表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/41

第12話 身体は素直だね

 午後の授業が終わり、帰りのHR(ホームルーム)の時間。


 教壇には担任の三枚堂先生が立っている。

 二十代半ばで背が高くてイケメン、服装も他の先生に比べておしゃれだから女子生徒からの人気は抜群だ。


 HRは明日の簡単な連絡だけ告げて終了。

 先生が教室から出ていけば、風船の空気が抜けるように教室の空気も緩んで肩の力も抜ける。


 部活に行くためにさっさと教室を後にする者。まだ話し足りないのか談笑する者。

 各々が放課後の活動へと移行していく。


 俺はいつも通り最低限必要なものだけを鞄に入れて帰り支度を済ませた。


 ここまではいつもとかわらない日常。

 だけど、今日はこのまま家に直行というわけじゃなく、綿矢さんと待ち合わせの約束をした隣駅近くの公園へ向かう。


 きっと、学校から一緒に行かないで待ち合わせにしたのは、俺たちが二人きりで下校している姿を他の生徒に見られるとさすがに目立ちすぎるからだろう。

 世の中には男女の間には友情は成立しない派が多数を占めている。


 あまり同時に出ては別々に行く意味がないと思って綿矢さんの様子を確認すると、

「綿矢さん、これからみんなで遊びに行くから一緒に行かない?」


 声を掛けているのは昼休みにあの猥談をしていたメンバーの一人の古沢だ。


「ごめんなさい。今日は先約があるので行けないです」

「えー、マジ? 先週のカラオケの時も用事があるって言って来れなかったじゃん」

「すいません。最近予定が立て込んでまして。落ち着いたら行ける時もあると思いますので、また誘ってください」


 こちらの視線に気づいた綿矢さんが目配せして先に行ってと知らせたので、軽く頷いて返事を返す。綿矢さんもそれを確認して小さく頷き返してくれた。


 学校を出た俺は綿矢さんからのLINEの情報をもとに待ち合わせの場所を確認する。

 スマホの地図情報を頼りに目的地に到着すると、この時間の公園は放課後を謳歌する小学生で賑わっていた。

 木陰にあるベンチに座って涼みながら、ぼんやりと小学生が遊具で遊んだり鬼ごっこをしたりする姿を見る。


 どうして、小学生は常にダッシュボタンを押しているように忙しなく動いていられるのだろう。数年前まで小学生だったはずなのに今ではどう考えてもあんなに忙しなく遊び続けるなんて無理だ。


 ポケットから取り出したスマホで時間を確認するとここに到着してからまだ五分しか経っていないのにちょっと不安な気持ちがよぎる。


 まさか強引に押し切られてあいつらと遊びに行ってるなんてことはないよな。

 仮にそんなことになったとしても綿矢さんなら何かしらの連絡はしてくるはず……。


 そもそも、友達ならあそこで綿矢さんを助けるためにあの中に割って入るべきだったんじゃないだろうか。


 物語のあるあるとしてヒロインが絡まれて困っているところを主人公が助けて好感度が上がるというお決まりのイベントだ。


 まあ、俺は主人公を張れるようなポジションじゃないけど。


 何か連絡があるかもしれないとスマホの画面を見ていると突然パンッと手を叩く音がしたので反射的に顔を上げると、

「お待たせ。遅くなってごめん」


 手を合わせたポーズをしている綿矢さんがいた。


「い、いや、俺もさっき来たばかりだから」

「そっか、よかった。それにしても暑いね」


 綿矢さんは俺の隣に座るとハンカチで汗を拭った。

 学校では何とも思わなかった制服の袖から伸びる白い腕が俺の煩悩を再び掻き立てる。


 それにしても綿矢さんって距離が近いよな。コラボカフェの時もそうだったけど。


「助けに入らなくて、ごめん」

「助けって?」

「ほら、さっき教室で遊びに行かないかって、絡まれてただろ」

「あぁ、あの人たちいつもしつこいんだよね。入学した頃にお付き合いがてら行ったことあるけど、なんていうかノリが合わないというかさ」


 汗を拭ったハンカチでパタパタと仰ぎ始めた綿矢さん。


「でも、綿矢さんを置いて行ったみたい――」

「私、さっきは助けてくれなんて言ってないよ。それにゲームでも本当に助けが必要な時は私が何も言わなくても助けてくれるでしょ」


 綿矢さんはこれ以上言わなくてもいいと言うように俺の言葉を笑顔で遮った。


「……うん、そうだな」


 胸につっかえてた何かがすっと消え、肩の力が抜けて、細く長い息を吐いた。


「ねえ、もしかして、さっき嫉妬してた?」


 うっすら笑みを浮かべる綿矢さん。


「し、嫉妬なんて――」

「別にいいと思うよ。いつも一緒に遊んでる友達が別の誰かと仲良くしようとしてたら、そういう気持ちになっても」

「だ、だから、嫉妬なんて――」

「私は丹下君が別の誰かと仲良くしてたら嫉妬するけどね」


 ずるくないか。そんなにはっきり嫉妬するなんて言うの。


「あ、うっ……、ちょっと……してたかも」


 俺は綿矢さんの顔を直視できなくて、自分の靴先に視線を落として呟いた。


 ふふっと笑う声がして顔をあげると、

「やっぱり素直じゃないねっ」

「ひゃふっ」


 綿矢さんの指が俺の脇腹つつくと普段出さないような声が出てしまった。


「おっと、こっちは意外と素直」


 聖女様なんて言っていた猥談グループがこれ聞いたら絶句だぞ。


「な、何!?」

「〝《《してたかも》》〟なんて言うから」

「だって、今まで友達に嫉妬なんかしたことなかったから、そういうのあまりわからなかったし」

「ということは、これでLINEに続いて嫉妬もゲットだね。いつかトロコントロフィー・コンプリートできるかも」

「俺にやり込み要素とかないから」


 なんだか今日も綿矢さんの掌で踊らされているような気がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