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「聖女失格」と断罪されたので、喜んで引退します ~好条件なら「副業」でやってあげますよ?~  作者: 彼岸茸


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22 元聖女と工作員

 サリアは犯人のおおよその位置を特定していると言った。

 その言葉通り、彼女は迷いなく路地裏を進んでいく。


「裏の方々ってすごいですわね」

「まあな。あんまり信用できる奴らでもねぇけど」


 辿り着いたのは、廃屋だった。窓は板で塞がれ、隙間から漏れてくる光もない。

 このような廃屋は割とそこかしこにあるようで、悪い人たちの隠れ家になっているらしい。


「覚悟はいいか、フィアナ」

「ええ、いつでも」


 私が答えると同時に、サリアが入口の扉を蹴破った。


「な! 誰だ、てめぇ!」


 男の声だ。薄暗くその姿はよく見えない。


「さぁな、誰でもいいだろ? おっと、逃げんなって。寂しいじゃねぇか」


 私には見えなくても、サリアには見えているようだ。夜目が利くのだろう。

 暗闇に紛れる足音と、金属が風を切る音がした。


「ひっ」


 ……暗くてまったく見えない。携帯用の魔導灯を持ってきておいて正解だった。

 何があるか分からないから、備えは大事だ。


 灯りを点けると、ダガーが男の顔のすぐ横の壁に刺さっていたことが分かる。

 ついでに、サリアはいつの間にか男の目の前に移動しており、もう一本のダガーを突きつけていた。


 暗殺者というのも伊達ではないな。


「何なんだよ、てめぇらは!」


 情けなく叫ぶ男をよく見てみる。

 両方の側頭部から短く曲がった角が生えている。有角種か。

 魔族の中でもとりわけ、魔法の扱いに長けた種族だ。


 歴代の魔王も有角種だったと記憶している。


「あなたが治療院を襲った犯人ですね?」


 男が目を見開いた。こんなにも早くことが露見するとは思っていなかったのかもしれない。

 彼は顔を歪めた。


「だったら、なんだってんだ?」

「何をしたか、何が目的なのか、洗いざらい話してもらった上で、騎士団にお連れしますわ」

「ちっ」


 舌打ちをした男は、覚悟を決めたような表情をする。

 直後、魔法が発動する。


「サリア様、離れてください!」

「あんたこそ!」


 自爆するつもりだ、この男。

 正体がバレた工作員が情報を漏らさないために、自死を選ぶことは少なからずある。

 自国のために、命を散らすなど、私には理解できない感覚だけれど、その覚悟だけは認めてやろう。


 まぁ、大事な証拠をみすみす死なせるなんてことはしないけれど。


 男が発動したのは、治療院を爆破したのと同じ魔法だ。

 火水風の基本属性と、発展属性の金の合わせ技。その威力は大したものだ。


 けれど。

 その程度で死ねると思ってもらっては困る。


 私たちの方に来る爆風はサリアが風魔法で逸らした。それでも肌で熱気を感じる。


 一方、爆風と爆炎が収まった後に残されたのは、服がズタボロになっただけの有角種の男の姿だった。


「は……? え、なんで……?」


 男は間抜けな声を出しているけれど、私がしたことは大したことではない。

 ただ、爆発による体の損壊よりも早く癒やしただけだ。


「サリア様、守ってくださりありがとうございました。信じていましたわ」

「あたしも死にたくねぇしな。それにしても風通しが良くなったな」


 壁や天井に穴が開いていた。月がきれいだ。

 私は男に向き直り、告げる。


「さて、ではいろいろ教えていただけますか?」

「待て、何が起こったんだ?」

「おいおい、聞いてんのはこっちだぜ」


 サリアが一瞬にして、男の左腕を斬り落とした。

 ドサリと腕が落ちる。少し間があって痛覚が追いついたのだろう、男が痛絶な悲鳴を上げた。


「ぐ、ううああぁぁ!」

「サリア様、乱暴はいけませんわ」


 すぐに男の左腕を【大治癒(フルヒール)】で再生してあげる。元の腕と全く同じものが生えてきた。


「けれど、これで何度、斬り落とされても大丈夫ですわ。そうそう、私、魔力量と魔力制御に関しては貴方がた有角種にも引けを取らないと自負していますので、魔力切れは期待しないでください」


