16話:花火の華
全然、似合ってない自分の姿が、自然に穴を探してしまうほど恥ずかしかった。
それを見て、神崎は感心したように目を細めた。
「馬子にも衣装……だな。スカートが短すぎる気もしますが」
「……褒めてないですよね」
ひらひらの膝上のスカートとハート型のエプロン。
白いフリルのドレスと、なによりも屈辱的なのが……猫耳。
「可愛い。にゃ、とか言ってみろよ」
「……嫌です」
可愛い、なんて軽い一言かもしれないのに。
私の心臓はそれだけでばくばくと鳴っていた。本当に狡いと思う。
「そういえば、あの作戦……大丈夫なのか?」
「そうです! きっとうまくいくはずです!」
「どうしてそんなに張り切ってるんだか……」
神崎ははぁ、っと溜息をついた。
私はそんな呟きも聞こえないふりをして、そそくさと制服に着替える。
朝は神崎より早く出る。まぁ、当たり前の事だろうけど。
「それじゃ、お先に行ってきます」
返事のない家を後にして、すぅっと一呼吸した。
今日はいい一日になりそうだ。
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「お帰りなさいませ、ご主人様にゃ……」
羞恥プレイすぎる……。
顔から火が出そうなのを抑えながら、男子生徒を席に案内していく。
語尾ににゃをつけるのは鉄則なんだと……冴葉さんはおっしゃった。
「ご注文がお決まりでしたら、呼びつけてくださいにゃ」
棒読み、無表情……じゃさすがに繁盛しない。
作り笑いを浮かべながら、機械的にこなしていく。
冴葉さんから休憩が言いだされたのは、それから2時間後だった。
ほかの人は大体1時間で交代なのに……完璧に嫌がらせだと思う。
「やっと終わったにゃ……」
さっきまでの癖で、にゃ、と言っているのも気付かなかった。
すると、とんとんと横から肩を叩かれる。
「ねぇ、君一人? 俺らと一緒にあそぼーよ」
いかにもチャラそうな金髪の男達に囲まれて、私は邪険そうな目で彼らを見上げた。
じゃらじゃらとしたピアスが、私を余計に苛立たせる。
「暇じゃないんで」
「そんな冷たい事言わないでさー。さっきのメイドカフェで、ずっと狙ってたんだよねー」
汚い歯をみせてげらげらと笑う男達に更に嫌悪感を覚えた。
勢いよく席を立つと、すっとお尻を撫でられる。ぞわっと鳥肌が立つ感覚がした。
「やめてくださ……」
「なに、やってるんですか?」
半分、涙目になって睨もうとしたとき、横からぐいっと肩を抱き寄せられる。
この甘ったるい香水の香りは……。
「は……くさん?」
「この子は俺と先約があるんだが」
冷やかな棘のある口調で、その場の男達を威嚇する。
案の定、その男達はひっと竦み、ぱらぱらと逃げて行った。
神崎は身を離して、私を見下ろす。
「そんな涙目で睨んでも、かえって迫力がないですよ」
「そんなの……」
「怖かったのか?」
ほら、やっぱり優しい。
頭をよしよしと撫でられると、そう思ってしまう。
ほかにも優しい声色とか表情とか……いつも意地悪なのに、そう思ってしまう私は単純なのだろうか?
「もう暗くなり始めていますね。文化祭も終盤……ってとこですか」
ふぅっ……と神崎が溜息をついた。
途端に、私は我に返って、神崎の手を取る。
「もう文化祭が終わってしまいます!」
「あぁ……一緒に楽しもうとかなんとか言ってたな」
「いい場所があるんです!」
そう言って、誰にも見つかれないような場所。
あの秋桜畑に向かった。
「これは……」
「ここから見る花火は絶景なんです。ほら」
ばぁんと火の玉が勢いよく上がった。
美しい華は秋桜のようで。もう季節じゃないのに、またここで華が見れるのは嬉しかった。
神崎をちらりと見ると、彼も穏やかな表情をしている。
それがあまりにも綺麗で、私は思わず見とれてしまった。
「花火を……見ないのか?」
「み、見ます! 見ます!」
焦って、花火の方を向くと、神崎は訝しげな顔をしながらも花火に目を移した。
私は赤くなった頬を隠してくれる、花火の光にちょっぴり感謝した。




