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第26話 嫉妬✖嫉妬

「ねえ、龍君」

「ん?」


 電車通学の綿矢さんと地下鉄の駅の入り口で別れると隣を歩く伊緒がこちらを見ることなく声を掛ける。


「どうして、幹事に立候補した?」

「三枚堂先生に頼まれたから」

「今の龍君しか知らないのに?」

「いや、先生は昔のことも知ってた。それに誰もやりたがらないと綿矢さんが立候補して一人で背負い込むだろうから助けてやって欲しいって」

「たしかに龍君が手を挙げなかったら最悪、雫しか手を挙げなかったかも」

「だろ。あっ、これ、綿矢さんに言うなよ。変に気を遣うから」


 今になって思うと、もし、綿矢さんや伊緒が手を挙げなくて俺一人でやることになる場合もあったと思うとかなりリスキーだったな。


 夕暮れの駅前の交差点で信号待ちのため足を止めると夕日に染められた伊緒がこちらを見上げる。


「相変わらず、龍君は友達に優しいな。だから中学の時だって――」

「もう、いいんだ。そのことは」


 伊緒の言葉を遮り、切り返す。


「伊緒こそ、なんで手を挙げたんだ」


 伊緒はこういうことが嫌いではないが、積極的にまとめ役やリーダーを買って出るタイプではない。


「そ、それは、龍君がし、し……」

「俺がし?」


 いつもさばさばと話す伊緒にして珍しく口をまごつかせている。


「し、死せる豚かと思っていたけど、またやる気を出したみたいだから手を貸そうと思って」

「誰が死せる豚だよ」


 まったく、伊緒も綿矢さんも時々俺の心をえぐってくる。


「だって、最近まで死せる豚だったじゃないか。眠れる獅子って雰囲気はなかった思うけど」

「高校生で眠れる獅子の雰囲気出せるって大物すぎだろ」

「と、とにかく、ボクは龍君が前みたいに頑張るなら助けようと思っただけ」


 まったくと言うように頭を掻く伊緒。


 そういえば、昔もこんな感じだったな。俺が何かしようとすると、伊緒が後ろにくっついて何か手伝おうとしてくれる感じ。


「ありがとな。よく知っている伊緒がいると俺も助かる」

「へっ!? ちょっ、ちょっと」

「どうした?」

「りゅ、龍君がボクに優しい……。さては貴様偽物だな」

「痛っ!?」


 伊緒は俺のわき腹を思い切り突いてきた。

 これも思い出した。伊緒は昔から俺が優しくするとこうやって攻撃してくるんだった。


 横断歩道を渡ると、ここで俺と伊緒は帰り道が別れることになる。


「じゃあ、明日もよろしくな」

「待って」


 制服の裾が引っ張られて左に曲がろうとした俺の足が止められる。


「ちょっ、どうした?」

「もうすこ……に……えろ」


 通りを走る車の音と俯いて小さな声で言う伊緒の相乗効果で何をいっているか聞き取れない。


「ん? もうちょっと大きな声で言ってくれ」

「え、えっと……」


 聞き取りやすいように少しかがんで伊緒と同じ目線する。


「も、もう、すっかり暗くなってきているから、うちの近くまで送って!」


 伊緒はなぜか怒った小型犬のようにさっきよりも大きな声で言った。


 さっきと話している長さだいぶ違わないか。それに暗いと言ってもまだ日は落ちてない。


「一人で帰るの怖いのか?」

「別に怖くなんかないもん。もういい、一人で帰る。龍君のバーカ」


 眉を逆八の字にして頬を膨らませた伊緒は、そのまま彼女の家の方に足を向けて進みだした。


 まずい。思ったよりも怒ってる。


「じょ、冗談ですよ。伊緒さん。ちゃんと送らせていただきます」


 急ぎ方向転換して数歩前の伊緒に追いつくと空いていた手を取った。


「へっ、龍君!?」

「ん?」


 足を止めた伊緒の視線が繋がれた手に落ちる。

 その瞬間、これはさっきよりも何かまずい状況だと本能的に悟ったが、すでに遅い。


「だ、誰れが手まで繋げって言った」

「痛っっ」


 俺が繋いでいた手を離すと同時に伊緒の手はさっきの一撃よりも速度を上げて俺のわき腹を強襲。


