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80.メイドなフリして

 本日は、待ちに待った文化祭。

 希世子たち二年一組は、バトラー&メイド喫茶をやることになっていた。


「みんな着替えたわね」


 女子のリーダーであるクラスの副委員長、青木巴あおきともえがメイド服に身を包んだ女子たちを見渡した。


 希世子もメイド服を着ている。

 勇美は、バトラーの格好をしていた。


「副委員長、ちょっといいか」


「何、勇美?」


「何であたしはバトラーの服なんだ?」


「だって、他のクラスの女子から『勇美はバトラーで』って注文がたくさんあったから。ね?」


 巴が周りを見た。


「勇美、女子人気高いし」

「イケメンだもんね」


 みんなコクコク頷いた。


「あたしは女だよ!」


 勇美が抗議した。


「どうどう」


 みんなでなだめた。


「それじゃあ向こうに行きましょう」


 服装チェックを終え、女子たちは、調理などをする裏方スペースから男子の待つ喫茶スペースへと移動を開始した。


「(フフフ、佐藤君、私の可憐なメイド姿を見たら暴走して抱きしめてしまうかも)」


 希世子が心の中で笑う。


「(さぁ、ご覧なさい! そして欲望に身を任せなさい!)」


 喫茶店とバックヤードを仕切るカーテンが開かれた。

 バトラーの格好をした倫行が立っていた。


「(カッコイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ! 抱きしめてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!)」


