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91.お腹が鳴ったフリして

 授業中。


「(こ、この感覚は……!)」


 突如、希世子に緊張が走った。


「(ど、どうしましょう!? マズいわ!)」


 と焦るがどうにもできず、むしろ焦れば焦るほど状況は逼迫し、


「(お願い!)」


 という希世子の祈りも虚しく、


 グ〜〜〜


 お腹が鳴った。

 けっこう大きめだった。

 希世子から一番離れたところに座っている女子も希世子のほうをチラ見した。


「であるから……その〜……」


 古文の男性教師(55歳)も、つい授業を止めてしまった。

 みんなの注目を浴びる希世子は、いつものすまし顔だが、心の中では、


「(うわーーーーーーーーーー! ほあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!)」


 恥ずかしさに絶叫していた。

 ほっぺも真っ赤っかだった。

 しかし、心優しいクラスメイトは、聞かなかったフリをして全員顔を正面に戻した。


「プッ……ククク……」


 勇美だけ声を押し殺して笑っていた。


「(うあーーーーーーーーー! バカ勇美のバカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!)」


 心の中で罵倒した。

 希世子の耳までが真っ赤になる。


「え〜、では続きを」


 教師も何事もなかったように授業を再開しようとした。

 その時、それらを後ろから見ていた倫行がガタッと椅子を鳴らしておもむろに立ち上がり、


「い、今のは俺なんだ!」


 お腹グ〜を自分の所業と偽った。

 むろん希世子をお腹グ〜の羞恥から救うためだ。


「誰かに読んで……え? さ、佐藤?」


 また授業が止まった。

 またみんなが振り返って倫行と希世子に注目した。


「(さ、佐藤君! 私を助けるためにグ〜をその身に引き受けるつもりなのね!)」


 意図を理解して希世子が感動した。


「(でも、お腹鳴ったの私ってバレバレだから無意味なの!)」


 気持ちは嬉しかったが意味はなかった。

 みんなが「何言ってんだこいつ?」という顔で倫行を見る。


「本当なんだ! 俺のお腹が鳴ったんだ! 信じてくれ!」


 倫行が必死に言い募る。


「(佐藤君っ、もういいの! もうやめて! ていうかさっさと忘れてーーーーー!)」


 優しさが辛かった。

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