 今どきはもう暴力系ヒロインって流行らないからキャラ変することオススメしたい。

 俺はわき腹をさすりながら先を歩く伊緒の後を追った。


 ◆


 広い平原を見渡す限り埋め尽くす水色のぷにぷにしたモンスター。


 最弱クラスのモンスターであるスライムでも、これだけの数がいるとなかなか壮観な眺めだ。


 今日はアイリスと一緒にこの平原にいるスライムの掃討するクエストをしている。


 アイリスの職業であるモンクは一点集中の攻撃を得意とするのでこういう雑魚モンスターを掃討するクエストには不向きなのだが、アイリスからの希望でこのクエストに挑戦中だ。


「ちょっと、スライムにそこまでの技を使わなくてもいいんじゃないか」

『タツはわかってないね。ライオンはウサギを狩る時もゾウを狩る時も常に同じように全力な・ん・だ・よ』


 よく言われるような言葉だけど、ライオンだってゾウに立ち向かう時とウサギとじゃ絶対に覚悟や気持ちの作り方違うだろ。


 スライムが百回くらい転生しても消化できないようなダメージを叩きこむアイリス。


 やめて、スライムのHPはとっくにゼロよ。


 直接口に出して言わないが、今日のアイリスは絶対に内心どこか荒れている。学校にいる時は特に変わった様子がなかったから帰宅してからだろうか。


「ねえ、家で何かあった?」


 俺の一言でそれまで派手な技を次々に繰り出していたアイリスの動きが止まった。


『別に家では何もないよ』


 いつもより温度が低い声が返ってくる。


 ってことは俺が原因か!? 


 ちょっと待て、学校で綿矢さんの地雷を踏むようなことあったか? 智慶祭の幹事の仕事だって和やかに進んでいた気がするけど。


「えーっと、まったく思い当たる節がないのですが――」


 パチンッ。


 俺のすぐ横にいたスライムがアイリスの拳で弾き飛んで消えていった。


『鷹見さんとはいつから名前で呼び合う間柄に……』


 さっきよりもさらに温度の下がった声がヘッドフォンから伝わる。


 そっか、伊緒と友人関係復活したって話してなかったな。


「えっと、実は伊緒とは親戚同士で、もともと幼馴染だったんだけど、最近はずっと疎遠で……、でも、綿矢さんと友達になったことを話したら、それがきっかけでまた友達になったんだ」


『ふーん、そうなんだー。友達にしてはなんかすごく仲良さそうだったなー。私のことは友達なのに〝さん〟づけだしなー』


 アイリスがいじけたようにつぎつぎに周りのスライムを蹴散らすと、カナンの地を目指すモーゼが海を割ったように道ができる。


「じゃあ、綿矢」

『…………』

「あれ、どこかおかしかった?」

『どうして、苗字! 今の流れは名前の方だよねっ』


 だって、〝さん〟づけだって言うから〝さん〟を取ったのに理不尽だ。


「そ、それなら、アイリスが先に俺のこと名前で呼んで」

『ふぇいっ』


 急に聞いたことがない声を発するアイリス。


 もともと、伊緒とは親戚同士だから苗字じゃなくて、名前で呼んでいて、それがそのまま続いているだけだ。


『りゅ、龍n――』


 パチンパチンパチンパチン。

 連続する破裂音と共にアイリスの周りにいるスライムたちが次々に合体していく。


「アイリス、下がって」


 俺が言うより先にバックステップして敵との距離を取るアイリス。


『もしかして、追加クエスト!?』

「だな。いつもならこんな敵出てこないから」


 合体を続けたスライムはついに家よりも大きなサイズにまで成長した。


 巨大スライムがぷるんぷるんと体を振るわせて動くたびに地震のように地面が揺れる。


『やっと、私向きの奴が出てきた』

「追加クエストのボスだからかなり強いぞ。注意して」

『強いとか弱いとか関係なし。全力でちのめすだけ』


 最初からフルスロットルでの攻撃態勢にはいるアイリスに俺は急いでサポートに入った。


 とりあえず、名前で呼ぶのはもう少し先にしよう。

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