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第19話 雨、縮まる距離②

 地下鉄の駅がある大通りの交差点を抜けて脇道に入ると一気に人通りはなくなる。

 住宅とお寺と墓地が並ぶ道はこの辺に住んでいる人くらいしか通らない。


「丹下君って、意外と大胆だね」


 うちの学校の生徒が全く見えなくなったところでアイリスモードになる綿矢さん。


「大胆って何が?」

「そんなとぼけちゃって」


 綿矢さんにうりうりと肘でつつかれると、こっちは相合傘をしているからよけることができない。


 問題はつつかれることより距離が近くなるってことだ。

 マジで心臓への負荷が半端ない。


「俺って慎重派だと思うけど? 綿矢さんみたいに無謀な突撃とかしないし」

「ちがーう、ゲームのことじゃない」


 眉間にしわを寄せていぶかしんでいると、

「女の子を家に誘うってこと。今のでマイナス五万点」


 綿矢さんがジト目でこっちを見る。


 学校ではお目にかかることができない貴重な表情だ。


「どういう基準の点数だよ。それに誘ったのは大胆とかじゃなくて、ほっとけなかったから」

「理由なんてなんでもいいんだよ。あの時、丹下君の方から誘ってくれたってことが嬉しかったから。いつも何か誘う時は私からばかりだもん」


 理由は大事だろ。俺が変態紳士だったらどうするつもりだ。


 ただ、いつも誘うのが綿矢さんからっていうのは間違ってない。


 最初にコラボカフェに誘ったのも、放課後に遊びに行くのも、ラインのIDの交換や普段のやり取りだって綿矢さんからだ。


「誘ってもらってばかりでごめん」

「ううん。むしろ、いつも付き合ってくれてるから感謝してるよ」

「……付き合う」

「あ、え、あれだよ。付き合うってのは友達としてってことで」


 もちろん、友達としてなんてことはわかってる。


 それよりも〝付き合って〟という言葉で先日の昼休憩の告白を思い出してしまった。


 これからも綿矢さんが誰かに告白されることはあるだろう。


 その結果、その人の恋人になっても俺には関係のないこと。


「も、もちろん、わかってるよ」


 黙っていた方がいい。今、心の中にあることを聞いたって藪蛇になるだけだってわかっているのに、この時の俺は我慢できなかった。


「……あのさ、もし、綿矢さんに彼氏ができても俺とは今までどおりゲームしたりして遊んでくれるかな」

「なになに、急にどうした?」


 こんなこと聞くなんて面倒くさい奴だよな。

 それに彼氏ができたら今までと同じように遊べるわけないじゃん。


 いつもなら「ごめん今の忘れて」なんて言って、走って逃げることができたかもしれない。

 しかし、今日の状況はある種の密室のようなもので俺の『逃げる』のコマンドは選択不可になっている。


「その……、ごめん。こないだ聞いちゃったんだ。昼休憩に裏庭で告白されてるの」


 綿矢さんは怒ったり軽蔑したりすることなくいつもと変わらない様子でいる。


「そっか、聞かれちゃったか」

「別に盗み聞ぎするつもりはなかったんだけど、たまたま、あそこでご飯食べてて」

「あそこに呼び出したのは私じゃないし、あんなオープンな場所ならそういうこともあるよ」

「ってことは怒ってない?」


 綿矢さんはもちろんと首を縦に振ってから続ける。


「あの時の話を聞いてたなら今みたいな心配しなくてもいいんじゃない?」

「へっ?」

「だって、誰かと付き合うよりも丹下君と遊ぶ時間の方が大事だから」


 俺と遊ぶ方が大事……。


「そっかー」


 空気の抜けるビーチボールみたいに肩の力が抜ける。


「もしかして、今のことずっと気にしてた?」

「それは……、多少は」

「大体、学校での私しか知らない人と付き合っても上手くいかないと思わない?」

「まあ、ゲームの時の姿がバレたら速攻で振られるかもな」

「おぉ、自分の不安が解消したら強気だね」


 ニっと歯を見せて笑う綿矢さん。


「まあ、そういうことだからこれからも頼むぜ、相棒」


 差し出された拳に俺も拳を合わせた。

 今日、一番の幸運はあなたなんて言っていた占いコーナーはあながち間違いではなかったかもしれない。


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