第八話「聖教連盟と“光の裁き”」
太陽が昇る中、王都を包む空気は重苦しく緊張していた。
瓦礫の上に立ち尽くす日和の前に現れたのは、金と白の装束を纏う“光の兵団”。
「聖教連盟――か。」
執事長クライドが呟く。
その眉間には深い皺と、長き歴史を知る者だけの静かな怒りが浮かんでいた。
「光の名を借りた侵略者……!」
前方に立つ一人の聖騎士が、日和に視線を向けた。
銀髪に冷たい金の瞳。
彼の名は――
「我が名はセレノア。聖教連盟第三階位、光の処断者。」
彼の声は静かだったが、背後に並ぶ数百の兵士たちの槍が、すでに敵意を語っていた。
「“日輪の下を歩く夜の者”。
貴様の存在は、神の法に反する」
セレノアが抜いたのは、純白の剣。
聖銀と祝福によって鍛えられた“吸血鬼特効”の神器。
しかし、日和は怯まなかった。
その背に、まるで翼のように夜風が舞った。
「私は――“吸血鬼”である前に、“私自身”なの!」
右目の紅、左目の藍が光を跳ね返し、日和の両手に“影と光”が同時に宿った。
クラリッサ王妃から継承した剣術と、ミラとの契約で得た影の加護。
そして、転生の奇跡がもたらした“異質の克服スキル”。
彼女は、もはや“どちらか”ではなかった。
「私は、夜と昼の“境界”を生きる――!」
日和が踏み出すと同時に、兵たちの槍が一斉に向けられた。
しかし次の瞬間、
三つの風が王城を駆け抜ける――
「遅れたかしら、プリンセス!」
森を纏う魔法弓とともに駆けつけた少女――アリシア。
「姫は誰にも渡さない。僕の命にかえても!」
剣を構える少年――セイル。
そして、彼らの周囲には三体の精霊たちが現れる。
・風の精霊【ミュレナ】――イリスに仕える透明な翼の女精霊
・森の妖精【フィリュア】――アリシアに寄り添う弓使いの少女
・剣の妖精【ゼオル】――セイルの剣に宿る無口な影の少年
三人と三体の“契約者”が並び立ち、日和を守るように陣を張った。
「……なぜそこまでして吸血鬼を庇う?」
セレノアの問いに、日和は答える。
「吸血鬼じゃなくて、“私たち”を守ってるんだよ」
静かに、だが確かに。
彼女の言葉は空に響いた。
セレノアは剣を収めた――
「では、裁きを見せよ。お前の“生き様”を、我らの“法”と並べてやろう」
それは退却ではなく、審判の猶予。
聖教連盟は一度引いた。
だがそのまなざしは、再び来る“光の裁き”の時を予告していた。
日和は微笑んだ。
そして振り返らずに、仲間たちと城内へと歩み出す。
この日、
“夜と昼の狭間に立つプリンセス”の伝説は、
はじまりの鐘を鳴らしたのだった。