88.腕相撲のフリして
隣の教室で男子と女子が話している。
「ねぇ、腕相撲しよ。私、腕力にはけっこう自信あるんだ」
「本当かよ」
はっきょい、のこった。
「ん〜〜〜」
女子が力を込めるが倒れず、男子があっさり勝った。
「負けちゃった〜。あ〜ん、も〜強すぎ〜」
女子がほっぺを膨らませる。
「そんなことねぇよ」
言われた男子はまんざらでもない。
「わっ、力こぶすごーい! かっこいー!」
「そ、そうか? へへへ」
嬉しそうに笑った。
「使えるわ、使えるわよ」
希世子が砂かぶり席で見ていた。
……
教室に戻ると、倫行が椅子に座ってボーっと外の景色を眺めていた。
希世子も前の席に着き、
「佐藤君、腕相撲しましょう」
さっそく実行に移した。
「腕相撲……」
顔を前に向け、倫行が困った顔をする。
「(『やるまでもなく俺が勝つのに』って顔ね)」
希世子は、そう考え、
「私、けっこう自信あるのよ」
さっさと机に腕を置いた。
「……じゃあ、やるか」
倫行も腕を置き、手を組んだ。
「(佐藤君とシェイクハンズ!)」
希世子がプチラッキーを喜んで、
「はっきょい……のこった!」
スタート。
「ん!」
希世子がしょっぱなから全力全開。
バタンっと倫行の腕を倒した。
希世子の勝ち。
「あれ?」
勝ってビックリしている希世子。
「佐藤君、手を抜かなくてもいいのよ?」
もちろんそう思ったが、
「フ、フフフ……」
倫行は、疲れた笑みをこぼし、
「これが今の俺の全力なんだ……」
悲しそうに言った。
「どういうこと?」
「さっき河井とジュースを賭けて腕相撲をやったんだ」
「勇美と?」
「一分くらいの押しつ押されつの攻防のあと、河井に負けたんだ……」
倫行がちょっと泣きそう。
「俺の腕にはもう力が残ってないのさ……」
「ああ、それで」
さっきの困った顔か、と希世子が気づいた。
「笑ってくれ、女子に連敗した俺を……」
倫行がヘコむ。
「でも佐藤君、すごく強ーい」
希世子は、当初の作戦を続行することにした。
「フフ、フフフ……」
倫行がよけいヘコんだ。
「力こぶすごーい」
「役立たずの力こぶさ……」
さらにヘコんだ。
「え〜と……元気出して」
はげました。




