのだが、それが行動に上手く反映されていないように私には見える。
ミネリの少女らしい掌の上でもがいているのは、青いトカゲであった。
こんなトカゲ、見たことない。私は率直にそのような感想を持った。いくら田舎暮らしと言っても、爬虫類に詳しいわけではないのだ。けれど、そのトカゲはおおよそ自然の中で暮らすには鮮やか過ぎる、まるで空の青色を凝縮したような、そんな皮膚で覆われていた。
「雨身蜥蜴か」
礼御がそのように呟くと、ミネリは興味があるのかないのかよくわからない「ふーん」なんて言葉を漏らしていた。
「あの・・・、あまみトカゲって」
たぶんこのトカゲの名前なのだろうけど、私に聞き覚えのある単語ではなかった。私の疑問に答える形で、魔術師が簡単な説明を始める。
「雨身蜥蜴。このトカゲの呼称です。まぁ、妖怪です。こんなトカゲ、さすがに見たことないでしょう?」
「えぇ・・・」
「雨を己の身に宿したトカゲ。それで雨身蜥蜴、と魔術師は呼びますね」
雨を己の身に宿す。なんだか今のこの土地の状況に、嫌なほどぴったりな妖怪ではないか。
「まぁ、この妖怪の本質の説明は後でもいいですかね。なんだか気になる、こいつの性質を説明しましょうか」
礼御はそんなことを言ってはにかむと、ミネリの掌でのろのろと暴れているトカゲを摘まんで私に差し出してきた。
「・・・え」
あまり爬虫類を触りたいとは思ない。それが妖怪だというのならなおさらだ。噛まれたりはしないだろうか。
そんな私の心配をよそに、礼御は「大丈夫ですよ」と言って強引に私の右手を引っ張り出した。
そして私の手に落とされた雨身蜥蜴という妖怪。なんだか硬さのある湿り気が肌から伝わる。ついで私は逃がしてはいけないと掌の生き物の拘束に思い至ったのだが、妖怪だなんだといってもまず爬虫類だ。到底握りしめることは身体が拒み、間抜けに広げた掌の上で不自由のない妖怪は―――。
それでも逃げ出さないのである。さきのミネリの掌にいたときと同様、その青色のトカゲはもがくように足をじたばたさせている。やはり逃げ出したい意思は感じられるのだが、その想いを反映させることなく身体を動かすことは苦手のようだ。
「ね。こいつ、運動音痴でしょ」
そう言いながら礼御は指でトカゲを突いていた。愛玩物を見つめるような視線が、私にはどうにも不思議でならない。男性というものは、こういった生き物が好きなのかな。
「こいつの尻尾を見てください」
なおも続けて魔術師はトカゲのしっぽを指して言った。それに従い、私はのたのたと暴れるトカゲの尻尾に注目する。
色はやはり変、というのが正しいのだろう。しかしそれ以外に変わった様子はない。
一体何を見ればいいのか、私がちょっとした疑問を浮かべたとき、それを見越したように礼御は口を開く。
「今は普通のトカゲの尻尾でしょ? でもこうすると――」
彼が取り出しのは水筒だった。その中には私の母が用意した冷たい麦茶が入っているはずだ。
魔術師は楽しそうに水筒の口を開き、中の液体をトカゲにかけたのである。・・・そして当然、目標の下にあった私の手も濡れたわけで、冷水ならともかく冷麦茶をかけられるというのはあまりいい気分でなかった。
が、そんな私の地味な不快感は一瞬で上書きされるのである。




