98.ぬいぐるみのフリして
今日で二学期が終了。
終業式とホームルームを終えた二年一組のみんなは、昼ご飯をすませたあと商業施設へ来ていた。
ボーリング、ビリヤード、ゲーセンなど遊びたい放題だ。
それぞれ思い思いの場所で遊びまくった。
……
夕方近くになりみんなポツリポツリと帰り始めた。
「私たちも帰りましょうか」
希世子が勇美に声をかける。
「もうワンゲーム」
勇美は、ずーっとコインゲームをやっていた。
「3こい! 3こい!」
熱中している。
「(おっさんみたいね)」
などと考えながら希世子が周りを見回すと、一台のクレーンゲーム機が目に止まった。
「まぁ!」
希世子が驚く。
「清丸にそっくりだわ!」
飼い犬の清丸に似たぬいぐるみを発見したのだ。
可愛くデフォルメされた茶色い犬のぬいぐるみで、サイズはバスケットボールくらい。
「これはなんとしても取らないと!」
希世子がさっそく挑戦。
「そういえば、人がやるのを見たことはあるけれど自分がやるのは初めてね」
お金を入れてボタンを押す。
クレーンを右へ移動。
次に奥へ。
「ここ!」
クレーンが下がってアームが閉じ、ぬいぐるみを掴んだ。
「案外簡単ね、ウフフ」
と思ったが、アームの力が弱くて持ち上げることができず、クレーンは、何も掴むことなく穴の上でアームを開いてから元の場所に戻ってきた。
「……なんてクソゲーなのかしら」
口が悪い希世子。
「持ち上がらないのなら絶対無理じゃない、もう」
唇を尖らせた。
「何を怒ってるんだ?」
そこへ、倫行がやってきた。
「む? あのぬいぐるみ清丸そっくりだな」
すぐに気づいた。
「そうなの。それであれが欲しくてゲームをしたのだけれど、アームの力が弱くて取れそうになくて……」
話しているうちに希世子がしょげていく。
「ふむふむ、ぬいぐるみはあそこで穴はここ……」
倫行は、それぞれの位置を確認し、
「取れるぞ」
自信ありげに言った。
「本当!?」
ビックリしたように希世子が聞き返す。
「ああ。クレーンゲームは、昔妹にねだられてよくやってたから得意なんだ」
話しながら倫行がさっそくお金をゲーム機に入れてプレイする。
クレーンを慎重に右へ移動。
次に奥へ移動させ、
「うん」
アームを降ろした。
アームがぬいぐるみの頭を掴む。
「あ、そこだと」
「大丈夫」
アームは、ぬいぐるみを少しだけ持ち上げてすぐに外れたが、落ちた勢いでぬいぐるみはごろんごろんと転がり、
「あ!」
「ほらな」
ポトリと穴に落ちた。
倫行が取り出し口からぬいぐるみを取り、
「はい」
希世子に渡した。
「すごい! すごいわ佐藤君!」
希世子が手放しに倫行を褒めた。
「ありがとう佐藤君!」
「いいさ、これくらい」
褒められた倫行が照れる。
「なんて可愛いの! この子ずっとずっと大切にするわ!」
希世子は、ぬいぐるみを抱きしめると無邪気に笑った。
いつもの希世子と違ってあどけない笑顔だった。
「……」
倫行が希世子を見つめる。
頬がだんだんと赤くなっていく。
「あ、お金払わなきゃ」
希世子が財布から百円を出して渡そうとした。
しかし、倫行は希世子を見たまま反応がない。
「佐藤君?」
「……え? あっ、い、いや、いい。それくらい、いいから」
倫行は、あわてたように希世子へ背を向けると、
「お、おーい」
友達のところへと歩き出した。
「え? 佐藤君?」
と希世子が困っていると、
「すごーい!」
そばから女子の声が聞こえてきた。
クラスメイトだ。
「こんなの取れるなんてすごすぎー!」
希世子と同じく男子にぬいぐるみを取ってもらっていた。
「そうかな、へへへ」
すごいを連呼されて嬉しそうな男子。
女子は、きゃいきゃいはしゃいで猫のぬいぐるみにキスをすると、
「ありがとニャン」
ぬいぐるみの腹話術をして可愛さ全開でお礼を言った。
「ズキューーーーーン!」
男子は、ハートを射抜かれたように手で胸を押さえた。
「(こんな技があったなんてーーーーーーーーーー!)」
驚きを禁じえない希世子。
「佐藤君!」
今すぐ試そうと倫行を追った。
「どうした?」
振り返らずに倫行が聞いた。
「佐藤君すごいわ」
全力で褒めてぬいぐるみにキスをして、
「ぬいぐるみありがとワン」
可愛さ全開の腹話術でお礼を言った。
「うん、どういたしまして」
やっぱり振り返らずに頷いた。
「佐藤君? こっち見て?」
「今、あれだから」
「あれって?」
「うん、大丈夫」
「歩くの速くなってない?」
「そんなことなかです」
「なんで福岡弁? 佐藤君?」




