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第14話 アバターに幻想を抱くな(後編)

「やっぱり、こうなっちゃいますよね」

「ギルドメンバーが初めて来た時はだいたいこうなる。慣れたもんだよ」


 飲み物の注文を済ませた後、推しの電撃結婚報道が流れた時のようなショックを受けている俺の手を引いて、空いているテーブル席へ連れて行く綿矢さん。


「アバターに幻想を抱いちゃダメってことだよ、丹下君」

「……うん、そういうことはわかっているつもりだったけどさ。アイリスのことも会うまではボイスチェンジャーを使ったおっさんかもしれないって思っていたし」

「ちょっと待って、私のどこにおっさん要素ある? いつも可愛い女子高生だって言ってたよね」


 机に両手をついて身を乗り出す綿矢さんの顔はマジだ。


「ふ、普通は自分のことを可愛いって言わないから」

「だって、丹下君がウララちゃんとか可愛い系のキャラにすぐに食い付くから、一応、私だって可愛いですよって言っておかないとって思うでしょ」


 なぜ、ゲームの中のキャラクターと張り合おうとする。


「むしろ自分から可愛い女子高生って言う方が怪しいって」

「それはそうかもしれないけど――」

「はい、お待ちどうさま。カフェラテとブレンド」


 マスターは注文した品を置くと、

「雫ちゃん、そんな大きな声で話すと他のお客さんに丸聞こえだぞ」


 はっとした表情になった途端、綿矢さんの顔が急速に朱くなっていく。


「それにこれからはそんなこと言う必要ないと思わないか。だろ、タツ君」

「え、ええ」

「だよな。実物を見ればそんな言葉が必要ないなんて一目瞭然だからな?」

「は、はい」


 あれ? これって間接的に俺が綿矢さんに可愛いって言ったことになってないか。

 もちろん、可愛いことは事実だけどさ。


「それと、これはギルドメンバーが来た時のサービス」


 そう言うとマスターは瓶入りのプリンをテーブルに置いてくれた。


 ありがとうございますとお礼を言ったところで俺はふと気づいた。


「マスター、どうして俺がタツだって知っているんですか」


 マスターのインパクトが強すぎて自己紹介をするのを忘れていた。


「……それは、勘だ」


 その一言だけを残してマスターはカウンターの中に戻ってしまった。


「ほ、ほら、せっかくだからプリン食べよう。ここのプリンめちゃ美味しいから」


 綿矢さんからスプーンを受け取りプリンをすくう。

 プリンの表面は薄い膜が張られているけど、中はトロトロで口に入れると噛む必要がなく口全体にプリンの美味しさと香りが広がっていく。


「このプリンうっま」

「でしょ。マスターがこだわって作ってるからね」


 あのマスターがこのプリンを作っているとは思えないアンバランスさ。

 プリンを飲み込んだ後にブレンドを飲むと口に残ったプリンの甘味とコーヒーの苦みと酸味が混ざり合い絶妙なハーモニーを奏でる。


 そういえば、七海姉さんはこういうタイプのプリン好きなんだよな。テイクアウトもできるって書いてあるからお土産に買って帰ろうかな。


 カランカラン


 可愛らしいドアベルの音が鳴り終える前に聞き慣れた声が後ろから耳に入る。


「マスター、今日の買い出し多すぎでしょ」


 間違えるはずがないと思いながらも僅かばかり残っている他人の空似の可能性を信じてゆっくりと振り向いた。


「姉さん」「龍ちゃん」


 プリン好きの七海姉さんがプリンが美味しいカフェでバイトをしてるってことは聞いていたけど、まさかこの店だったとは。


 買い出しの品をカウンターのテーブルの上に置いた姉さんはそのままこっちの方に向かってくる。


 お願いだからいつもの家のノリで話し掛けてこないでくれよ。


「いらっしゃい。龍之介の姉の七海です。ゆっくりしていってね」


 爽やかな笑顔を振りまく姉さん。


 一方、綿矢さんはすっと立ち上がると、

「はじめまして、丹下君と同じクラスの綿矢雫です。丹下君にはいつもお世話になっています」


 丁寧な物腰ながらも、学校の時とはちょっと違う調子で挨拶をした。


「こちらこそ、弟と仲良くしてくれてありがとう」


 姉さんは私は仕事に戻るからごゆっくりと言うとカウンターに置いた品を回収して店の奥へと消えていった。


「丹下君」

 再び席に着いた綿矢さんはさっきまでの笑顔からジト目に変わっている。


「は、はい」

「私、あんなに綺麗なお姉さんがいるって聞いてないんだけど」


 コラボカフェではゲームの話がほとんどだったし、ゲームをしてる時も姉さんのことについて話したことはない気がする。


「姉さんが綺麗かどうかはわからないけど――」

「綺麗かどうかわからないって、まったく……いや、だからか」

「ん? どうかしたか」

「ううん、ちょっと認識を改めないとと思ってね」


 そう言うと綿矢さんはカフェラテの入ったカップに口を付けた。

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