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第10話 友達って何をする?

 〝綿矢雫とお友達になってください〟


 いつもと変わらない昼休みの教室。

 今日も独りで弁当をつつく俺の頭の中ではあの時の綿矢さんの言葉が繰り返される。


 俺はあの時「もちろん、こちらこそよろしく」などと爽やかな笑顔を振りまきながら熱い握手を交わすというような陽キャ主人公の返事はできなかった。


 俺にできた返事は、

「え、えっと、……よろしく」

 という挙動不審満載のものだ。


 もっとも、俺の返事が挙動不審なものになってしまったのには理由わけがある。

 お友達になってくださいなんて生まれて初めて言われたからだ。


 幼稚園や小学校の時の友達なんてわざわざ友達になろうなんて声を掛けて契りを交わすなんてことはしない。


 その当時、同じ遊びに夢中だったり、なんとなくお互いに気が合ったりとかで自然と仲良くなるものだ。

 いや、小学生に限らず高校生だって似たようなものだろう。


 俺の知る限りクラスメイト同士でお友達になってくださいだなんて言っている奴を見たことない。


 だから、お友達になってくださいと言われる場面シチュエーションというのはとても珍しく想定しがたいものだから、俺が挙動不審な返事をしても仕方がないということだ。


 週末にずっと考えていた綿矢さんからの友達申請にスマートな対応ができなかった理由を再確認したところで、その申請者の方を見る。


 数人の女子生徒と机をくっつけて弁当を食べている綿矢さんはもちろん聖女様モードだ。


 改めて〝聖女様〟(本人へは禁句)と言われる彼女の立ち振る舞いを見ると、コラボカフェに一緒に行ったアイリスと本当に同一人物なのかと疑ってしまう。


 食べ終わった弁当を包み直して鞄に仕舞い、水筒のお茶で一息入れながらスマホを取り出す。

 手帳型ケースのポケットからは世界の理のカードが顔を覗かせている。


 レアアイテムの交換条件で友達になったけど友達って何をすればいい?


 第一、友達になったはいいが、学校での綿矢さんは聖女様モードを崩さないからゲームをしている時のノリで話しかけるわけにもいかない。

 もちろん、聖女様モードが猫を被った姿ということも二人だけの秘密だ。


 その結果、今のところできた精一杯の友達ムーブは、おはようと挨拶をしたことぐらいだ。


 いつもなら俺の方から綿矢さんに挨拶をすることはない。

 しかし、友達ということなら、おはようくらいは言った方がいいだろう。


 俺が挨拶をすると口元を緩めた綿矢さんはその時だけ聖女様モードを解いて、おはようと返してくれた。


 きっと、他のクラスメイトは気づいていない。


 今までなら「おはようございます」と言っていたところが「おはよう」に変わったことに。


 ピコン


 新しいメッセージが届いたことを報せる表示がスマホの画面に差し込まれた。


 差出人は……綿矢雫!?


 反射的に顔を上げて彼女の席の方を見る。

 俺の反応を予想していたのかこっちを見ている綿矢さん。


 目が合うと笑みを浮かべながらそっとスマホのメッセージを確認しろというジェスチャーをする。


『放課後行きたいところあるから一緒に行こう』


 俺の予定なんかお構いなしのジャイアニズム的メッセージだ。

 放課後の予定なんてほとんど毎日白紙だけどさ。


「なあ、今、聖女様がこっちを見て微笑んでくれてなかったか」

「ああ、可愛らしい動きまでしてたな。ほんと癒される」


 後ろ席にいた男子生徒たちの談笑する声が聞こえる。


 おい、騙されるな。その子は聖女なんかじゃなくて、ステージ上で変顔をすることに躊躇のないちょっと変わった子だぞ。


「マジで聖女様が彼女だったらすごく癒されるんだろうな」

「だな。彼氏いないらしいから立候補しようかな」

「やめとけって、心の傷が増えるだけだから」

「心の傷の数はおとこの勲章だろ」

「それにしても綿矢さんって癒しもあるけど胸も結構あるよな」

「あるな。雑誌のグラビアで鍛え上げられた俺の目によるとEはある」

「ちょっ、あんま生々しく言うなよムラムラすんじゃん」


 ――ゴッホン


 思わず大きな咳払いをしてしまった。

 あぁんという視線が俺に向けられると、さっきの咳払いをごまかすためにもう二つほど小さな咳払いをしながら廊下へと退散する。


 背景が予定にない動きを急にするものじゃないな。


 別にあの連中が綿矢さんのことをさっきみたいに話すのは初めてじゃない。


 今まではそんな話が聞こえても全く気にならなかった。


 だけど、今日は……。


 なんと言うか聞きたくなかったし、イラッとしてしまった。


 友達になろうと言われたくらいでこんなに乱されてしまうなんて。

 彼氏でもないのに彼氏面してるみたいでキモいな。


 廊下の窓から外の景色を眺めて深呼吸を二回する。


 気持ちが落ち着いたところで、再びスマホでLINEのメッセージを確認すると、

『待ち合わせ場所は隣駅近くの公園で』


 はえーよ。まだ、行くって返事してないし。

 こっちからの返事を待たず、続報が送られている。

 もとより断ろうなんて考えていなかったが、余計なことを考えさせないような矢継ぎ早の連続攻撃によって、

『了解っす』


 可愛さや愛嬌の欠片もないような返事を送ってしまった。


 画面に表示されている文字だけを見ると部活の先輩と後輩のやり取りみたいだ。

 まあ、いいか。友達同士のやり取りなんてこんなものだろう。


 それよりも綿矢さんはどこに行きたいのだろう。


 陽キャ御用達のカラオケとかスポーツ遊戯施設とかゲーセンとかだろうか。ゲーセンならまだいいが、前者の二つなら俺にとってはかなりハードルが高い。


 カラオケなんて家族以外と行ったことないし、持ち歌なんてものもない。

 というより、人前でマイク使って歌うなんて恥ずかし過ぎる。


 俺は陽キャの放課後の過ごし方という未知の領域に戦々恐々としながら午後の授業が体育だということを思い出した。


 そろそろ教室に戻って着替えなくちゃな。


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