第3話 魔物退治
「賢!」
隣を歩く賢に向かって声をかける前。
「うん?」
「どっちが多く倒すか勝負だからな!」
声に反応した冷静な賢に対し、前は気持ちが昂っている様子だ。
「おい、前! 魔物退治は遊びじゃないんだぞ!」
「ふざけていたら大怪我するぞ!」
「分かっているよ。蒼羽兄、羽絃兄」
前と賢の前を歩く剃髪した15歳前後の見た目をした2人の少年。
名前は前が言ったように蒼羽と羽絃と言い、少し背が高く面長な方が蒼羽で、丸顔でがっしりした体型の方が羽絃だ。
彼らが住んでいる羽瀬寺は、魔物退治も仕事の一つとしており、今日は前と賢にとって初めて魔物退治を行う日だ。
魔物退治ができて、ある意味一人前の剣士とも言える。
剣士として生きていくことを目指しているためか、前は興奮が抑えられないでいるようだ。
しかし、魔物退治は危険がつきもの。
冷静にさせるために、引率役の蒼羽と羽絃の2人は注意を促した。
「いいか? ここからは警戒して行動しろよ」
「はい!」「は~い!」
魔物や敵国の侵攻から防ぐため、町を覆うように建てられている防壁。
その防壁の外に出るための門を潜ったところで、蒼羽がもう一度前と賢に向かって注意を促す。
町の外に出たら、いつ魔物に遭遇するか分からないからだ。
その注意に対し、賢は真面目に、前は若干楽しみが抑えられないといった様子で返事をした。
「とはいっても、町近くの弱い魔物が相手でしょ?」
「あぁ、お前たちの実力なら、冷静に対応すれば問題ないはずだ」
森の深ければ深い場所ほど、魔素が濃いと言われている。
人や魔物が魔法を使用するために必要なのが魔力。
その魔力の根源となるのが魔素なのだが、それは何も良い事ばかりではない。
空気中の魔素が集まって結晶体になったものを魔石と言い、その魔石を体内に宿した生物が魔物と言われている。
濃い魔素は生物にとって毒のような害を及ぼすことがあるが、魔物にとっては取り込むことでより強い生物へと肉体を変貌させる場合がある。
そのため、深い森の方が強い魔物が存在しており、町の周辺に出現するような魔物は、賢の問いかけに羽絃が答えたように弱い魔物がほとんどだ。
前と賢のような魔物討伐初心者には丁度良い。
「……っ!」
「……一角兎だ」
町から少し離れた場所にある森。
その手前に来たところで、前を歩く蒼羽と羽絃が何かに反応するかのように足を止める。
その2人の視線の先には、頭に一本の角を生やした小型犬ほどの大きさをした兎が存在していた。
一角兎と言う種類の魔物だ。
「あいつとの戦い方はちゃんと覚えているだろ?」
「うん!」
「もちろん!」
寺では、武術だけでなく読み書き計算などの勉強も教えている。
その中には魔物に関するものも存在しており、危険度や特徴などを覚えるように言われている。
その特徴を利用し、戦う時や逃走する時に有利にするためだ。
優等生の賢は当然だが、計算の勉強時間だとやる気のない前も、魔物に関することはちゃんと勉強している。
前の目標である剣神の一番の仕事は、この国を守ることだ。
この国の脅威となる事と言えば、強力な魔物の出現だ。
どんな魔物が相手でもこの国を守れるように、様々な魔物と戦って勝利を収められるようになるため、他の教科よりも真面目に学習しているようだ。
「じゃあ、まずは見本を見せる」
「「うん!」」
前と賢に一言告げ、羽絃は一角兎へと近づいて行った。
「ブーブー!」
足音で羽絃のことに気付いたのか、低い声で鳴く一角兎。
威嚇している時の鳴き声だ。
そんな一角兎に対し、羽絃は持っていた薙刀を構えた。
「キシャー!!」
薙刀を構えたまま、ゆっくりと一角兎との距離を詰める羽絃。
そんな羽絃に威嚇していた一角兎だが、睨み合い続けることに耐えられなくなったかのように飛び掛かってきた。
「シッ!!」
「ギッ!!」
兎特有の跳躍を利用した突進。
それによって、羽絃の腹を頭の角で突き刺そうという狙いだ。
羽絃はその突進を左へと飛び退くと薙刀を一閃し、一角兎の首を斬り飛ばした。
「……今のように、一角兎は武器となる角で突き刺そうとしてくる。でも直線的だから横に避け、隙だらけになったところを仕留めるのが定石だ」
倒したすぐあと、羽絃は一角兎の血抜きを始める。
その時間を埋めるために、蒼羽が前と賢に説明を始める。
一角兎の攻撃をまともに受ければ、当然大怪我をする。
場合によっては命を落とすことになるかもしれない。
しかし、蒼羽が言うようにその攻撃は直線的のため躱しやすい。
寺で勉強した通りの戦い方で、まさに見本と言ったところだ。
「じゃあ、次見つけたら2人にやってもらおう」
「うん!」「よっしゃ!」
蒼羽の言葉に素直に頷く賢に対し、前は「待ってました!」と言わんばかりの返事をした。
「落ち着いてやれば問題ない。それに、もしもの時には俺と羽絃が助けに入る」
「「分かった!」」
賢は、年上の者たちを相手にしてもいい勝負をするくらい剣の腕が立つ。
なんだかんだ言いつつも、前もなかなかの腕前だ。
その二人が協力すれば、一角兎くらい問題ないはず。
そんな考えから、蒼羽は次発見したなら二人に退治をやらせることにした。
ようやくといった思いからか、前と賢は声を揃えて返事した。




