87.飲んでないフリして
授業が終わりお昼休みになった。
「やったー、飯だー!」
勇美が子供のようにはしゃぎ、ペットボトルのお茶を飲んで喉を潤してから、
「早く行こうぜ!」
希世子と食堂へ向かった。
飲みかけのペットボトルは、机に置いたままだった。
……
「食った食った」
勇美が腹を撫でながら教室に戻ってきた。
「おっさんみたいね」
その様子を見て希世子。
「ほっとけ」
とうるさそうに言って勇美が机に置きっぱだったペットボトルを手に取り、飲もうとして、
「あれ?」
不思議そうな顔で中身を見た。
「どうかしたの?」
希世子が聞くと、
「お茶が減ってる」
ペットボトルを見たまま答えた。
「気のせいでしょう?」
「違う。半分以上あったのが、二口分くらいしか残ってない」
勇美には確信がある。
「じゃあ、どういうこと? どうして減ったの?」
「知らないっての」
少しイラついたように言った勇美が隣を見ると、倫行が席に座っていた。
「佐藤、ペットボトルの中身が減ってんだけど、何か知らないか?」
聞くと、倫行は、
「し、知らない」
目を合わさずに答えた。
声がどもっている。
「「……」」
勇美と希世子が訝しむ。
「もしかして、お前が飲んだのか?」
勇美が推測した。
「の、飲んでない」
倫行は、否定したが、
「怪しい……」
勇美は、信じない。
「別に飲んでもいいんだけど、隠そうとするってことは、まさかお前……」
勇美が取調官のように倫行へ顔を近づけ、
「間接キス狙いで飲んだんじゃ……」
「ちちち違う!」
倫行がブンブン首と手を左右へ振った。
「やりやがったな佐藤!」
でも勇美は、決めつけた。
「佐藤君っ、そんな!」
希世子が悲しんだ。
「ち、違うって言っただろ!」
倫行が主張する。
「お前あたしが好きだったのか!」
「そうだったのね!」
勇美と希世子が騒ぐ。
「本当に違うんだ!」
「だったら何で減ってんだよ!」
「し、知りません」
「『佐藤は好きな子の笛をペロペロするタイプ』って言いふらして」
「女子が飲んだんだ!」
倫行があわてて真相を告白した。
「「女子が?」」
二人が仲良く首を傾げた。
「知らない女子が……代わる代わるたくさん来て……お茶を飲んだんだ……」
罪を告白するように喋る倫行。
「何で女子が?」
よくわからない勇美。
「そういうことだったのね」
希世子はわかった。
「そういうことって?」
「勇美のことを好きな子が、ってことよ」
「……」
無言だが勇美もわかった。
「でも、こんなこと今までなかったぞ」
「文化祭のミスターで優勝して、さらに人気がでたから」
「なんてこった……」
勇美が頭を抱えた。
「ファンクラブもできたそうよ」
「マジで!?」
寝耳に水。
「佐藤君、それならそうと最初から正直に言ってくれればよかったのに」
希世子が話を振ると、
「みんな『喋ったらわかってるわよね?』的な空気で怖くて。それに……」
倫行は、目を教室内に向けた。
希世子と勇美が倫行の視線をなぞる。
サッと目を逸らした女子が何人かいた。
「ウ、ウチのクラスにもいるのかよ。な、なんか怖ぇんだけど……」
勇美が察して顔を青くした。
「なんにせよ、本当の理由がわかってよかったわ」
希世子が安堵した。
「全然よくねぇよ!」
勇美は安堵しなかった。




