第3話 霧散する魔法と、再びの沈黙
蓮の指摘は、あまりに論理的で、反論の余地を与えなかった。
「アルゴリズムは、君たちの脳をハックしているに過ぎない。過去と現在を混同させることで、感情を揺さぶり、滞在時間を稼ぐ。君たちは、機械の計算式に踊らされた、滑稽なマリオネットだ」
彼は短いジョークを付け加えた。
「まあ、SNSの知能指数が低いのではなく、君たちの『情報の賞味期限』を見極める力が、腐敗していただけのことだが」
その皮肉な笑いに、教室に漂っていた気まずい重圧が、ふっと霧のように消えた。クラスメイトたちは、何事もなかったかのように、互いに苦笑いを浮かべ、自分の端末をポケットに収めた。
結衣は、自分の心の「エゴ」が引き起こした醜態に、激しい羞恥を感じた。彼女はすぐに親友へ、心からの——あるいは、自分を守るための——謝罪を送った。
夕暮れの教室。 茜色の光が、机の上に長い影を描いている。結衣は、自分を救ってくれた蓮に歩み寄り、礼を述べようとした。
「あの、ありがとう……」
しかし、蓮は彼女の言葉を、空気の振動としてすら認識していないようだった。彼は既に再びタブレットの画面の中、記号と論理が支配する美しい世界へと帰還していた。
結衣の自尊心も、友情も、クラスの秩序も、元通りになったように見える。 だが、僕の目には見えるのだ。一度ひび割れた信頼の裏側に、拭いきれない疑念という名の「黒い染み」が残っているのを。
蓮は二度とこちらを見なかった。彼は知っているのだ。一度解けた魔法も、人間が「愚かさ」という業を背負っている限り、また形を変えて現れることを。
僕はそんな彼の横顔を見ながら、一輪の桔梗の花が枯れるような、静かな虚無感を覚えずにはいられなかった。
結衣の誤解は解け、友情は守られた。めでたし、めでたし——とでも言うべきかな? だが、君のスマホの奥では、今日も次の「認知の歪み」が、静かに君を笑っているよ。




