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81.声優のフリして

 夜。

 希世子は居間でテレビを見ていた。

 トーク番組で、声優夫婦がゲストに呼ばれていた。


「じゃあ、出会ったのはそのアニメ作品のアフレコ現場?」


 司会者が聞く。


「はい」


「そうです」


 夫と妻が答えた。


「どういういきさつで恋人に?」


「僕のキャラって彼女がやってたヒロインのことが好きなんですけど、『好きだ!』って演技してるうちに本気になって、それで……な?」


「うん。エヘヘ」


 二人がはにかんだ。


「演技してるうちに、か」


「わふわふ」


 希世子は清丸とヨガをやりながら、興味津々に頷いた。



 ◆◆◆



 翌日の放課後。


「佐藤君。私、将来声優なんてどうかなと思うのだけれど」


 掃除が終わり教室に戻ったところで希世子が切り出した。


「声優か。いいじゃないか」


 倫行は応援モードだ。


「それでね、アフレコというものをやってみたいの。手伝ってくれないかしら?」


「いいぞ」


「じゃあ、これを」


 希世子がコピーしてきたマンガのページを渡した。

 前に希世子が読んで感動したマンガである。


「どれどれ」


 倫行が読んでみる。

 それは、愛の告白シーンだ。



 〜〜〜



「俺、お前が好きだ」

「え……」

「いつも一緒にいて気づいた。お前を放したくない」

「……」

「約束する、絶対幸せにするって。俺のそばにいてくれ」

「……はい」



 〜〜〜



「女性のセリフが少ないな」


 倫行の読んだ感想。


「少ないからこそ感情を乗せるのが難しくて勉強になると思うの」


 希世子の説明。


「なるほど」


 納得させられた。


「それじゃあさっそく始めましょう」


「うむ。え〜っと」


 スタート。


「『おれ、おまえがすきだ。』」

「『え……』」

「『いつもいっしょにいてきづいた。おまえをはなしたくない』」

「……」

「『やくそくする。ぜったいしあわせにするって。おれのそばにいてくれ』」

「『はい……』」


 カット。


「ふ〜。ハハ、演技とはいえ緊張するな」


 倫行が照れる。


「フフフ、そうね」


 希世子は、余裕のある顔で微笑んだ。が、


「(ぐすっ、い、いつかこんな日が、ずずっ、き、来ますように、うぅぅ)」


 心の中では嬉し泣きしていた。


「(でも……)」


 希世子は思う。


「(佐藤君、棒読みなのよね)」


 物足りなかった。


「佐藤君、もっと主人公の気持ちになって喋ってみてくれる?」


「やってみよう。『おれ、おまえが」


「違うわ、佐藤君。もっと感情を乗せて」


「う、うむ。『おれ、おまえが」


「ダメよ! ダメなのよ佐藤君! ここは重要なシーンなの! 主人公になりきって!」


「……声優になりたいのは俺じゃないんだが」


「早く!」


「お、押忍! 『おれ! おまえが!」


「声が大きいだけになってる! もう一度!」


「『おれおまえが」


「まだよ! やり直し!」


「『オレオマエガ――」



 ………………

 …………

 ……



 暗くなるまでつづいた。

 倫行は、演技してるうちに本気にならなかった。

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