9.拾うフリして
「あら?」
学校からの帰り道。
希世子は空き地でダンボール箱に入れられた子犬を見つけた。
ダンボール箱には、『拾ってください』と書いてある。
「お前、捨てられたの?」
「わん!」
通じているわけではないが、子犬は元気に鳴いた。
「……この子、使えそうね」
希世子がじっと見つめる。
「わん?」
子犬は首を傾げた。
……
倫行が家路を歩いていると、
「む? あれは三上か?」
道端にしゃがむ希世子の後ろ姿を見つけた。
「三上」
「え? あら、佐藤君」
「そんなところにしゃがんで何してるんだ?」
「この子よ」
希世子がダンボール箱に入った子犬を見せた。
さきほどの子犬である。
倫行の帰り道まで運んできたのだった。
「何々、『拾ってください』だって? 捨てられたのか、かわいそうに」
同情した倫行が子犬を抱っこした。
「わんわん、ペロペロ」
子犬が倫行の頬を舐めた。
「ハハハッ、人懐っこいやつだ」
倫行が笑う。
「う〜む……こいつ、どうしようか?」
しかし、すぐに表情を曇らせた。
「安心して、私が飼うわ」
希世子が申し出た。
「本当か!?」
「ええ、これも何かの縁だから」
「三上! 君はなんて優しいんだ!」
「そんな、大袈裟よ」
「大袈裟なんてことない! 俺は感動してる! 三上は救いの女神だ! なあ、ワンコ!」
「わんわん!」
「ウフフ、褒めすぎよ。ウフフ、ウフフフフフフフフフ」
子犬を拾うフリをして倫行に尊敬される作戦大成功だった。
……
倫行と別れると、希世子は、子犬の入ったダンボール箱を抱えてさきほどの空き地へ戻ってきた。
「んしょ」
ダンボール箱を降ろす。
「作戦を手伝ってくれてありがとう、ワンコ。いい人に拾ってもらいなさい」
用が済んだので元の場所に戻したのだ。
「わん」
「そんな風に鳴いてなさい。誰かが拾ってくれるわ」
「わんわん」
「元気でね」
希世子が背を向け歩き出した。
「わん! きゃんきゃん!」
「……」
「きゃんきゃんきゃん! きゅ〜んきゅ〜ん」
「……」
「きゅ〜……」
「……でも、あれよね、私の作戦を手伝ってくれたのにお礼もしないなんて、三上の名を汚すことになるわよね」
「きゅ?」
「お礼をしましょう、一宿一飯だけ」
「わんわん!」
「そんなに喜ばないのよ。一日だけなんだから」
……
子犬は、希世子の家で幸せに暮らした。




