1 聖女と断罪
はじめまして、こんにちは。
数ある作品の中から見つけていただき、ありがとうございます!
本作は「聖女失格」と言われたけど、むしろ喜んで辞めてしまう元聖女の物語です。
本日は30分おきに4回投稿します。
明日からの三連休中は1日2話更新、
連休明けからは毎日1話更新し、だいたい3週間程度で完結する予定です。
※当作品は「小説家になろう」「カクヨム」「Nolaノベル」に同作者名義で投稿しています。
※当作品はプロット整理、本文の校正に生成AIを使用しています。
「聖女フィアナ様、貴女は聖女に相応しくありません!」
聖女候補筆頭であるイレーネの声が高らかに大聖堂内に響き渡る。
私――フィアナは勝ち誇ったような表情のイレーネを見た後、周囲を見渡す。
外は曇っているのか、ステンドグラスから注ぐ光はどこか色あせており、普段は清浄で厳かな雰囲気の大聖堂もただ重苦しい空気に満ちているだけだ。
集まっている面々の中には立場ある者もいる。
ここ、アウレリア帝国の帝都オルデンにある天煌教会帝都支部を治める枢機卿であるリーフェル。
帝都の防衛の要である帝国騎士団の団長ダリオス。
探索者ギルドのギルドマスターまでいる。
さすがに皇族はいない。
残りは他の聖女候補や神官、修道女などだ。皆、一様に心配そうな顔をしている。
わざわざ私のために集まったらしい。
ならば、私もそれに応えねばなるまい。
「イレーネ様の仰る通りですわ。謹んで、聖女を辞したいと存じます」
言葉こそ丁寧だが、内心では拳を突き上げたい気分だ。小躍りしたいまである。
口角が持ち上がるのを見られないように、視線を下げる。
肩が小さく震えてしまうけれど、きっとこの断罪を悲しんでいるように見えるだろう。
神官や修道女たちにざわめきが起こる。
「え……ちょ、ちょっとフィアナ様! せめて理由を聞いてからにしてください!」
イレーネがそんなことを言う。
私が辞めると言っているのだから、それでいいじゃないか。
私が首を傾げていると、リーフェルが口を挟む。一応、彼女は進行役なのだ。
「まあまあ、フィアナちゃん。理由くらい聞いてあげたら?」
「まぁ、いいですけれど」
早くも私の化けの皮が剥がれそうだ。
面倒臭い聖女をやっと辞められるのだ。早くしてほしい。
イレーネがゴホン、と咳払いしてから、持っていた紙を読み上げる。
「聖女フィアナ様は夜な夜な酒場に出入りしているとの噂があります。聖女ともあろう御方が、毎晩飲酒をするのはいかがなものでしょうか」
言い訳してみろ、という顔を私に向けてくる。
「そのような事実はございません」
「目撃情報が多数あるのですよ」
行きつけのバーには堂々と行っているので、私の姿を見た人がいてもおかしくはない。
イレーネはそんな人たちを探して、話を聞いたのだろうか。
まさか、暇なのか?
そんなことを考えている場合ではない。ちゃんとイレーネに言い訳をしなければ。
「公務で深夜まで残業をすることがあるので、さすがに毎晩は無理ですわ。行ける日は必ず行きますけれど」
聖女だって人間だ。酒くらい飲んでも問題ない。
教会の教えに飲酒を禁ずるものはないし、帝国法に基づく飲酒可能な年齢もクリアしている。
文句を言われる筋合いはない。
しかし、イレーネはそうは思わないらしい。
「神職にありながら、酒に溺れるなど……!」
「ストレスの発散にはもってこいですよ?」
聖女とはストレスフルな職業なのだ。
「……次に行きます。フィアナ様は自らやるべき職務を他者に押しつけているとの話があります」
「ええ、本当なの、フィアナちゃん?」
人に仕事を押しつける筆頭のリーフェルにそんな風に言われるのは心外だ。
「そもそも聖女がやらなくていい仕事なら、別に誰がやってもいいでしょう?」
やれやれ、と私は肩を竦めた。もう取り繕う気などまったくない。
「誰にでもできる仕事を、私に振るのがおかしいのですわ。ただでさえ忙しいというのに、余計な仕事まで抱えることはできません」
だから他の人に仕事を振るのは当然だ。仕事の効率化と言ってもらいたい。
「無責任なことを仰らないでください。ご自身が楽をするために、仕事を押しつけるのはいかがなものかと存じますが?」
