【エピローグ】 カーテンコール
【鷹見伊緒】
『綿矢さんと仲直りできた。ありがとう』
自宅で課題を進めていると龍君からLINEが届いた。
まったく手の焼ける許嫁だ。
今の龍君はやっとボッチ生活から抜け出したばかりのリハビリ中みたいなもの。ここで雫と仲違いしては、また殻の中に閉じ籠ってしまうかもしれない。
そうなってしまうと困るから今回は二人の仲を上手く取り持ったところ。
ちゃんと自分で雫と話して仲直りができたならもう大丈夫だろう。
ボクもそろそろ龍君にガッツリアピールしなくちゃ。
所詮、ボクたちの許嫁関係なんてお父さんたちが茶飲み話でしていたようなもの。
でも、ここからは親の意向なんて関係ない。
ボクと龍君の気持ちがちゃんと一致して彼氏彼女になるんだ。
きっと、続編ではボクと龍君の甘々な日常がたっぷり十万字に渡って語られるはず。
だから、みんなには是非とも砂糖特盛への耐性を身に付けてもらいたい。
【綿矢雫】
鬼、悪魔という言葉をあとで三枚堂先生にはぶつけたい。
時刻は間もなく最終下校時間。
私と丹下君が無心で処理した結果、アンケートのデータはまとまった。
首、肩、背中、腰がバキバキになって伸びやストレッチをしたところで簡単には回復しない。
「丹下君、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。」
パソコンを凝視して目が疲れたからか丹下君は目頭を押さえている。
「眼精疲労?」
「うん、たぶんそう」
「眼精疲労に効くツボ押してあげよっか?」
「そんなのあるの?」
目頭から手を離した丹下君が顔を上げる。
「もちろん、私もゲームして疲れた時に押すんだ」
私は立ち上がって丹下君の後ろに立つ。すると、丹下君はちょっとびくっとした。
そんなに警戒しなくてももうあんなことはしないよ。
というよりも、あんな大胆なことをしてしまった自分が恥ずかしい。
何がヒントだよだ。
あぁぁ、もう、あの時の私どうかしてた。
きっと、あんなことをしてしまったのは、丹下君が頑なに友達だからなんて言うから。
せめて、友達以上恋人未満っていうところだよね。
私は首の骨の横で髪の生え際の辺りの窪み――風池と呼ばれるツボを親指でぐいっと押す。
「あぁぁ、いい、そこそこ、くぅぅ、効くぅぅぅ――」
ガラッ
「そろそろ、下校時間だぞ。終わったか?」
教室の前方の扉が開き入って来たのは兄である三枚堂先生。
「「……」」
兄さんの突然の訪問に私も丹下君も硬直したままになってしまう。
「雫……、おい、丹下、さっき教室の中から聞こえてきたあの声はどういうことだ」
「あ、あれは、作業で凝り固まったところを綿矢さんにほぐしてもらってて……、っと言うか、先生、教室の前で聞いていたんですか!?」
丹下君、噓は言ってないけど、どこか誤解されそうな気がする。
まったく、正直なんだけど不器用なんだよな。
まあ、そこがいいところなんだけどね。
【丹下龍之介】
三枚堂先生の誤解を解いていたら最終下校時間を過ぎてしまった。
まだ、冬ということを感じる季節ではないけど、この時間になれば外は真っ暗だ。
もっとも、学校から綿矢さんが使う地下鉄の駅までは街灯も多く設置されているからそういう意味ではそこまで暗くない。
「丹下君、もちろん、駅まで送ってくれるよね」
「言われなくたって、そのぐらいはさせてもらう」
俺の奉仕活動を手伝ってこの時間になっているのだから当然だ。
昇降口に生徒の姿はなく、施錠当番の先生に閉めるからさっさと帰ろと急かされる。
校門を出て並んで歩く二人。
綿矢さんは相合傘をしてるかのような距離でぴったり俺に付いてくる。
「綿矢さん、ちょっと近くないか?」
「そうかな。か弱い乙女が夜道を歩くんだから遠いより近い方がいいでしょ」
そうだけど、それにしたって近い。
「か弱い乙女は自分のことそんなふうに言わないから」
「バレたか」
「バレたなら、もうちょっと離れて」
「うーん、ちょうどいい距離感がわからないなー。そうだ、こうすればいい距離が保てる」
綿矢さんはすっと俺と手をつないだ。
「えっ!」
綿矢さんの温かな体温がじんわりと俺の冷えた手を温めてくれる。
「これなら、いい距離で迷子になることもないから一石二鳥」
「校門から駅まで一本道なのに迷うの」
「丹下君、それは野暮というものだよ。可愛い女子高生と手をつないでるんだから、もう少しデレてよ」
いや、デレるなんてものじゃない。さっきから心臓がうるさすぎて困っているのに。
まったく、綿矢さんといるとスリルを味わうことも多いし、こうやってドキリとさせられることも多い。
心臓の鼓動が一生に何回までという制限があるのなら、綿矢さんと一緒にいると、きっと寿命が縮まってしまう。
でも、俺はそれでもいいと思えるくらい隣にいる相棒とこれからも一緒にいたい。
【第一部完】
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