75.大人のフリして
男子がポッキーを食べながら話している。
「大人の女性っていいよな」
「ああ、憧れる」
二人とも、何を想像しているのか表情がとろけていた。
「ふむふむ、大人の女性か」
通りすがりの希世子がポッキーをつまんでコクコク頷いた。
……
席に戻ると、倫行が腕を組んで机に置かれた缶コーヒーをじっと睨んでいた。
「佐藤君、その缶コーヒーがどうかしたの?」
「さっき自販機で、間違ってブラックコーヒーを買ってしまったんだ」
「まぁ」
「だが俺は、舌が子供だからかブラックが苦手でな……」
困った顔でまた缶コーヒーを睨む。
「(これよ!)」
話を聞いていた希世子がひらめいた。
「だったらそれ、私がもらってもいいかしら?」
「三上が?」
「お金を払うわ」
「それはいい。でも、三上はブラックを飲めるのか?」
「ええ」
「コーヒーのブラックを飲めるなんて、三上は大人だなぁ」
倫行が尊敬の眼差し。
「そんなことないわよ(よし! よし! よし!)」
すました顔のまま心の中でガッツポーズ。
大人の女性と思われる作戦成功だった。
「じゃあこれ、いただくわね」
「どうぞ」
希世子は、缶コーヒーを受け取ると、プルタブを開けて一口飲んだ。
「(にが……)」
にがかった。
本当は、希世子もブラックを飲めなかった。
「(でも、佐藤君に大人の女性と思わせないと。さぁ佐藤君、ブラックを飲む私の虜になりなさい!)ゴクゴク、ああ、美味しいわ〜(にがいよ〜……)」
希世子は、無理して飲んだ。
「すごいな、三上は。俺なんて甘いコーヒーじゃないと無理だ。まだまだ子供だな、ハハハ」
倫行が明るく笑う。
恥ずかしがることもなく見栄を張ることもない。
そんな倫行の姿を見て希世子は、
「(……自分のことを子供と認められることのほうが、大人なのかもしれないわね)」
ふとそう思った。
「三上は、大人の女性だな」
「(やったーーーーー! 大人の女性って言われたーーーーー!)やっぱりコーヒーはブラックね、ウフフ」
でも見栄を張り通した。




