90.ネイルアートのフリして
昼休み。
希世子が外から戻ると、教室の一箇所に女子が集まり、わいわいと盛り上がっていた。
「何かしら?」
とそばへ行ってみれば、ひとりの女子が机を挟んだ対面に座っている女子の手の爪に絵を描き装飾を施していた。
ネイルアートだ。
「これで完成」
女子が言うと、
「すご!」
「めっちゃうまいんだけど!」
周りの女子たちが絶賛した。
「ありがと」
喜ぶアートを施していた女子。
「確かに綺麗ね。プロみたい」
希世子も掛け値無しに褒めた。
「そ、そうかな? エヘヘ」
女子は、照れ臭そうにポリポリ頬をかき、
「あ、良かったら三上さんもどう?」
誘った。
「いいの? だったらお願いしようかしら」
やってもらうことにした。
……
ネイルアートが完成。
希世子は、お礼を言い、その場を離れた。
「見事なヴィーナスの絵ね」
ネイルを眺めて感心している。
彼女は、美の女神ヴィーナスを希世子の爪に描いた。
「ヴィーナスの生まれ変わりのような私にヴィーナスだなんて、彼女もやるわね」
大満足だ。
希世子が席に戻ってくると、倫行が自分の机で日直ノートを書いていた。
「(そうだわ、これを佐藤君にも見てもらいましょう)」
名案だと自分でうんうん頷く。
「(美しい爪と美しいヴィーナス、それらを持つ美しい私に心奪われることでしょう)」
フフフと笑った。
「そういえば佐藤君、今日日直だったわね」
希世子が席に着く。
「ああ。もう朝から地味に大変だ」
倫行が顔を上げずに書きつづける。
「あら、そこ間違ってるわよ」
希世子が日直ノートの上を指でさした。
ネイルに描かれたヴィーナスがキラリと光る。
「(こういうのはさりげなく見せるのが美しいのよね)」
美学だ。
「(さぁ、見惚れなさい! この美しい爪をもつ指に指輪をはめたいと思いなさい!)」
「どこだ?」
「ここよ、今日の日付け(あれ? 反応なし?)」
「あ、本当だ」
倫行が修正。
ネイルアートのことには触れなかった。
「(気づかなかったのかしら?)」
希世子は、そう考えた。
「む。今って令和何年だったっけ?」
倫行が顔を上げて希世子に聞いた。
「え〜っと(さぁ、とくとご覧なさい!)」
希世子は、ヴィジュアル系ミュージシャンみたいに顔の前で手を広げて考えるフリをした。
「あ、前書いた人の見ればいいんだ」
倫行は、やっぱりネイルアートに触れなかった。
「(何で?)あ、鳥だわ」
希世子が窓の外を指さした。
「本当だ。えっと、今は令和……」
やっぱり触れない。
「(どうしてなの? こんなにも綺麗なのに)」
わからない希世子。
男子とは、ネイル系の装飾にまったく関心のない生き物なのだった。




