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拍手の数だけ:観客席

掲載日:2026/04/18

この世界では、人は“拍手”で価値が決まる。

誰かを救えば、拍手が鳴る。

多く救えば、より多く鳴る。

それだけの話だった。

最初は、ただの善意だった。

誰かが誰かを助ける。

それだけで、拍手が起きる。

「いい人だな」

誰かが言う。

みんな頷く。

彼も、その一人だった。

回数が増えた。

あまりにも、都合よく。

事故が起きる。

彼が来る。

助ける。

拍手。

繰り返し。

「……またか」

誰かが小さく言う。

「タイミング、よすぎない?」

「まあな」

それで終わる。

否定はしない。

肯定もしない。

ただ、続く。

「でもさ」

別の誰かが言う。

「助かってるんだよな」

それで、全部流れる。

一度だけ。

助からなかった日があった。

静かだった。

誰も手を叩かなかった。

彼は立っていた。

動かなかった。

「……どうしたんだ?」

誰も近づかない。

少しだけ間があって、

誰かが手を叩いた。

一人。

遅れて、もう一人。

やがて、いつも通りの音になる。

「……まあ」

「仕方ないだろ」

何が、とは言わない。

その日を境に、

少しだけ変わった。

事故が増えた。

規模も大きくなった。

「さすがに、これは」

言いかけて、やめる。

意味がない。

だって——

彼が来る。

助ける。

拍手が鳴る。

前より、大きく。

「ほらな」

誰かが言う。

「必要だろ」

誰も反論しない。

できない。

止めたら、どうなるか分からない。

それより——

「助かってる方がいい」

その方が、分かりやすい。

やがて、街が壊れた。

人が減る。

それでも、

彼は現れる。

助ける。

拍手が鳴る。

数は減っている。

でも、音は大きい。

「……まだ足りないな」

誰かが言う。

何に対してかは、言わない。

さらに壊れる。

さらに減る。

それでも、

拍手は鳴る。

最後に残ったのは、

ほんの少しの人間だった。

瓦礫の中。

彼が、誰かを助ける。

拍手。

数人分の音。

やけに、大きく響いた。

「これでいい」

誰かが言う。

誰も否定しない。

できない。

ここまで来て、

違うと言う理由がない。

最後の一人が消える。

音が止まる。

誰もいない。

彼だけが立っている。

少し離れた場所で、

一人、見ていた。

何もしていない。

最初から、ずっと。

手を叩くことも、

止めることもせずに。

ただ、見ていた。

小さく、息を吐く。

「……まあ」

少しだけ間があく。

「俺たちは、何もしてないしな」

それだけ言って、

その場を離れる。

後ろで、何かが崩れる音がした。

振り返らない。

もう、見る必要はない。

この作品は「拍手の数だけ」の派生として書きました。

同じ世界の、別の立場から見た話になります。

正しさや価値は、意外と簡単に形を変えてしまうのかもしれません。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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