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「聖女失格」と断罪されたので、喜んで引退します ~好条件なら「副業」でやってあげますよ?~  作者: 彼岸茸


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14 元聖女と新装備

 鉢から庭に植え替えてから数日経った。

 毎日、ちゃんと治癒魔法を押し込んだ水をあげている。


 その成果だろう。既に葉っぱがいくつかついている。

 教会の薬草園でも、私の薬草は育つのが早かった。

 この調子でいけば、(ポーション)作りに取り掛かれるのも近いかもしれない。


 この数日の間に、自室に置く作業台や加熱用魔導具の購入も済ませた。

 重たいので、サリアにも手伝ってもらい、部屋に運び入れた。


 文句を言いながらも手伝ってくれるサリアはいい人だ。

 なんで暗殺者なんてやっているのだろうか。


 それはさておき、もう少しで薬草の葉っぱを収穫できる。

 そろそろオルセンからウイスキーを買ってもいいかもしれない。


 今夜にでも《憩いの灯火》に顔を出すとしよう。


 今日の水やりをしていると、サリアが出てきた。


「そろそろ依頼を受けようと思うんだが」

「いいですね! 待っていましたわ!」


 探索者としての初依頼だ。これは気合いを入れていかないといけない。

 と意気込んでいたのだけれど。


「その前にその服じゃ駄目だろ。森の中に入ってみろ。すぐにボロボロになるぜ? ボロボロになるのが服だけならまだいいけどな」

「探索者の方の服はもっと頑丈なのですか?」

「当たり前だ。じゃねぇと魔物と戦うなんて怖くてできねぇって」


 言われてみればそうだ。

 激しく動き回るだけでなく、魔物から攻撃されることもあるのだ。それなりに頑丈でなければ、装備代だけで稼ぎが消えていくだろう。


 聖女時代のあの重苦しい聖衣もそういう意味があったのかもしれない。

 一応、戦争に駆り出されることもあったのだから、身を守るための装備でもあったのだろう。

 重くて動きにくいのは、考えたほうがいいけれど。


「どこかいいお店はありませんか?」

「あたしがよく行くところでよければ紹介してやるぜ」

「それは面白そうですわ」


 早速、支度をしてから、買い物に出かける。


「楽しみですね、サリア様」

「別に……ただの装備を買いに行くだけだろ」

「それが楽しいのではないですか。私、お友達とお出かけなんてしたことがないのですわ」


 聖女になる前から教会で過ごしてきた。

 それに聖女になってからは公務と《憩いの灯火》に行く以外で、教会から出ることはほとんどなかった。

 友達と呼べるような人もいなかった。


「別にあたしとあんたは友達ってわけじゃねぇだろ……」


 サリアが呆れたように言うので、私は肩を落とした。


「え……そうなのですか。私はてっきりお友達になれたものとばかり……」

「あーもう、分かったよ。友達でいいから、元気出せって」


 ひょっとしてサリアも友達がいないのではないか?

