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36話:汚したくない

 目の前でぐったりとした様子の女と自分の手中にあるスタンガンを交互に見つめた。

 対して、ずば抜けた容姿でもなく、家柄もそこまでよくないというこの女。

 果たして、何が兄を夢中にさせたのだろう。

 少し興味が湧いた。そんなことを思っていると柚木に知られたら、ただじゃ済まないだろう。

 ぞくぞくっと何かが背筋を走る感じがした。恐怖の垣間に見える喜びみたいなものが胸をめぐった。

 

 女の身体がぴくっと動く。意識を取り戻しつつあるのだろう。

 崇行は途端に嫌な笑みを顔に浮かばせた。おびえるだろうか、泣き叫ぶだろうか、あるいは放心状態かな。

 頭の中を想像が掻き立てていて、期待に胸を躍らせる。

 


「ン……」



 女が少し吐息を漏らした。いつまでも開かないでいるような、重そうな瞼が徐々に開いていく。

 乾燥した室内で放置されていたせいか、声は掠れ気味でいた。



「あれ……、ここは? 伯さん……?」



 寝ぼけているのか、自分を兄だと勘違いしているようだった。

 満面の作り笑いを見せると、彼女ははっと目を見開いた。

 気づいたようだ。そう、ぼくは君の優しい夫じゃない。



「ごめんね、杏奈ちゃん」



 聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟く。一応、自分にも罪悪感あったのだと、自嘲じみた笑みをうかばせた。

 彼女の白い頬に手を掛ける。すでに前ははだけていて、ピンクのキャミソールがちらりと見えた。

 彼女はやっと状況が分かったらしい。急いで、ベッドから逃れようとするが、ヘッドと彼女の手首をつないだ鎖は、そうそう簡単には外れない。

 おびえる? 泣き叫ぶ? そうだ。そうやって、恐怖でいっぱいになればいい。

 崇行はにこりともせずに杏奈の服に手を掛けた。

 しかし、杏奈はそれをじっと静かに見据えているだけで、崇行は訝しげに彼女をみつめた。



「怖くないの? もっと、泣き叫ぶとかしてよ」

「どうして、そんなに哀しい目をしてるんですか?」



 無表情でつぶやくように言った、彼女を僕ははっとして目を見据えた。

 彼女の目は純粋で曇りもない。ただ前だけを見つめるような。


 柚木の昔の目によく似ている。



 柚木と僕と兄は仲の良い幼馴染だった。柚木はずっと兄を想い続けていた。

 そのときの彼女の瞳は、きらきらと輝いていて、

 僕はそんな柚木が好きで。

 でも、絶対に叶わない恋だから。

 僕は柚木の幸せを一番に願っていた。はずなのに。


 あの、一瞬の曇りもないきらきらした瞳は、ぼくの好きだった柚木は、

 いつから濁っていったんだろう。

 そして、僕も同じように濁ってしまった。 

 


 ドンドンッ


 ドアを叩く音が耳に入った。様子からして柚木じゃない。

 後に聞こえてくるのパトカーのサイレンだ。

 どうしてここが分かったんだろう。



「ごめん、杏奈ちゃん」



 そうつぶやいて、手首にはめていた手錠と鎖をつなぐ鍵を外した。

 彼女は手首をさすりながら、こちらを見ていた。



「気が変わっちゃった。ぼくは、その目をもう汚したくないや」



 自嘲気味に嗤うと同時にドアが勢いよく倒れた。

 

 



 



 


更新が遅れてしまい、本当にごめんなさい。


また執筆を再開していけたらいいなと思っています。

よろしくお願いします。


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