第三節 虚無の共鳴
「徹も頑張っている。私も頑張ろう」
「まみも頑張っている。しっかりしよう」
二人の頭脳を、同じ甘美な欺瞞が支配した。
以心伝心。
古人はそれを美しい美徳とした。だが、現代の窓越しに成立したそれは、単なる「相互利用」の謂いである。 彼らは、相手を人間として見ているのではない。
自分を孤独から救い出すための、便利な「記号」として消費しているに過ぎない。
空はいつの間にか、どす黒い紫から、死人の肌のような薄明るい灰色へと変化していた。
夜明け。
それは希望の象徴ではない。新たな闘争の始まりを告げる、無慈悲な合図である。
まみはペンを置き、大きく溜息をついた。
窓の向こうで、徹もまた電気を消した。
一瞬、すべてが闇に包まれた。
その瞬間、まみは冷ややかな空虚感に襲われた。
もし、今、隣の窓の徹が突然消え去り、そこがただの空き家だったとしたら。
自分が昨夜交わした「エール」は、一体どこへ届いたのだろうか。
いや、最初からそこには誰もいなかったのかもしれない。
彼女が勇気づけられたのは、徹という人間によってではなく、ただ窓ガラスに映った、自分自身の歪んだ願望によってだったのではないか。
朝の冷たい風が、窓の隙間から入り込み、彼女の首筋を撫でた。
机の上には、鉛筆の削りカスと、意味を失った「ガンバレ」の文字が残されている。
彼女は、まるで使い古された人形のように、ベッドへと倒れ込んだ。
外では、鴉が冷ややかに鳴いている。
現代という名の地獄において、孤独を分かち合うことなど、どだい不可能な相談なのだ。
ただ、窓ガラスという冷たい透明な壁が、そこにあるだけである。




