23 元聖女と襲撃計画
有角種の男を騎士団本部に連行しているところだ。
サリアが男を縛り上げていた。口には布で猿轡を噛ませている。
念のため、自ら爆死を試みないようにお願いはしている。
そうなっても治してあげると言ったところ、男は泣いて頷いた。きっと私の手腕に感動したのだろう。
「その笑顔、やめろって。なんか怖ぇんだよ……」
ニコニコする私を、そんな風に評するサリア。
ちょっとだけ私から離れるような感じなのが、少し寂しい。けれど、それよりも今の私は怒っている。
男の話によって、『帝都中央総合治療院』を爆破した理由が『聖女フィアナを消すこと』だと判明したからだ。
私を狙うことはまぁいいだろう。良くはないけれど、敵対国なのだから理解はできる。
けれど、その手段として無関係の人たちを巻き込んだのが許せない。
しかも、治療院を爆破したのは『聖女フィアナが出入りした』という情報を掴んだかららしい。
つまり、私のせいであの爆発事件が起こったということになる。
直接的に私が悪いわけではないことは分かっているけれど、どうしても「私のせいで」という思いが燻るのだ。
その怒りは当然、有角種の男と魔王軍に向いている。
彼からはもう一つ重要な情報を聞き出した。
放置すれば、帝都オルデンを揺るがすことになりかねない。
だからこそ、こうして騎士団本部に向かっているのだ。
◆
騎士団本部の門にいる守衛の騎士に事情を話すと、あっさり通してくれた。
私の顔のおかげだ。可愛らしいとかそういうことではなく、単純に元聖女として顔が知れ渡っているだけだ。
サリアは黒い外套のフードを深く被り、素顔を隠している。外套の前を止め、例の変態的な装備もちゃんと見えないようにしている。
それでも十分怪しさ満点だけれど、私の連れということで、本部に入れた。
騎士の案内で、騎士団長ダリオスがいるという会議室に向かった。
騎士が会議室の扉を開けてくれた。
「あれ? イレーネ様もリーフェル様も、なぜここにいらっしゃるのですか?」
天煌教会の重鎮二人がダリオスと何やら話していたようだ。
「あら、フィアナちゃんじゃない。あなたこそどうして――」
リーフェルが言いかけ、私が連れてきた有角種の男を見て、目を細めた。
何があったのか察したらしいけれど、なぜその有能さを普段から発揮しないのだろうか。勿体ない。
「フィアナ様……その方は一体? え……魔族?」
「下がってくれ、聖女様」
イレーネが男の正体に気づき、ダリオスがイレーネの前に出て剣を抜いた。
イレーネ……そこで赤くなるのは場違いが過ぎると思う。
「大丈夫ですわ。この方は昼間の治療院爆破の犯人です」
私がそう告げると、ダリオスが目を見開いた。
「それは本当か」
「ええ。私のお友達が捕まえてくれたので、優しく訊いてみたら、快く答えていただけましたわ」
男の方を向いて「ね?」と微笑みかけると、彼は冷や汗をかきながら、こくこくと頷いた。
サリアがプッと笑ったのが聞こえたけれど、無視する。
「この方は騎士団に引き渡しますので、どうぞお好きになさってください」
「協力、感謝する」
剣を鞘に戻したダリオスが軽く頭を下げ、部下の騎士に男を連れていくよう指示を出した。
男が何故かほっとしたような顔をしたので、こそっと耳打ちしておく。
「おいたをしてはいけませんよ。何があっても、私が必ず、誰も死なせませんので。ええ、誰も、決して」
「んー! んー!」
男は猿轡のせいで話せないけれど、理解してもらえたようで何よりだ。
彼はそのまま騎士に連れていかれた。これから拷問されるかもしれないと考えると、心が痛むけれど、これも仕方ない。
「フィアナ様、一体何をしたのですか?」
「私も気になるわね~」
イレーネとリーフェルがそんなことを言うけれど、私がしたことは単純だ。
「ふふ、癒やしを施して差し上げただけですわ」
「ぷっ、くくく……」
サリアが今度は隠そうともせず、笑った。