 暴走しそうになった。


「(はっ!? いけないわ希世子! 理性を保つのよ!)」


 ギリギリのところで平静を装った。

 女子と男子がそれぞれ褒めてイジって笑ってと感想を言いあう。

 やはりというか何というか、メイドな希世子は、男子の注目を浴びていた。

 そんな中、希世子が倫行のそばへ行った。


「佐藤君」


「三上。メイド服、似合ってるな」


「(ひゃっほーーーう!)佐藤君も」


「ありがとう」


「ウフフ(後で写真と動画撮らなくちゃ)」


「河井も似合ってるぞ」


「……うっせーよ」



 ◆◆◆



 バトラー&メイド喫茶は大人気だった。

 ひっきりなしに客が入ってくる。

 主に希世子と勇美目当ての客だ。


 朝から忙しい時間がつづき午後になっても変わらない。

 午後一時を過ぎたところで、


「三上さん、そろそろじゃない?」


 巴が時計を見て言った。


「そうね。忙しい時に悪いけれど」


「がんばってね。結果如何でウチの売り上げも変わってくるから」


 希世子が苦笑して教室を出て行った。

 それを倫行が視線で追う。


「どこに行くんだろう?」


 と気にしていると、男子のリーダーにしてクラス委員長の大石雄馬が、


「倫行、三上がいない間お客さん減ると思うから、今のうちに昼飯食ってきてくれ」


 そう指示を出した。


「わかった」


 倫行は、希世子につづいて廊下へ出た。


「三上」


 倫行が希世子に追いつき隣に並ぶ。


「佐藤君。どこかに用事?」


「いや、休憩だ。三上は、どこに行くんだ?」


「これから屋外ステージでミスコンがあるの。私エントリーされてるから」


「ああ、そういうことか」


 理由がわかり倫行が頷いた。


「がんばれよ」


 応援する。

 希世子が苦笑を漏らした。


「さっき青木さんにも言われたけれど、ミスコンをがんばりようはないわ」


 周りが勝手に選ぶのだから。


「それもそうか」



 ……



 運動場にある屋外ステージに着いた。

 今は、ダンス部がステージで踊っているが、その間にも観客が増えていく。

 みんな、この後のミスコン目当てに集まりはじめていた。


「じゃあ、行ってくるわね」


「うむ。がんば……じゃなくて、え〜と……武運を祈る」


「やだ、何それ? アハハハ」


 笑いながら希世子はステージ裏へと向かった。


「さて、ミスコンは見るとして、お昼を買いに行こうか」


 倫行は、屋台があるほうへ行こうとした。

 そこへ、


「君、ちょっといい?」


 女子に呼ばれた。

 三年生だ。


「何ですか?」


「う〜ん……」


 質問に答えず女子が倫行を舐めるように上から下まで見て、


「……いいね」


 ニヤリと笑った。



 ◆◆◆



「ということで今年の優勝者は、二年一組、三上希世子さんだ!」


 ミスコンの最終審査が終わり、司会者がマイク越しに結果を発表すると、観客から割れんばかりの拍手と歓声が起こった。

 校舎の窓から見ていた人たちからも声と拍手が降ってくる。


「ありがとうございます」


 メイド姿の希世子が深々とおじぎした。


「それでは、優勝トロフィーの授与です!」


 司会者が言うと、ステージ脇から執事の格好をした男子がトロフィーを持って現れた。


「佐藤君!?」


 希世子が目を丸くして驚いた。

 倫行だった。


 実は、さきほどの女子は、文化祭実行委員会の委員長で、執事の格好をした倫行を見て、「ただの生徒がトロフィーを渡すよりも執事が渡すほうが盛り上がりそう」と考え、渡す役を頼んだのだった。


 倫行は、そういうことならと引き受け、今壇上に立ち、実際盛り上がっていた。

 トロフィーを受け取るのがメイドというのも相乗効果を生んでいる。


「お、おめでとうございます、お、お嬢様」


 倫行が、実行委員長に指示された通りの言葉で祝福し、トロフィーを渡した。


 ワーーーーーッ


 観客が一段と湧いた。


「何で佐藤君が?」


 ビックリな希世子。


「そ、それは後で説明する。そ、それじゃ」


 恥ずかしさに倫行がさっさと退場しようとした。

 しかし、


「おーっと? もしかして二人は、話題のバトラー&メイド喫茶のクラスの人かな?」


 司会者の質問に足を止めた。


「そ、そうです」


「はい」


 倫行と希世子が答える。


「いや〜、こんな美女と同じクラスだなんて、執事君が羨ましい」


 司会者が倫行に話を振った。


「執事君も三上さんのこと綺麗だと思うよね?」


「え? あの、ええと……はい」


 倫行が赤い顔で肯定した。


「(佐藤君に綺麗って言われたーーーーーーーーーーっ!)」


 希世子が心の中で歓喜した。


「(私の美人は佐藤君にも通じてたのね! よくやったわ司会者!)」


 褒めてつかわした。


「あれれ? なんだか顔が赤いけど、もしかして執事君、彼女のことちょっと気になる存在……とか?」


 司会者の踏み込んだ質問。


「(なんてこと聞くのよーーーーーーーーーー!?)」


 希世子が責める。


「(ナーーーーーーーーーーイス!)」


 ナイスだった。


「……」


 倫行が言葉に詰まった。

 観客から囃し立てる声がかけられる。


「(どうなの佐藤君!?)」


 希世子が心の中で問いただし、


「それは……」


 ようやく倫行が口を開き、


「な〜んて野暮な質問はやめておきましょう」


 司会者が遮った。


「(聞きなさいよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!)」


 心の声が漏れそうなほど希世子が叫んだ。


「というわけで、ミスコン優勝者は三上希世子さんでしたー!」


「(ヘボ司会者ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!)」


 希世子が毒を吐いてミスコンは終了した。



 ……



 一時間後。


「水泳部の焼きそば美味かったな」


「この文芸部の同人誌、読み応えあるわよ」


 二人は、あちこち見て回り、今は教室に戻る途中だった。


「あ、三上、最後にクレープ食べないか?」


 倫行がクレープを売っている屋台へ誘った。


「いいわね」


 希世子がのった。


「チョコバナナクレープ一つと」


「私も」


 二人が注文してしばし待つ。

 希世子が倫行を横目に見た。


「佐藤君」


「ん?」


「さっき……」


 希世子は、司会者の質問の答えを聞こうとした。

 だがやめた。


 焦ることはない。

 今はどうかわからない。

 今でなくても、いつか好きになってくれればいい。


「いつか……ね」


「?」


 倫行が首を傾げた。


「嫌だーーーーーーーーーー!」


 突然近くから叫び声が聞こえた。

 何事だと見てみれば、勇美だった。

 クラスの女子に引っ張られて、どこかへ連れて行かれようとしている。


「どうしたの?」


 希世子が聞くと、巴が答えた。


「勇美がミスターのコンテストにエントリーされたの! 三上さんが優勝しただけじゃなく勇美も優勝したらウチのクラス儲けまくりよ!」


 ということだ。


「さぁ、行くわよ!」


 巴たちが勇美を連行して行く。


「あたしはミスターじゃない! あたしは女だーーーーーーーーーー!」



 ……



 勇美は、二位の男子に大差をつけて優勝した。

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