 そんなことができるようになる程度には、『聖女』は過酷なのだ。


「怖ぇこと言うなよ。こいつ、怯えちゃってんじゃねぇか」


 サリアも呆れるか、笑うかのどちらかにしてほしい。


「だ、誰が喋るか。殺されても――」

「あ、それは大丈夫ですわ。私が死なせませんから。目の前で人が死ぬのは嫌なのです」

「言葉だけなら、聖女なんだよな」


 もう……横から茶々を入れるのはやめてほしい。

 私は真面目に話しているのだ。


「脅しには屈さねぇ!」

「脅しだなんてひどい言いがかりですわ。貴方が何をされても。どんな目に遭おうとも。絶対にお助けする。そう申しているだけです」

「お優しいねぇ。それじゃ、もう一本くらいいっとくか?」


 サリアがダガーをくるくると回す。


「それも悪くありませんけれど」

「うわ、こいつ、腕を斬り落とすのを悪くないとか言ってやがる……はいはい、すんませんね」


 私が軽く睨むと、サリアは肩を竦めた。


「こういう方って痛みには強いですからね。どうせなら試してみたいことがあります」

「ろくでもねぇことな気がするが、なんだ?」


 私は周囲に視線を巡らす。丁度いいものを発見した。

 どこにでも生えている雑草だ。この廃屋が何に使われていたものかは分からないけれど、屋内にも関わらず、僅かな日光で逞しく育った雑草。


「有角種の方、この雑草が見えますか?」

「……それが何だってんだ」

「この健気な雑草には悪いですけれど、実験に付き合ってもらいます。治癒魔法をどんどんかけていくと、どうなると思いますか?」


 男は何も答えない。

 代わりにサリアが答えた。


「普通に考えて、すっげぇ元気になるか、何も変わらねぇんじゃねぇの?」

「私も前はそう思っていました。では実践してみましょう」


 治癒魔法を連続で雑草にかける。

 何回目かの治癒魔法で異変が現れた。


 ピンとしていた雑草が元気がなくなったように、しなしなとなり、最終的にどろどろのぐずぐずになった。


「とまぁ、こんな感じになります」

「前に『治癒魔法で人を殺せる』みたいなことを言ってたが、そういうことか」


 そこまで過激なことを言ったつもりはないけれど……あ、いや、言ったかもしれない。

 有角種の男に今度は別の質問をする。


「これ、人間に使ったことないのです。どうなるか、気になりませんか。私は知的好奇心を刺激されるのですけれど」

「おい、まさか……やめろ!」


 急に震えだしてどうしたというのだろう。


「治癒魔法で駄目になった部位ってどうやったら治るのでしょう。治癒魔法をかけたら、駄目な部位が広がりそうですし……治療薬(ヒールポーション)なら治るのでしょうか? 以前から試してみたいと思っていたのですわ」

「やめろ! おい、この女、頭おかしいぞ! そこの変態女! こいつを止めろ! ぶっ――」

「誰が変態だ、ああ?」


 サリアのことを変態なんて言うから、顔を蹴られるのだ。

 かわいそうに。

 癒やしてあげよう。


「ひっ、やめ……分かった、全部話すから! 頼むから、治癒魔法はやめてくれ!」

「そんなこと仰らずに、実験に付き合ってください。治癒魔法なので、きっと痛くないと思いますよ。まぁ知りませんけれど」

「いやだ! こいつ、狂ってる!」


 失敬なことを言う有角種には治癒魔法をプレゼントだ。


「話すって言ってるのにィ!」

「はいはい、そこまでな、フィアナ。おお、かわいそうに、こんなに震えちゃって」


 サリアだって蹴ったり斬り落としたりしていたではないか。

 私だけを悪者みたいに言うのはやめてほしい。


 ともあれ、有角種の男は快く私たちの質問に答えてくれた。

 それはとても重要な情報であり、私の怒りに触れるものでもあった。


 さっきまでは冗談だったけれど、本当にこの男で治癒魔法の実験をしたくなった。

 大人なので、我慢するけれど。


 ただ、この情報は私とサリアだけでどうにかできるものではない。

 早急に帝国騎士団と天煌教会にも共有しなければならない。

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