表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「聖女失格」と断罪されたので、喜んで引退します ~好条件なら「副業」でやってあげますよ?~  作者: 彼岸茸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/25

13 元聖女と引っ越し

「おい、起きろ。いつまで寝てるつもりだ」


 翌朝、私は体を揺さぶられた。


「……むにゃ……あと少し……」


 まだ午前休憩の鐘も鳴っていないのに、ベッドから出るなんてどうかしている。


「いいから、起きろって」


 ひときわ強く揺さぶられたので、仕方なく体を起こす。


「……おはようございます、サリア様」


 ふわぁ、と伸びをしながら朝の挨拶をする。


 ちなみに、宿の女将は追加料金を払うだけで、サリアを部屋に入れることを許可してくれた。

 優しさ、というよりは現金な感じだ。


 ここは私が借りた部屋なので、ベッドは私が使ったのだけれど、サリアを横にできる場所がなかった。

 なので、適当に床に転がしておいた。それもあって、彼女は早く目が覚めたのだろう。血を失っているのに、元気なものだ。


「ああ、おはよう……って、そうじゃなくてだな。なんであたしを助けた?」

「なんでって……貴女が治せと言ったからですわ。それに人が目の前で死ぬのって嫌じゃないですか」

「それ、暗殺者の前で言う?」


 そういえば、サリアは暗殺者だった。人をこっそり殺す――つまり目の前で人が死ぬ――のが仕事だ。


「まぁ、私は嫌なのです。それに気絶した女性を一人放置するほど、悪魔ではありませんわ」

「……助かったのは事実だが、あんたはそれでいいのか?」


 聖女は人を助けることを生業とするけれど、暗殺者はその真逆だ。

 サリアはそのことを言っているのだろう。


「構いませんわ。世の中、いろいろな職業がありますから。仕事に貴賤はありません。貴賤があるとすれば、その人の在り方でしょう」


 私の周囲には仕事に対し、真面目な人が多かった。騎士団長のダリオスや《憩いの灯火》のオルセン、特に新聖女のイレーネは生真面目といってもいい。

 仕事をしないリーフェルは間違いなく『賤』のほうだ。


「なんか変な奴だな、あんた」

「失敬なことを仰らないでください」

「ああ、すまん。悪気があるわけじゃねぇんだ」


 サリアが苦笑してから、続ける。


「フィアナには二つも借りができた。ちゃんと返さなきゃ、あたしのプライドに関わる。誰か、殺してほしい奴がいたら、無料(ただ)で殺ってやるぜ?」

「そうですね……人殺しは私の趣味ではありませんので、遠慮させてもらいます。死んでほしいほど恨んでいる人もいませんし」


 他に何か彼女にしてほしいことはあるだろうか。

 私が困っていることと言えば、安宿が狭いことだ。私一人が暮らすのには申し分はないけれど、薬草を育てるとなると話は別だ。


「広くて、周囲に異臭がしても大丈夫な場所はありませんか?」

「異臭って……何をするつもりだよ……」


 サリアが呆れたように尋ねる。


(ポーション)作りをしようと思っています」


 ヒールハーブやキュアグラス、マナスパイスを煮詰める段階で、青臭さと苦さが混じったような匂いが発生するのだ。

 私は嫌いではないけれど、慣れない人にはとても臭いらしい。


「……あると言えば、ある」

「素敵ですわ! どこですか?」

「あたしの隠れ家の一つだよ。隠れ家っつーか、探索者としての拠点だけどな」


 あれ? と私は首を傾げた。


「暗殺者ではないのですか?」


 私の問いに、サリアは肩を竦めた。


「本業はな。でも、そんなしょっちゅう殺しの依頼があったら、物騒すぎんだろ。だから、普段は探索者をしてるんだよ」


 暗殺稼業も楽ではないということか。


「ちなみにお一人で?」

「まあな」


 私は考える。

 私が探索者として活動するのを諦めたのは、前衛となる仲間がいないからだ。


 本業は薬作りをするつもりだ。

 けれど、その素材を自分で採集することができれば、素材の購入費を浮かせられ、依頼の報酬を稼ぐことができる。


 私とサリアの出会いはつまり、そういうことなのだろう。