 職業が職業だし、そんなことが頭をよぎった。


     ◆


 サリアお勧めの装備屋は探索者ギルドの近くにあった。

 探索者がよく使う店なので、それも当然のことだ。


 近くには『魔薬調合大全』をくれた老婆の薬屋もある。

 生活が落ち着いたら、薬屋にも顔を出さないといけない。


 装備屋の看板には、服の絵が描かれている。


「よ、大将。来てやったぜ」


 サリアが店内に入る。

 彼女に続いて私も中に足を踏み入れると、さまざまな意匠の服が並んでいた。武器の類はなく、身に纏うものがメインだ。

 金属製の鎧などはなく、すべて、布や革でできた商品ばかりだ。


 店主らしき武骨な男性がぎろりとサリアを見ていた。


「なんだ、サリアか。また冷やかしか?」

「またってなんだよ。いつも買ってんだろうが」


 サリアからすると気心の知れた相手のようだ。付き合いも長いのだろう。


「今日は客を紹介しに来たんだよ。ほら、友達のフィアナだ」


 あ、友達って言ってくれた。ちょっと嬉しい。


「フィアナって、前の聖女の? お前の友達ってガラじゃねぇだろう」

「本当だって。なぁ、フィアナ」


 サリアが私を振り向く。


「はい。サリア様はお友達ですわ」


 店主は私に視線を向けると、小さく「マジか」と呟いた。


「その女に騙されてんじゃねぇのか? 困ったら騎士に相談した方がいいぜ?」


 店主は心配そうに私に助言をしてくれる。


「んなことしてねぇっての。馬鹿にするんなら余所に行くぜ?」

「冗談だ。で、元聖女様は探索者に転職したのか?」


 私は頷いた。


「うちは結構、値が張るぜ? 基本的にオーダーメイドだからな」


 棚に並んでいるのは商品の見本ということか。

 多少高かろうが、お金ならある。貰うだけ貰って、使う暇のなかった聖女時代の給与だ。

 最近はいろいろと物入り用だったので、少し減ったけれど、まだまだ残っている。


「オーダーメイドなんて素敵ですわ」

「おい、フィアナ。ひとまず、今日は見本のどれかにしとけ。オーダーメイドは時間かかるんだよ」


 採寸して、生地を選んで、そこから生地を切ったり縫製したりするので、どうしても数日はかかるようだ。

 今回、探索者としての依頼を受けに行くので、そんなに待てないとのことだ。


 むぅ……仕方ない。

 今日のところは既製品で我慢するとしよう。


「好きに見てくれや、元聖女様」


 店主もそう言うので、ゆっくりと見て回ることにする。

 それほど広い店内ではないけれど、店の奥は作業スペースになっているのだろう。

 オーダーメイド専門ならこんなものなのかな。


 見本の商品は男物も女物もある。シンプルなデザインから凝ったものまであり、あの武骨な店主がこれを作っていると考えると、なんだか不思議だ。


「デザインはあのおっさんじゃなくて、奥さんだぜ」


 というのは、サリアの言葉だ。縫製をするのは店主らしいので、やはりなんだか不思議だ。


 女物の装備をいくつか見て、ある商品で手が止まった。

 白を基調としたバトルドレスで、赤いラインが入っている。

 ポイントでフリルがついているのも点数が高い。


 なんだこれ、可愛い……


 魔水銀(ミスリル)を加工した繊維が織り込まれているので、魔力伝導率が高い。

 さらに汚れを弾く特殊加工までされている。

 それに可愛い。あ、さっきも言ったか。


 防御力は高そうだけれど、そのお値段も驚くほど高い。

 まぁ、そこは比例するところらしいし、仕方ない。


「それが気に入ったのか? いいじゃん。試着してみたらどうだ?」

「いいのですか?」


 店主に問うと、「もちろんだ」と親指を立てた。

 試着室で着替えてみる。少々胸がきつめだけれど、それ以外は良いサイズ感だ。

 聖女時代の聖衣に比べ、軽くて動きやすい。少なくとも着ているだけで疲れるなんてことはなさそうだ。


 姿見に映る自分は、なんというか、なかなかイケているのではないだろうか。


 試着室から出て、サリアにも見せる。


「どう、でしょうか?」

「へぇ、似合ってるじゃねぇか。いいと思うぜ。な、大将?」

「そうだな。少し調整するだけで良さそうだ。それくらいならすぐにできる」


 再び試着室に戻り、元着ていたチュニックとパンツ姿に戻る。

 もう一度、値札を見る。


 高い。

 けれど、買えないことはない。私の貯金の大半と引き換えに買うことはできる。


 どうせ装備は必要なのだ。

 安物買いの銭失いという言葉もある。


 何より、この可愛い衣装に一目惚れしてしまった。


「……これは自分自身への投資ですわ。そう、必要経費なのです」


 そう自分に言い聞かせ、高らかに告げる。


「買います!」

「毎度あり!」


 店主の反応も速かった。

 天煌カードで支払いを済ませると、


「ちょっと待ってろ」


 と店主がバトルドレスを店の奥に持っていった。

 ややあって戻ってきた彼はバトルドレスを私に渡した。


「寸直しをしたから、もう一度試着してみろ」


 私は頷いてから、試着室に入る。

 今度はどこもピッタリだ。胸も苦しくない。

 プロの仕立て屋は見ただけで、いろいろとサイズが分かるらしい。


 この装備で依頼を受けるのが楽しみだ。


「破れても泣くなよ?」


 サリアが不吉なことを言うけれど、そんなことは絶対にさせない。

 このバトルドレスは大事に使っていくのだ。

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