97.ノートとるフリして
「今日は、佐藤君は風邪でお休みです」
朝のショートホームルーム。
担任の朝田千鶴がみんなに告げた。
「(ガーーーーーン!)」
昨日の倫行の様子を見ていたので予想はしていたが、それでも希世子はショックを受けた。
……
ショートホームルーム終了。
「なんてことなの……」
希世子は、両手で顔を覆い嘆いていた。
「私は何のために学校に来ているの……」
目的を見失うほどだ。
「勉強するためじゃね?」
勇美が普通に答えを言った。
「悲しんでばかりもいられないわ」
気を取り直す。
「佐藤君の分もノートをしっかりとってあげましょう」
……
授業中。
希世子は、倫行に渡すルーズリーフに黒板の内容を書き写していた。
しかし、
「(ここは、縦読みで『けっこん』と読めるようにしておきましょう。こっちは『きよここいびと』と。フフフ)」
いらん細工をしていた。
「あ」
手が当たり消しゴムが床に落ちた。
拾おうと椅子を引くと、ガンッと倫行の机に椅子の背をぶつけてしまった。
「ごめんなさい」
振り返って謝る。
「あ……」
倫行は、いなかった。
「(そうだったわね……)」
希世子がひとつ息を吐き、消しゴムを拾って顔を正面に戻した。
再びノートをとりはじめる。
ふと時間が気になり黒板の上にある時計へ目を向けた。
針は、九時を指していた。
「(授業が始まって、まだ十五分しか経ってない……)」
希世子がまたため息を吐いてペンを置いた。
「(なんだか、時間が経つのが遅いわね……)」
授業に身が入らない希世子。
誰もいない後ろの席を想う。
一日が長く感じた。




