表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/41

第31話 早朝準備

 連日の智慶祭に向けた準備で疲労は溜まるが、学校の授業は平常運転で進められるからある程度は予習や復習をしないといけない。


 これだけでも俺にとってはかなりハードモードな学校生活なのに最近になって追い打ちをかけるような事が三枚堂先生から伝えられた。


 各クラスの幹事は智慶祭の当日も実行委員と一緒に運営のお手伝いもしないといけないということだ。もちろん、お手伝いのための事前説明会や会議にも出席しないといけない。


 絶対に智慶祭の当日も仕事があるなんて言ったらなり手がいないと思って隠していたな。大人はやることが汚い。


 こうなってくるとハードモードというよりナイトメアレベルの難易度だ。


 少しでも睡眠時間を確保して疲労を回復させるためアイリスと一緒にゲームをする時間はどんどん減っていく。


 もちろん、それはアイリスも同じことなので俺があまりログインできなくても文句を言ったりはしない。


 しかし、アイリスと一緒にゲームすることは俺にとっての居場所であるのと同時にストレス発散の方法でもあるので、その時間が減るとどうも調子が狂う。


「龍ちゃん、口から魂出てるよ」

 学校から帰った俺が倒れるようにソファーにもたれかかっている姿を見た七海姉さんがプリンを食べながら言う。


「外装展示の作成が予定より遅れててマジで口から魂出そう。あと一日しかないのに」

「なんだか、昔の私を見てるみたい。だいたいこうなるのよ」


 緩めのワッフルTシャツにフランネルパンツという緩い姿の姉さんは昔を思い出しているのか、プリンを味わっているの判別がつかない顔でスプーンを口に運んでいる。


「今週から部活が休みになるから人が増えると思っていたのに、部活の方で出し物がある人も多いから思ったより増えなくて……」


 残りの言葉はため息にして吐き出した。


「あるあるだよね。でも、今日からの全日準備期間は日中みんながクラスの準備をしてくれるから結構進むでしょ」

「うん、でも、それを加味しても結構厳しい」

「弱気だね」

「ちょっとな。泊まり込みは禁止だから、明日の朝、早く行ってちょっとでも進めようかと思ってる。焼け石に水かもしれないけど、何もしないわけにはいかないから」


 最終の下校時間は必ず守らないといけないが、始業前の作業は禁止されていないからそこを狙う。


「ついに、早朝作業のカードを切る?」

「そうするしかないかな」


 もちろん、クラスのみんなにそんなこと提案すればハレーションが起こるから、俺がそっとできることをやろうと思う。


 となれば、明日はいつもよりかなり早起きしないといけないから今夜もゲームはなしで寝た方がいい。綿矢さんには今日も無理っていう連絡をしておこう。


「やっぱり幹事は大変だね」

「姉さんの時も?」

「まあね」

「あの外装展示作った姉さんを今はちょっとだけ尊敬する」

「えっ……、龍ちゃんが私を尊敬……。今の録音しとかなかったの一生悔むわ」


 拳を太ももに打ち付ける姉さん。


「そんなにかっ!?」


 たしかに今まで姉さんに対してそんなこと言ったことなかったけどさ。


「それじゃあ、そんなに頑張ってる龍ちゃんに差し入れを持って行ってあげるよ」

「差し入れ?」

「そう、智慶祭って卒業生がけっこう差し入れを持って来るんだよね。特に部活関係の出し物に多いみたいだけど」


 こないだの三枚堂先生のお菓子みたいなものだろうか。できるなら今度は戦争が勃発しないようなお菓子にしてもらえると助かる。


「ありがとう。やっぱり、そういうのあると士気が上がるから助かる」

「ねえ、本当にこの龍ちゃん本物? いつからこんなに素直で可愛らしくなったの」


 ペットの大型犬を撫でるように姉さんが俺の頭を撫でるけど、もう、それを振り払う気力も残っていなかったりする。

 駄目だ。早く寝よ。


 ●


 午前六時半。

 朝の学校の空気はいつもと違って少し湿っぽく、それでいてぴんと張りつめているように感じた。そんな空気で満ちているまだ誰もいない校内を歩くのは、寒い冬の朝に通学路の水溜りに張った氷を割るような感覚に近い。


 外装展示を作成している教室の前に着くとまずは夜の間に壊れたりしてないか軽く確認。それから、教室に入って昨日のやり残した作業に手を付ける。


 今からみんなで作業を始める始業開始までにできる作業なんてたかが知れているが、それでも一歩でも前に進まなくてはと思った。


 幾何学模様の枠に張り付けるカラープラスチックシートを切り取るための線を引いていいると、

「いけませんね。こういう抜け駆けは」

「龍君、またそうやって一人でやろうしてる」


 張り詰めた空気の教室に突如響く二人の声。


「えっ!? 二人ともどうして?」


 やば、びっくりして線が歪むところだった。


「昨日、七海ちゃんが龍君が抜け駆けしようとしてるって教えてくれた」

「そうです。抜け駆けして一人いいかっこうしようとしてると」


 姉さんが綿矢さんたちにこのことを伝えてるなんて全く知らなかった。

 つーか、姉さん、いつ綿矢さんと連絡先交換してたんだ。


「別に抜け駆けってわけじゃなくて、みんなに言うと朝早いから反発があるかと思って」

「あー、そういう……、雫、やってしまったな」


 伊緒が隣に立つ綿矢さんを見上げる。


「ですね」

「やってしまったって何を――」

「おはよー。さすが、三人とも早いな」


 目をこすりながら入って来たのは富樫だ。


 そして、富樫に続くように次々とクラスメイトが作業用の教室に入ってくる。


「雫が昨日の夜にみんなにグループメッセージを送った」

「マジで!?」


 そんなメッセージ見てないというか、昨日は疲れ切って家に帰ってからスマホを全然触ってなかった。

 ポケットからスマホを取り出して、メッセージを確認する。


『外装展示の準備が予定より遅れています。明日の前日準備ですが、可能な人は6時半過ぎから作業参加をお願いします。今は皆さんの力と協力が必要です。助けてください。よろしくお願いします』


 綿矢さんの聖女様モード全開というようなメッセージに手を合わせてお辞儀をするキャラクターのスタンプまで添えたものが送られていた。


 綿矢さんがこのトーンでお願いすればそりゃみんな早く来るよな。


「さあ、龍君、みんな集まって来たから指示出して指揮を執って」

「お、俺が!?」


 みんなが早く出てきてくれたのって、俺のためじゃなくて綿矢さんからお願いされたからじゃ。


「昨日までだって、ずっと全体の指揮は龍君がしてたんだから」

「そうですよ。すべての作業と完成図が頭に入っているのは丹下君ですからお願いしますね」


 物語の途中には主人公ではなく、モブキャラに一瞬スポットライトが当たるようなシーンがある。きっと今がその時なのだろう。


 ここからもう一度立て直そう。

 どこまでやれるかわからない。

 だけど、今できる最善で本番までにできる最高のものを目指してやるしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