15話:気づいた気持ち
好きなんだ……神崎の事。
そう気づいてしまった自分は案外、拍子の抜けた反応をした。
驚くわけでもなく、まるで当然って感じの自分の反応が可笑しくて、思わず笑ってしまっていた。
「何をにやにやしているんですか?」
「べ、別ににやにやなんてしてません」
赤くなってそっぽを向くと、何故か神崎はふっと笑みを漏らす。
そんな仕草がいつもよりもかっこよく見えて、見とれてしまった。
意識してる……それは自分でも気づいていたが、どうしても意識せずにいられない。
「なんですか?」
「何でもありません! さ、先に学校行ってますから!」
神崎の返事も待たずに、ひったくるように自分の鞄を持つと、飛び出すように家を出た。
こんなの私じゃない! これじゃあ、まるで女子みたいじゃない!
「あ、杏奈さん。おはようございます」
早足で学校へ向かっていると、いつものおっとりした声と共に、麗子が現れた。
麗子は私がいつも困っているときに、きまって現れる。まるで偶然じゃないみたいだ。
「お、おはよう」
「どういたしましたか? 顔が赤いですが……」
「別に、赤くなってない!」
声を荒げると、同様に私の歩調も更に速くなった。
そんな私を見て、麗子はくすりと微笑んだ。全部わかってますよ……なんてでも言うように。
「詳しい事は学校で聞けばよろしいですね……」
麗子の呟きは、私にはまるで聞こえなかった。
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「やっとお気付きになられたのですね! 自分のお気持ちに!」
麗子は私の話を聞くと、花が開くような笑顔を見せた。
その美しい笑顔が、周りに居た男子達を惹きつけているのだが、麗子は全く気付いていないようだ。
「なんか、あっさりしすぎてて実感が湧かない……」
「それでよいのですよ。恋なんて突然始まるものですから……」
「麗子……恋したことあるの?」
妙に悟りを開くような口調が、謎だった。
すると、麗子はふふっと意味深な笑みを浮かべる。
「それは秘密ですわ」
「ちょ……気になるじゃない!」
その後、私がずっと問い詰めても麗子はくすくすと笑うばかりだった。
それから1時間目の開始を意味するチャイムが鳴り、渋々、自分の席に戻った。
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「えー、文化祭の出し物は……」
委員長の冴葉さんが達筆な字で黒板に候補を並べていた。
しかし、私にはそんなことも上の空で、委員長の言葉は耳に入っていなかった。
「メイド喫茶で決定ですね」
メイド喫茶と言われ、はっと我に返った。
たちまち周りからは、男子の歓声が上がる。
「杏奈さん、チャンスですね。神崎兄貴をメロメロにしちゃいましょう!」
「はぁ!?」
「冴葉さーん! 杏奈さんが率先してメイドをやりたいと……」
「ちょ……麗子!」
麗子が手を挙げて、とんでもない事を言いだした。
すると、冴葉さんの目がレンズ越しにきらりと光った。
「それは、嬉しい事です。本来ならくじでやるつもりだったんですが……率先してやってくれるとは」
「う……」
冴葉さんは個人的に苦手だ。
雰囲気が神崎に似ている。実は、かなり鬼畜だったりして。
「じゃあ、他の女子は衣装づくりとメイドに分かれてもらいましょう」
「ちょっと待ってください! 私……」
「何ですか?」
冴葉さんにきっと睨まれ、私は黙りこむことしかできなかった。
「な、何でもありません……」
「それでは、赤の棒が当たりですからね」
半べそをかきながら、ちらりと神崎の方に目をやる。
小刻みに肩を揺らしていて、笑っているのが一目瞭然だった。
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神崎がにやりと口を歪ませて尋ねた。
「そんなにメイドがしたかったんですか?」
「違います。れ、麗子が勝手に……」
「楽しみですね、あなたのメイド姿は」
そう言われると、してみてもいいかなって思ってしまう私は単純だ。
「ま、俺は教師だから、思いっきり楽しむという事はできないのだが……」
神崎が一瞬、寂しげな表情を見せた。
そっか。教師だから、楽しく見まわるってことも……あれ? ちょっと待って……。
「楽しもう! 一緒に楽しみましょう!」
「……は?」
訝しげな顔をする神崎がなんだか可笑しかった。
だって、これは名案すぎる名案だから。
それからその日は、文化祭が楽しみでしょうがなかったのだ。




