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第15話 盗み聞きとむっつり

 数日前までは暑くて少し歩けば汗をぬぐっていたのに、ひと雨降った日を境に空気がガラッと変わって過ごしやすい季節になった。


 暑すぎず寒すぎずこの季節がちょうどいい。春も似たようなものかもしれないけど、春に比べて秋の方が食べ物が美味しい季節だと思うから秋の方が判定勝ちというところだ。


 そんな季節になれば、リア充達の巣窟である華やかな中庭はお弁当を広げる女の子グループやカップルが跋扈して背景担当の俺が入ることができないような結界が張られる。


 一方、校舎裏手の裏庭と呼ばれる場所は教室棟から少し遠かったり、中庭に比べれば寂しい雰囲気があったりして、ベンチが設置されていてもここで昼ご飯を食べる生徒は俺を除いていない。


 弁当を食べ終わり、ペットボトルに入ったお茶を飲む。


 風もなく気持ちのいい午後だからこのままここで昼寝でもしたいところだけど、そんなことをすればきっと昼休憩どころではなく、午後の授業時間もここで爆睡だろう。


 眠気を払うために伸びをしてから、スマホを取り出しLINEのメッセージを確認する。


 未読のメッセージはなし。

 ただ、今まで家族との連絡メッセージしかなかったトークの履歴が最近、綿矢さんによってたわいもない会話で埋められるようになった。


『姉さんのことを綺麗だって言ってたって伝えたら謎のダンスしながら喜んでた』

『お姉さんお茶目』

『お茶目というか幼い。あれで一応大学生』

『そう? お店ではすごくてきぱき仕事してたよ』


 家では見せないまじめな姿で働いている姉さんは俺からすれば違和感しかなかった。


 ちなみにあの日の夜は、バイトから帰ってきた姉さんに散々弄られた。

 いや、弄られる以前に姉さんは綿矢さんのことをレンタル彼女だと思ったらしい。

 綿矢さんをレンタルなんかしたら俺はあっという間に財政破綻に追い込まれる。


 最終的には今度家うちに連れて来てよなんて言われたけど、俺たちはそんな間柄じゃないからと断った。


『綿矢さんは兄弟はいないの?』

『年の離れた兄さん達がいる。私が一番下』

『なんかわかる気がする』

『本当!? 初めて言われた』

『学校の綿矢さんなら一番上ぽいと思う』

『だよね』

『ゲームしてる時の無茶ぶりは末っ子ぽい』

『私がわがまま言ってるみたいじゃない?』

『まさかの無自覚』


 本日何度目かとなる綿矢さんとのやり取りを見ながらこれって上手く会話できているのだろうかと考えてしまう。


 スマホをベンチに置いて、お茶をもう一口飲んだ瞬間。


 ――昼休みに時間を作ってくれてありがとう。どうしても二人だけで話したいことがあって。


 後方から突然聞こえてきた男の声にびくっとして振り返る。

 しかし、声の主らしき人物が見当たらない。


 この裏庭には大きな木が何本もあるからおそらくその陰になって相手の姿が見えないのだろう。


 この声の掛け方は告白だろうか。

 ならばその一大イベントがこれ以上進む前にここから退散しよう。こういう場面を隠れて聞いてプラスになることなんて一つもない。


 むしろ面倒な事に巻き込まれる可能性の方が高い。

 それに告白が上手くいって二人で記念撮影をした時に背景に俺が映り込んでいたら心霊写真だと騒ぎになるかもしれない。


 ――いいえ、大事な話ということでしたのでお気になさらないでください。


 音を立てないようにと思って一歩踏み出したところで告白相手の声が聞こえ、俺の足がぴたりと止まった。


 マジかよ!?


 告白の相手は話し方や声からしてきっと綿矢さんだ。

 もし、俺がここにいることがバレたら盗み聞きをしてると思われかねない。


 だったらすぐさまここから立ち去ればいいのに足が地面に張り付いたように動かない。

 俺たちはただの友達なんだから綿矢さんが誰と付き合ったって関係のないことなはずなのに。


「おっと、丹下も覗きか?」


 くいくいとシャツを引っ張られたのでそちらを向くとさっきまで俺しか座っていなかったベンチに伊緒がちょこんと座っている。

 こいつ忍者か。


「俺もってことは、そっちは覗き前提か。言っておくが俺は偶然だ」


 綿矢さんたちに気付かれないように細心の注意を払いながら伊緒にだけ聞こえる声で話す。


「静かに。雫に気付かれるだろ」


 話しかけてきたのはそっちだろと思ったが、これ以上騒ぐと本当に気付かれると思って舌の上でその言葉を消した。


 ――その……、大事な話というは……今、付き合ってる人がいないなら俺と付き合って欲しいんだ。


 顔は見えないが声の感じは爽やかな雰囲気の人だ。

 でも、そんな声がイケメンな人でも緊張しているのだろう。部外者のこっちにまでそれが伝わってくる。


 ――ありがとうございます。


 綿矢さんの返事が聞こえた瞬間に胃に鉄球でも入れられたようなずんとした不快感が広がる。

 でも、綿矢さんの返事はこれで終わりではなかった。


 ――先輩のお気持ちは大変うれしいのですが、お付き合いはできません。

 ――それは今、付き合っている人がいるってこと。

 ――いいえ。そのような方はいません。

 ――じゃあ、好きな人がいる?

 ――いいえ、特にはいないです。

 ――それなら、俺と付き合ってもいいんじゃない?


 先輩も簡単には引いてくれずぐいぐいと攻めてくる。

 俺には真似できないメンタルの強さだ。


 ――私、今はそのようなことに興味ないので……、本当にごめんなさい。


 姿は見えないけれど、きっと綿矢さんはすごく深く頭を下げていると思う。


「さあ、終わったみたいだし、覗きがバレる前に逃げるぞ」


 伊緒が再び俺のシャツを引っ張りながら校舎の方に視線を向けた。


「だから、俺は覗きじゃない」

「最後までいたんだから結果は同じだろ。このむっつり」

「俺に変な属性をたすな」


 好きな人も付き合うことにも興味ないか……。


 さっきまで胃の中にあった不快感は無くなったが、代わりに心臓がいつもと同じ速さなのに大きくドクンドクンと脈打つ。

 自分が告白しているわけでもないのに何をこんなに動揺しているのだろう。

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