「私に仕事が押しつけられている、とも言えますけれど」
イレーネがキッと私を睨んだ。
机に積まれた書類の山に比べると、まったく怖くない。
「……それだけではありません。フィアナ様は『神などいない』と吹聴して回っていると聞き及んでいます。真実ですか?」
「はい」
私は即答した。
「な……! 神に仕える身でありながら、神の存在を否定するなど不敬です! 言語道断です!」
「そうは仰いますが、いかんせん見たことがありませんわ。どう思われますか、リーフェル様?」
暇そうにしているリーフェルに話を振る。
「それ、私に聞いちゃう? イレーネちゃんはどう思う?」
あ、誤魔化しやがった、こいつ。
問われたイレーネは質問に答える。
「もちろん、いらっしゃいます。確かにお姿を拝見することは叶わないでしょう。ですが、お祈りは必ずや女神様に届いていると信じております」
「お祈りで仕事が減ってくれたら嬉しいのですけれど」
しかし、そんなことはない。つまり、神はいないのだ。
だいたい聖女という役職は信心深いから就けるわけではない。
治癒魔法や回復魔法が優秀だから、聖女に選ばれるのだ。
「減らず口を叩かないでください、フィアナ様!」
「誠に申し訳ございません。嘘が苦手な性分なのです」
「と、とにかく! フィアナ様はこれらの理由により、聖女に相応しくありません。わたくしは断言いたします!」
集まっている面々にもよく聞こえるように、彼女は告げた。
「……お恥ずかしい限りで恐縮ですけれど、イレーネ様の仰る通りです。私に聖女の資格などございませんわ」
再び、周囲がざわつく。
「だから、私なんて聖女を辞めさせた方がよろしいかと存じます」
「え……いや……」
なぜ断罪する側のイレーネが困惑しているのだろう。
もしかして、この場で私を断罪することで、私を品行方正な聖女にしようと思っていたのだろうか。
この私が心を入れ替えることを期待したのだろうか。
ないない。
なんせ聖女など辞めたくて仕方ないのだから。
「フィアナちゃんが辞めちゃったら、後任はどうしようかしらね」
リーフェルがそんなことを言う。
「それでしたら――」
私はにやりと笑った。
「イレーネ様などいかがでしょうか?」
「え? わたくしですか?」
「ええ。清廉潔白で、仕事熱心、神への信心も厚いとなると、イレーネ様を置いて他にはおりませんわ。魔力量も十分でしょうし、適任かと存じます」
彼女が引き受けるのであれば、私としては嬉しい限りだ。
「イレーネ様、いかがでしょうか? 酒好きで仕事を人任せにして神を信じない私よりも、格段に聖女に向いていますわ」
「ですが……」
「イレーネ様なら、天煌教会をよりよくすることも可能でしょう。ね、リーフェル様?」
「え? あ、うん。そうね」
リーフェルの適当な返事を聞いて、ようやく決心がついたようだ。
イレーネが力強くコクン、と頷いた。
「分かりました。わたくしでよければ、聖女の務めを果たさせていただきます」
よしっ!
これでやっと辞められる!
さすがに天高く拳を突き上げることはしないけれど、心は浮き立つ。
気づけば、ステンドグラスからは色とりどりの光が降り注いでいる。私を祝福しているかのようだ。
「あ、でも、フィアナちゃん」
そんな私の気持ちに水を差すリーフェル。
「引き継ぎはちゃんとやってね?」
「お任せください!」
あと数日で聖女を辞められるのだ。それくらいのこと、なんの問題もない。
別に私は仕事をしなかったわけではない。イレーネは勘違いしているようだけれど。
「それではイレーネ様、明日より引き継ぎを始めます」
「承知いたしました。よろしくお願いいたします」
イレーネは丁寧に頭を下げた。
悪い子ではないのだ。きっと、私のことが嫌いで断罪したのではないのだろう。
明日から、教会治療院での患者の治療、薬草栽培、薬作り、騎士団の模擬戦への参加などイレーネに伝えるべきことは山ほどある。
それさえ終われば、私は自由の身となる。
そのことを考えるだけで、今晩の酒は美味くなりそうだ。
次回投稿は本日 18 時半頃の予定です。




