76.夫婦のフリして
日曜日。
図書館からの帰り道。
希世子がスーパーマーケットの前を通るとちょうど倫行が出てきた。
「佐藤君」
平静な表情だが、内心ひゃっほーな希世子。
「やぁ、三上」
倫行が買い物袋を持っている手を上げた。
「お買い物?」
「ああ、母さんに頼まれて。三上は?」
「図書館に行ってたの」
と話していると、
「あっ、倫行君!」
少し離れたところから三十歳くらいの女性が倫行を呼んだ。
右手には赤ん坊が乗っているベビーカー、左手は三、四歳くらいの男の子と手を繋いでいる。
「あ、長谷川さん。こんにちは」
倫行が気づくと、女性はあわてた様子で倫行のほうへ歩いてきた。
「ご近所さんなんだ」
倫行が希世子に説明。
「倫行君、ごめん、ベビーカー見ててくれない!? この子がトイレ行きたいって!」
手を繋いでいる男の子が内股でモジモジしてる。
「お安い御用です」
倫行が引き受ける。
「ありがと〜」
女性は感謝し、希世子のほうを見て、
「あら、倫行君の彼女? 突然だけどお願いします」
とベビーカーを預け、トイレへと走って行った。
「(彼女……)」
希世子が言葉を噛み締める。
「(彼女って思われたーーーーーーーーーーっ!)」
喜びを爆発させた。
もちろん心の中で。
倫行が照れた表情で頬をポリポリとかいた。
「も、戻ってきたら、ちゃんと説明しないとだな」
「そうね」
希世子は、落ち着いた顔で答えて、
「(彼女ーーーーーーーーーーっ!)」
心の中で喜んだ。
「アー、アー」
赤ん坊の声が二人を呼ぶ。
「ちょっと待ってましょうね」
希世子が赤ん坊に話しかけてしゃがんだ。
赤ん坊は、手を前へ伸ばしている。
「まぁ、小さい手」
希世子が微笑み人差し指で赤ん坊の手をチョンとつついた。
ギュ
赤ん坊が希世子の指を甘い力で握った。
「(キュン!)」
キュンときた。
「ハハ、可愛いなぁ〜」
倫行も相好を崩して赤ん坊を眺めた。
そこへ、老夫婦が通りかかった。
「こりゃ若いお母さんだ」
と希世子を見ておじいさん。
「新婚夫婦かしらね」
と二人を見ておばあさん。
老夫婦は、スーパーマーケットの入り口へと歩いて行った。
「(新婚夫婦……)」
希世子が老夫婦の背中を見送る。
老夫婦が店の中に入ると、倫行のほうを見た。
目が合った。
「(佐藤君と新婚夫婦ーーーーーーーーーーっ!)」
希世子は、頭から湯気が出そうなほど顔を赤らめた。
倫行もみるみる顔が赤くなった。
「な、何を言ってるんだろうな」
「そうね(新婚夫婦ーーーーーーーーーーっ!)」
「俺たちどう見ても高校生なのに」
「本当ね(夫婦ーーーーーーーーーーっ!)」
「トイレまだかな〜」
「まだね(ふーーーーーーーーーーふーーーーーーーーーーっ!)」
……
彼女と夫婦の気分を味わえた一日だった。




