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92.ナシを剥くフリして

 日曜日。

 今日は、ナシ狩りに農園にやってきた二年一組一行。

 もちろんイベント大好き委員長大石雄馬が声をかけて集まったのだ。


「ナシだーーーーーーーーーー!」


 集合した時からずっとテンションが高い倫行。


「佐藤君、今日はいつも以上に元気ね」


 見ている希世子も元気をもらえる。


「ああ! 俺は果物の中でナシが一番好きだからな!」


「まぁ、そうだったの(佐藤君情報ゲット)」


 しっかり頭にインプットした。


「わかるぜ佐藤!」


 勇美が同調した。


「わかるか河井!?」


「おう! ナシは最高だよな!」


「勇美は野菜以外なんでも好きじゃない」


 横から希世子の補足。

 味覚が子供みたいなのだった。


「今日は狩って狩って狩りまくるぜ!」


「おーーーーー!」


「おー」


 狩りが始まった。



 ……



「おお〜……な、なんて見事なナシだろうか……」


 倫行が獲ったナシを見て感動に震えている。


「農園主さんはナシ神様だ」


 褒め称えた。


「佐藤君、良かったらこれどうぞ」


 希世子は、さっそく皮を剥き、切ったナシを皿に載せて倫行に差し出した。


「ありがとう! いただきまーす!」


 倫行は、一切れフォークで突き刺して口に入れた。


「うまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」


 農園中に響き渡るくらい叫んだ。


「私が切るから佐藤君はどんどん食べて」


「いいのか!? 感謝するぞ、三上!」


 大好きなナシに囲まれて辛抱たまらんかった倫行は、ものすごい勢いで食べ始めた。


「うまい! うますぎる! ナシ大好きだーーーーーーーーーー!」


「ウフフ」


 喜ぶ倫行を見て希世子が微笑んだ。

 しかし、希世子とてただナシを切っているわけではない。


「(佐藤君、大好きなナシを切っているのは誰? そう私よ。私に対する感情に変化が生まれてきたのではなくて?)」


 大好きなナシ。見ただけで嬉しくてテンション上がりまくりのナシを希世子が切って倫行に出す。


 これを繰り返すことにより、「ナシ→希世子→倫行」という図が出来上がり、倫行は、いつしか希世子を見ただけで無意識にナシを思い出してテンション上がりまくりの嬉しい気持ちになる、という効果を狙っているのである。


 ベルが鳴っただけで涎を垂らすようになるパブロフの犬のようなものだ。


「(さぁ、どんどんお食べなさい! ナシ愛を超えて私を愛しなさい!)はい、佐藤君」


 希世子がどんどん皮を剥いて切ってナシを渡した。


「フハハハハハハッ」


 そこに突如笑い声が聞こえてきた。


「それでナシ好きとは聞いて呆れる!」


 勇美だった。


「何!? どういうことだ!?」


「ナシに捨てるところなし!」


 勇美は、ナシを丸ごと齧った。


「し、しまったーーーーーーーーーーっ!」


 倫行が屈辱の表情。


「ナ、ナシは皮も食えるのに、俺ってやつは……」


 皮を剥いてもらった状態で食べていたことを後悔した。


「勇美のことはほっといていいわよ。はい、佐藤君」


 希世子が切ったナシを差し出す。


「すまんがそれは三上が食べてくれ」


 しかし、倫行は遠慮し、


「俺はこいつを食らう!」


 勇美のようにナシを丸齧りした。


「うまい! 皮も絶品だ!」


 倫行が絶賛。


「(せっかくの作戦が……)」


 希世子はがっくりだった。


「うまいな、佐藤!」


「うまいな、河井!」


「「ワッハッハッハッハッ!」」


 二人は、バクバクナシを食いまくった。



 ……



 お腹がピーピーになった。

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