13話:予感
街はもうすぐクリスマスで、クリスマス色の赤と緑がちらほらと見える。
別にプレゼントなんて期待してる訳でもないが、麗子には何か送ってあげたいな……なんて考えつつも、麗子とのショッピングを楽しんでいた。
「どうでしょうか? これなんか良さそうでは……」
麗子は真冬にはスカートが短すぎると思われる白のワンピースを差し出した。
「スカートも短いし……麗子はもっと長めの方が似合うわよ」
「違います。杏奈さんに似合うと思いまして……ちょっと早めのクリスマスプレゼントにと」
麗子は屈託のない笑みを浮かべて、私を試着室に引きずりこもうとした。
それを私は必死で止める。
「無理無理無理無理! スカートよりもパンツで……」
「大丈夫ですわよ。これで、神崎兄貴もメロメロに……」
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その名前に一瞬固まってしまった。
麗子はその隙を見計らって、私を試着室へ閉じ込めた。
私に無理やり着せたワンピースは予想以上にひらひらしていて、足がほとんど出た状態になる。
「それじゃあ、カードでお願いしますわ。そのまま着るので、値札取ってくださりますか?」
「ちょ……麗子! 私、本当にいいから!」
「遠慮しなくてもいいですよ。これで素敵なクリスマスを過ごしてくださいね」
麗子のきらきらした笑顔を見ていると、なんだか何も言えなくなる。
「……ありがとう」
私はそれ以上は何も言わなかった。
まぁ、プレゼントをもらったんだから……素直に喜んだ方がいいよね。
そう思い、麗子に微笑み返した。しかし、麗子はそのまま大きく目を見開いて、私の奥の方を指さした。
「あ、あれ……」
「麗子?」
私は麗子の指さす方を見た。
綺麗な女の人……と神崎!? 驚きのあまり、二回も眼をこすってしまった。
どちらかと言うと、女性が神崎にくっついている感じだが、その二人はまるで恋人同士のようだった。
「浮気……ですわね。許せません。許せませんわ!」
「だ、大丈夫よ、麗子。浮気だって確定したわけじゃないし……。それに、私たちは愛し合って結婚したわけじゃ……ね? 行こう、麗子。」
「で、でも……」
まだ何か言いたそうな麗子の腕を強引に引っ張った。
違う。何でもないの。ただ、ちょっと驚いただけ。そうよ。きっと……。
視界が滲んでくるのは知らないふりをする。ただ、私は黙って大股に歩き続けた。
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「あ、あの、私……今日、麗子とショッピング行ってたんですよ!」
「……そうですか。それで?」
ごく自然に切り出したつもりなのに、思い返すと本当に不自然だ。
神崎は生徒の小テストの採点をしながら、興味もなさげに聞いていた。
「それでね、は、伯さんの姿を見かけたんですけど……」
呟くように告げると、神崎の手がぴたりと止まる。
そして、まっすぐに私を見た。
「へぇ、見たのか。浮気……とか言って責めるのか?」
「べ、別にそういう訳では……」
「こっちへ来い」
神崎が自分の隣を指で示した。
座れ……って事? 私は恐る恐る、彼の隣にちょこんと正座する。
すると、神崎はすっと私の方に手を伸ばした。びくっと身を縮こまらせたが、神崎はそのまま優しく髪に触れてきた。
「妬いたか?」
「……? 伯さん?」
1本、1本をなぞるように撫でてくる神崎はすごく悲しげな表情をしていた。
何かあったんだろうか……こんな神崎は見たことがない。
私はあえて逆らわずに、彼のされるがままにされていた。しかし、神崎ははっと我に返った表情をした。
「すみません。少し……気がおかしくなっていたようです」
「だ、大丈夫ですけど……何かあったんですか?」
「いえ。あぁ、あの女は……崇行が言っていた婚約者だ。あの女が勝手に家に来て、勝手に付き合わされたんです」
あの人が……。凄く綺麗な人だった。神崎と並ぶとお似合いで華やかで……。
もしかして、神崎に元気がないのもその人のせいなの……?
そう思うと、胸になにかしこりができたようなそんな気持ちが胸に広がった。
「すみません。俺はもう寝ます。後……今日見たことは忘れてください」
「え? ど、どうしてですか?」
「どうしてもです。それじゃあ、おやすみなさい」
私が何か言う前に、神崎は部屋を出て行ってしまった。
私はその神崎の背中しか見つめることが出来なくて、なんだかもどかしいもやもやした気持ちでいっぱいだった。
そして、これから何かが起こりそうな、そんな予感に不安でいっぱいになるのだった。




