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おまつり。

作者: 真央

 毎年夏になったらうちの裏にある、上田神社のお祭りに五人で行くのだった。

 小さい頃は土曜日のお昼に。五年生になってからは夕方に。

 はじめて子供だけで夜に出かけたときとその次の年はみんな興奮して盛り上がったけど、去年は理由は忘れたけど喧嘩した子たちもいてちょっと微妙。

 それでも今年も当然みんなで行くんだと思ってたのに、わたしが先週足を折ってたり期末テストの十日前だったりしてなんだかうやむやになったまま今日になった。

 庭でじょうろの水をまきちらしている弟をぼんやりとながめながら、わたしは自分が悪いみたいで釈然としない気持ちだった。

 みんな気を使ってくれたのかもしれないけど三年の時は長島のお父さんが入院してたからしょうがなく四人で行ったのに。

 来年は受験だから、やっぱり長島はいけない気がする。今日もわたしが行けないってわかった時あいつだけはお母さんを説得しなくてすむから気が楽だと言ってたのだから。

 広くもない庭には西日があたりひさしの下に座っているわたしですら汗が流れ落ちるのに弟ははしゃいでいる。

「あんた服ぬらしたらお母さんに怒られるんだからね」

 ちゃんと見てなかったってわたしが怒られるに決まっているが注意したところで弟は聞いてもいない。松葉杖で小突いてやるには距離がある。どうしてやろうかと思って顔を上げたとき垣根の向こうをひょこひょこと歩く夏の朝の朝顔のような赤紫の浴衣姿が眼に入った。

「シマちゃん」

「やっほー、暑いねー」

 びっくりしているわたしにシマちゃんはなんのこだわりもなく手を振った。

「今からお祭り?」

 毎年シマちゃんだけは一人浴衣を着てくる。去年までの紺色じゃなく新しい。

「うん、鳥羽とー」

「へえ……」

 シマちゃんと鳥羽と。わたしは行かない。多分長島も行かない。

 じりじりしながらでも何を言っていいかわからなかった。

 四人で行って来なよとは言った。

 シマちゃんは明るくまたねーと手を振って去っていった。ふうん。

 夕焼けがまぶしい。一番蒸し暑い時間にそれでも赤紫の浴衣は涼しげだった。

 とりあえずわたしは松葉杖を引き寄せ、靴をずぶぬれにしてしまっている弟の背中に放り投げた。

 弟はわあんと泣き声を上げ、結局わたしは怒られた。

 太陽がようやく山陰に隠れてほっとしたころ伊勢がうちに自転車でやってきた。

「宿題見せて」

「あらー、伊勢君背がのびたねー」

 机に背中まげて向かってる伊勢の身長をどうやってはかったのかお母さんが後ろを通り過ぎながら声をかけていった。

「晩ご飯食べていくでしょ」

「いや、うちで食べろって母ちゃんに言われてるから」

 伊勢が台所に向かって声を投げる。

「お祭りいかないの」

「明日クラスの連中と行く」

「ふーん」

「自分が行けないからって拗ねんなよ」

「別にすねてない」

 すねてない。べつに。

 伊勢が夜道をまた自転車で帰って行き晩ご飯も終わった頃、玄関から呼び鈴の音じゃなくてこんばんはーと声がした。

 すぐにわかった。

 わたしが松葉杖でとろとろ出てる間にどお母さんが先回りしていて喋っていた。鳥羽もいた。

「お、元気そうじゃん」

「昨日教室で会ったばっかじゃん」

 わたしと鳥羽だけ同じクラスなのだ。 

 シマちゃんはにっこりしておみやげの水風船とどんぐり飴をくれた。

「お見舞いー」

「これは俺から」

 鳥羽は明らかに百円くじの外れの紙笛をくれた。足が折れてるのでなければ蹴り飛ばしてやるのに。

「来年はまたみんなで行こうね」

 シマちゃんは優しい。小さいときから。

 外の道まで見送っていったお母さんが戻ってきてしみじみと言った。

「シマちゃん綺麗になったわねー。女の子らしくなって」

 そしてわたしをまじまじと見ると溜息をつくと無言で奥へ行く。

 わたしはしばらくそこに立っていた。

 お祭りが終わる合図の花火が遠く響いた。

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