 出会うべくして出会ったのだ。


「ここに優秀な治癒師がいますよ? 私とパーティを組みませんか?」

「え? やだよ」


 即答である。


「なんでですか? いいじゃないですか!」

「ずっとソロでやってきたし、別に仲間なんていなくても――」

「そんなことを言っていると、また瀕死の怪我を負いますわ」

「ぐ……」


 これまでは大した怪我をすることなくやってこれたのだろう。しかし、その前提は昨日、崩れたはずだ。

 二度目の大怪我があってもおかしくない。


「私がいると、その場で癒やして差し上げることができます」

「た、確かに……」


 私に戦闘能力はないので、完全なお荷物になる可能性もあるけれど、そんなことを言う必要はない。


「もちろん、状態異常になっても治すことができます。食中毒で一晩苦しむなんてこともありません」

「……分かった、分かったよ。あんたと組めばいいんだろ」

「ありがとうございます。それでは早速、サリア様の拠点に引っ越しましょう」


 私は意気揚々と荷物をまとめ始める。こういう時、私物が少ないのは役に立つ。


「あたしの家に行くのは決定なんだな……つーか、昨日、自分を襲ってきた相手の家によく行けるな」

「私の勘が、サリア様は悪い人ではないと言っていますわ」

「やっぱ、変な奴だ……」


 失礼なことを言うサリアを無視して、外着に着替え、寝間着も鞄に突っ込んだ。

 教会の官舎を出た時と違い、製薬釜があるので、鞄はパンパンになった。


 三つの鉢植えは、そのうち二つをサリアが運んでくれた。やっぱり、いい人だ。


     ◆


 サリアの拠点は下町の一角にあった。

 小さな戸建てで、なんと、狭いながらも庭付きである。これなら、薬草たちをのびのびと育てることができる。


 なんとなく探索者の拠点って汚いイメージがあったのだけれど、家の中は意外にもきれいにしてあった。


「そこの部屋が空いてるから、適当に使ってくれ」


 どこに作業台を置いて、どこに加熱用魔導具を置いて、などを考えるとわくわくする。

 作業台も魔導具も買わないといけない。


 それよりも、薬草を育てるのが先決だ。

 薬草が育つまで、少し日にちがかかるので、その間に必要な道具を揃えればいいだろう。


 まずは荷ほどきをして、それから庭へ向かった。


 サリアは庭も好きにしてくれていいとのことだったので、鉢植えの土ごと、日当たりのいい場所に植え替えた。


 せっかくなので、残っている種も蒔いた。全部を蒔けるほどの広さはないけれど、今はこれで十分だ。

 植え替えと種蒔きが終わり、ジョウロで水やりをする。地植えだし、きっと大丈夫と信じて、それぞれに適した魔法を水に込める。


 ヒールハーブには治癒魔法を、キュアグラスには回復魔法を、マナスパイスには純粋な魔力を。


 大きく育ってくれたら嬉しい。


 そんなことをしていると、ちょうどお昼の鐘が鳴ったので、家の中に戻る。

 ダガーの手入れをしていたサリアに声をかける。


「家に住まわせてもらうのですし、何かお昼でも作りましょう」

「あん? フィアナ、料理できるのか?」

「それなりにはできますわ。聖女時代、教会の厨房で夜食を作ったりしていましたし」


 お腹が空いて頭が回らなくなる前に、夜食を作っていたことを思い出す。

 普段の食事を作ってくれる修道女は既に寝静まっていたので、自分で作っていた。


 野菜を切るのも、薬草を切るのもそう変わらない。

 というわけで、余っていた野菜と干し肉で簡単なスープを作った。具材を切って、煮て、味を整えただけのシンプルなスープだ。


「美味そうじゃん」


 サリアはそう言って、私が作ったスープを飲み干した。


 聖女時代ではありえなかった、のんびりとした空気感。

 悪くない……むしろ、良いと思う。


 これから、薬草を育てて薬の開発をしつつ、時々探索者として素材を集めたり、依頼をこなしたりする。

 拠点ができたのだから、オルセンに頼んでウイスキーを分けてもらう必要もある。


 スローライフ……と言うには、少々忙しくなりそうな気がする。

 けれど、それは教会の多忙さとは違い、充実した毎日になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