まぁ、いい。
男を脅すことで、少しだけ溜飲を下げたけれど、本題はここからだ。
「ダリオス様。帝都に危機が迫っております」
「危機だと?」
私は頷く。
「魔王軍の小隊が帝都を直接狙っているようなのです。先ほどの有角種の彼から裏を取るとよいでしょう」
彼はその魔王軍の小隊の先兵だと言った。
あらかじめ、聖女を排除しておけば、戦場で負傷した騎士が戦線に復帰するのを抑えられる。
さらに、騎士たちの士気を下げることにも繋がる。
故に守備の要である聖女を始末するために、送られてきたのがさっきの有角種の男というわけだ。
私は既に聖女を辞めていたけれど、古い情報しか持っていなかったのだろう。
「だが、前線は隣国のはずだ」
アウレリア帝国も騎士を戦争に派遣しているけれど、主に戦争をしているのは隣国――それは事実だ。
しかし、最大戦力を持っている国がアウレリア帝国なのだ。
そこを先に叩き潰しておけば、それこそ魔王軍の士気は上がるだろう。
「規制をすり抜けるための小隊ですわ。小隊をさらに細かく分け、監視の目を抜けて、帝都の近くで再集結する。そうして準備が整い次第、帝都に奇襲をかける。そういう作戦だそうです」
魔王軍にとってもリスクのある作戦だけれど、うまくいけばメリットが大きい。
「ふむ……なるほど。場所やおよその集合日時も、フィアナ様は把握しているようだな」
あの男が詳しく教えてくれたのだから、当然知っている。
場所は帝都近くの丘陵地で、残された時間はあと二日といったところだ。
「彼が嘘をついている可能性もありますので、急いだ方が良いでしょう。こちらから逆に奇襲をかけるのが良いかと存じますわ」
「すぐに情報の確認と、戦の準備を始めよう。失礼する」
ダリオスが会議室を出てしばらくすると、少しずつ騎士団本部が慌ただしくなった。
いろいろと指示を飛ばしているのだろう。
「フィアナちゃん。そんなことまで調べ上げるなんて凄いわね。んー、逃した魚は大きかったわね~」
リーフェルが肩を竦める。
人のことを魚扱いしないでほしい。
「私は一介の治癒師でしかありませんわ。そもそもリーフェル様が働けばよいと存じます」
「言うようになったわね……いえ、フィアナちゃんは元々そんな感じだった気もするけど」
他にリーフェルに何か物申すことができるものなどいないから仕方ないだろう。あれでも枢機卿なのだ。
天煌教会全体でもトップクラスの地位にいる人だ。
立場的には聖女の方が彼女よりも下なので、そこまではっきりと文句を言ったことはない。
それができたら、今頃、私は聖女を続けていただろう。
これもまた、組織のしがらみというやつか。
そこにダリオスが戻ってきた。
「フィアナ様、貴女にも助力を願いたい。頼まれてもらえるだろうか?」
間接的に私のせいで、起こった爆破事件であり、これから起こる戦争だ。
前線に出るなんて嫌で仕方ないけれど、そうも言っていられない。
しかし、それでも線引きは必要だ。
「依頼されるのであれば、もちろんお受けしますわ」
「報酬についてはのちほど話し合うとしよう」
ダリオスが手を差し出してきたので、私はしっかりと握手をした。
「フィアナ様……」
イレーネがおずおずと話しかけてきた。また俗とかなんとか言うのだろうか。
そう身構えたけれど、
「聖女として、今のわたくしでは力不足です。わたくしからも、お願い申し上げます」
しかし、彼女は私に向かって頭を深く下げた。
ちゃんと成長しているようで何よりだ。
「もちろんですわ。それでは、教会からも依頼されるということですわね、リーフェル様?」
「ちゃっかりしてるわね~」
そう言いつつ、リーフェルは同意した。
その後、打ち合わせをして、それぞれの準備に入った。
魔王軍の小隊に奇襲をかけるには、明日の朝には帝都を出発する必要がある。
私はそれに向けて、徹夜で準備をすることになったのだった。




