第4話 完敗
「ハッ!!」
「ギャッ!!」
自慢の角を使った一角兎の突進。
その攻撃を横に跳ぶことで躱した前は、刀を振り下ろして斬り倒す。
「よっしゃ! また倒したぞ!」
羽瀬寺の若い僧侶である蒼羽と羽絃の引率を受けつつ、初の魔物討伐の仕事をおこなう前と賢。
最初は2人で1羽の一角兎を倒したが、その余裕具合から1対1でも戦えるだろうと蒼羽と羽絃は判断した。
そのため、前には蒼羽が、賢には羽絃が付く形で1対1で戦わせるようになっていた。
2手に分かれ、一角兎を探しては討伐をおこない。
前は2羽目の一角兎を倒すことに成功した。
「やるね。前」
「っ! くっ! 一羽差か……」
少し離れた所から、定石道理の見事な倒し方を感心した様子で賢が声をかけてきた。
その声に反応して賢のいる方へ顔を向けると、前は討伐成功の嬉しかった表情から一気に悔しそうな表情へと変わる。
と言うのも、2羽目を倒した自分よりも賢の方が1羽多く一角兎を倒していたからだ。
「前……」
「何だよ?」
「蒼羽兄が言ったように、魔物退治で勝負なんて考えない方が良いよ」
「う、うるせっ!」
前から悔し気な表情で見つめられた賢は、困り顔で蒼羽が今朝言った忠告を再現する。
賢はそんな気さらさらなく、競争しているのは自分だけだという状況が何となく恥ずかしくなったのか、前は顔を赤くしてそっぽを向いた。
「賢の言う通りだぞ。魔物退治は危険が付きものなんだから」
羽絃も賢の言葉に賛同する。
一角兎をはじめとした弱い魔物しか出ない場所とはいえ、魔物討伐はいつどんなことが起きるか分からない。
大怪我をしたり、最悪の場合によっては命を落とす可能性だってある。
そうならないため、余計なことを考えずに集中することが大切だからだ。
「……分かってるよ。けど……」
前としては、学問でも稽古でも賢に負けてばかり。
だから、魔物退治では自分が上になりたいという思いがあった。
まだまだ子供だからこその考えだ。
年上の蒼羽と羽絃からすると、その気持ちは分からなくはない。
なぜなら、自分たちも前の年齢の時は同じような思いをしていた時期があったからだ。
かといって、前ほどあからさまではないが。
そのため、2人はやれやれと言った表情で前を眺めていた。
「初めてでこの成果なら充分だろ?」
「そうだな。もうそろそろ帰るとするか?」
前と賢の初めての魔物討伐は問題なくできた。
結果としては充分のため、蒼羽と羽絃は町に帰ることを検討し始めた。
「えっ? 何で?」
「ちゃんと教わっただろ? 夜の魔物の方が厄介だって」
まだまだ疲れてもいないのに、どうして2人が帰る話を始めているのか前には分からない。
首を傾げている前に、賢がその理由を教える。
夜の魔物の動きは、暗闇での戦闘に慣れていない目では反応できない場合が多い。
魔物討伐で大怪我を負う可能性が高いのも夜だ。
それは寺の授業でも教わったことだ。
「分かってるよ! けど……」
たしかに、夜に魔物と戦うのは危険だということは学んでいる。
しかし、日が暮れ始めるにはまだ時間がある。
折角初めての魔物討伐だというのに、賢に負けたまま帰るのはなんか納得できない。
負けず嫌いがゆえの思いから、前は帰ることを渋った。
「じゃあ、あと1羽倒させてしてくれよ!」
「……ったく」
「仕方ないな……」
前がこうなったら、何を言っても聞き分けない頑固なことが分かっている、
それが分かっているからか、たしかにまだ時間があるため、蒼羽と羽絃は折れることにした。
「賢もいいか?」
「別にいいよ」
負けたままより同点の引き分けにして帰りたい。
そんな前のわがままに対し、賢は大人な対応で羽絃の問いに返答した。
“ガサッ!!”
「居たっ!!」
あと1羽と言っても、見つからなければ日が暮れる前に町に帰ることを条件とし、蒼羽と羽絃は前に魔物討伐の続きを許可した。
すると、すぐに近くの草が振動する音が聞こえてきた。
その音から、前は一角兎だと判断し、刀を手に向かって行った。
「あっ!」
「おいっ!」
前の行動に蒼羽と羽絃は慌て、静止の声を掛けようとする。
しかし、それはもう遅く、前は魔物との距離が縮まっていた。
「ゲギャ!?」
「なっ!?」
背の高い草を抜けて魔物の姿を見た瞬間、前は驚きの声を上げて足が止まる。
なぜなら、3尺5寸(約106cm)ほどの身長をした小鬼がいたからだ。
醜い容姿をしているとはいえ、人に近い姿をした魔物。
そのため、前は驚きも相まって討伐に躊躇する気持ちが出た。
「ガァッ!!」
「うわっ!!」
思わず足が止まってしまった前とは反対に、小鬼の方は殺意をむき出しにして襲い掛かってきた。
棍棒のような木の枝を振り回してきた小鬼の攻撃に再度驚いた前は、思わず尻を打ち付けるように転んでしまった。
「ギギッ!!」
「ぐっ!!」
転んだ前に更なる攻撃を仕掛ける小鬼。
その攻撃を、体勢不十分の前は受け止めることで精一杯。
そのまま鍔迫り合いのような状況になり、前は体勢を整えることも反撃することもできない。
「はっ!」
「ギャッ!!」
急に飛び出した前をすぐさま追いかけた賢による素早い一閃。
それにより、小鬼の首が斬り飛ばされる。
「油断大敵だよ。前」
「…………」
好敵手と思っていた相手に、危機的状況を助けられた。
完敗という2文字が頭に浮かび、礼を言うこともできず、前は呆けた表情で賢を見ることしかできなかった。




