14話:気まぐれな猫
神崎視点で書いてみました。
やっぱり男性視点って難しいです((笑))
深くベッドに体を沈めると、昂ぶっていた気分も少しは落ち着く。
本当に今日は疲れた。精神的にも、肉体的にもだ。
あの作り笑いを思い出すと、本当に反吐が出そうだ。媚を売るような目も気に食わない。
あいつのお家自慢を長々と聞かされたときは、本当に眩暈がした。
この婚約を防ぐために、杏奈と結婚したわけだが……あいつは別の意味で俺を苛立たせる。
見たことがない人種だ。金持ちの社長令嬢のくせに、庶民的な秋桜ではしゃいだり、無理やり結婚させた男を必死で看病したり……調子が狂う。
キスは黙らせるための手段。それ以上は手を出さずに、あいつが俺に惚れたら捨てる。
最低だとは思う。しかし、それほど情があるわけでもない。
だから、こんなにもかき乱されるとは思ってもみなかった。
……と思いに耽っていると、とんとんというノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
「し、失礼します」
杏奈の少し高い声とともに、遠慮がちな彼女の表情が見えた。
「何の用ですか?」
腰を起こすと、わざと無愛想に返した。
彼女はさらに怯えた表情になる。そう、それでいいんだ。俺に怯えていればいい。
「あの、大丈夫ですか? あ、えっと、別に気になっただけで……心配なんか……」
「ああ、大丈夫だ」
優しく微笑むと、彼女は心底、安心したような顔になる。
何故、素直に言わないんだ? 気になっただけじゃ、わざわざ部屋まで来ないだろう。
そう思うと、なんだかからかってみたくなる。
「来い」
「え? あ、はい」
彼女は俺との間を大きく開けて、控えめがちに座った。
そこがまた面白くて、もっと意地悪してみたくなる。
「くく……、もっとこっちに来てもいいんじゃないですか?」
「は、はぁ」
彼女は気の抜けた返事をして、身体をほんの少し横にずらした。
そんな彼女の肩をぐいっと掴み、引き寄せる。
彼女の身体はさらにびくりと縮こまった。そこまで怯えることはないはずだが……。
そう思うと、なんだかむかむかする。やっぱり彼女は俺を苛立たせ、かき乱す。
「えーっと……」
「これぐらい近くないと、話ができないだろ」
「……少しぐらい離れていても良いと思うんですけど」
彼女の小言は無視して、抱き寄せていた肩を離した。
別に話すことはなかったが、こうしてるのが心地よい。たったそれだけで、ふわりと暖かくなる。
家族の温かみを知らないからだろうか? そう思うと、余計に心地よかった。
そんな温かみに触れていると、ついうとうとしてしまう。こつんと横になると、何故だかそこは柔らかい。
「あの……伯さん?」
「なぁ、眠い」
「は、はぁ。だからって、膝枕はちょっと……」
「黙れ」
一言、罵声を浴びせると、たちまち深い眠りに堕ちていった。
ふわりと小さい手が髪を梳くようにして俺の頭を撫でる。優しい、暖かい手に安心しきってしまい、思わず笑顔を浮かべてしまった。
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神崎の表情があまりにも疲れて見えたから……それだけ。
優しく頭を撫でてあげると、安心しきったように喉を鳴らして見せる。
まるで、猫のようだ。気まぐれで意地悪な猫。
「どうしよっかな。この大きい猫」
ぼそりと呟くと、神崎は少し居心地悪そうに眉をしかめた。
眠っているのよね……? まるで、全部筒抜けって感じ。
溜息をつくと、神崎をなんとかベッドに寝かせ、毛布を掛けてあげた。……なんでこんな事してるんだろ。
「おやすみなさい」
穏やかな寝顔に一言呟くと、代わりにすーすーとした寝息が返ってきた。
静かにドアを閉めると、一人リビングに戻る。
まだ、国語の課題が終わっていない。思い出すと、身体も重くなる。
そういえば……あの女の人、綺麗だったな。
神崎とお似合いって感じで……って私、何考えてるのよ。
でも、何なんだろ。もやもやする。振り払っても消えない雲のような感じ。
私は、そのもやもやを吹き飛ばすように、大きく溜息をついた。神崎が起きたら、詳しく聞いてみよう。そう思うのは、単なる好奇心ではないのだろう。……と既に私は気づいていた。




