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30話:唯一無二の

2か月も遅れてしまいました……。

今回は友情系の話になりそうです。


 頭の中が真っ白になって、さっきまでの暖かさもすっと消えたようだった。

 ひゅっと息を飲み、目を見開く様子は、ねこに追いつめられたねずみのように怯えた表情であったであろう。一気に乾ききった喉を潤すように、生唾を飲み込んだ。

 そんな私の様子に、神崎は宥めるような手つきでそっと私の頬を撫でた。


「そんなに気負いしなくてもいい」


 神崎の手にほっとしながらも、心の片隅ではまだ不安が残っていた。

 相手はあの神崎グループのトップ。新聞でも一面を飾った事のある大物だ。

 そんな人としがない会社の社長の娘が対面するというのだから、前代未聞の話である。

 ただ、こんな日が来るという事は分かっていた。そして、胸の奥の全然気づかないような所で恐れや不安をずっと抱いていたんだと思う。

 だけど、逃げてはだめだ。これはきっと立ち向かわなければいけない問題。 


「大丈夫です。伯さんのお父様が会いたいと行って下さるのは光栄な事ですから。武者震いです」


 不敵な笑みを浮かべたつもりだが、上手く作れていただろうか。

 神崎はそんな私を見つめて、くすりと可笑しそうに笑った。

 それは、私を宥めるようでも、心配するような顔でもなく、感心したような笑みだった。

 そんな神崎の笑顔はなんだか嬉しかった。認められたような気がした。


「流石は俺の妻ですね。頼もしい」


 髪がぼさぼさになるのも構わず、わしゃわしゃと頭を掻き撫でられた。

 乱れた髪を整えようと、急いで撫でつけようとした手を、顔の両側で掴まれる。

 驚いて顔を上げると、今度はそのぼさぼさ頭にキスが降りてきて、さっきまでの度胸はどこ吹く風、思いきり焦りまくって、俯いてしまった。

 頭上からはいつものくつくつと笑う意地悪な声。ただ、この部屋の空気だけはどこまでも甘くって、この雰囲気にずっと浸っていたいなんて思ってしまう夜だった。   


**********


 睡魔が瞼を襲い、どんどんと落ちてくる。追い打ちをかけるように、暖かい風が顔にかかって、眠気に拍車がかかった。

 昨日は、最近あった事や、勉強を教えてもらったりと、いろいろ話しこんでいるうちに、気づいたら深夜の2時になっていた。神崎の車で急いで送ってもらうと、玄関の所でうんうんと唸り続ける父が居て、驚いてしまった。

 娘が初の朝帰りかもしれないと頭を悩ませていたらしい。つくづく間抜けな親だなと呆れるとともにそんな心配が嬉しかった。


「あーんーなさん!」


 思わずうとうとしていると、耳元で大声で叫ばれて、一気に眠気が覚めた。

 驚いて、声の主を見上げると、麗子も驚いたような顔をして立っていた。  

 そして、すぐにそれは可笑しそうな笑みに変わった。


「授業、もう終わりましたよ」

「んぁ……麗子」


 寝ぼけ眼な状態のまま、返事をすると、思ったよりも低い声がでた。

 どうやら、授業をまるまる睡眠時間に使っていたようだ。

 神崎の授業じゃなくて良かった。もし、そうしていたものならば、きっと私的に恐ろしい事をされるだろう。考えただけで身震いがした。


「少し様子がおかしいですよ? 何かあったのですか?」


 麗子はちょこんと可愛らしく首を傾げてみせた。

 私は一瞬、麗子に昨日あった事を話すべきか否か迷った。これ以上、麗子を巻き込むのはよくないと思った。

 だんまりする私に、麗子はいきなり頭の上にチョップを喰らわせる。突然の事に驚いて、顔を上げると、麗子は思ったよりも、真剣な面持ちだった。


「ほら。また一人で抱え込もうとする」


 真剣な顔から一変、少し悪戯っぽく笑ってみせると、今度はデコピンを投げつけられる。 

 今日の麗子は結構、暴力的だ。まぁ、ヤクザもとい暴力団の娘なのだから、もともと、暴力的って言えば、暴力的なんだろうが。

 チョップとデコピンの両方をされて、少しじんじんする頭部を擦りながら、話してみるべきか少し考える。麗子は親友だ。親友だからこそ、そんな大変な事に巻き込んではいかがなものかと思う。でも、そんな麗子に話したら気が楽にもなりそうだし、いい案ももらえそう……ああーどうしよう。

 頭を悩ませていると、さっきよりもいきいきとした麗子の声があった。 


「簡単な事ですよ。よく考えてみてください。私はヤクザの娘なんですよ? 大変な事なんて、山ほど巻き込まれていますよ。ややこしいものなんて、どーんとこい! です」


 どんと自分の胸を叩きながら、自慢げに太鼓判を押す麗子を見ると、なんだか不安もすっかり吹き飛んでしまった。さっきまでのうじうじも何処かに行ってしまって、私の中ではもう麗子に話す準備が出来ているようだった。

 この子は、すごく強くて、きっと唯一無二の友達なんだろうなって思うと、なんだか泣きそうになって、それを誤魔化すように、大げさに何回も大きく首を振って、頷いた。

 麗子はそんな私に、穏やかな笑みを向けていた。




  

普通の文から「」の改行を、二行から一行に変えました。

もし、読みにくいと言って頂ければ、いつでも変更するので、気軽に申し付け下さい。

突然の変更すみません。

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